第734回:苦労は買ってでもしろ!? イタリアで生き残るアルファ・ロメオのヤングタイマー
2021.12.02 マッキナ あらモーダ!2026年まで新車攻勢
2022年からアルファ・ロメオは新型車攻勢に転じるらしい。
ステランティスグループで同ブランドのCEOを務めるジャン=フィリップ・インパラート氏が2021年10月、販売店の会合で明らかにしたところによると、2022年以降、1年に1台ずつ新型車を投入する計画だ。
その先駆けとなるのは、2019年のジュネーブモーターショーでコンセプトカーを公開済みの新型クロスオーバーSUV「トナーレ」だ。欧州メディアによると、2021年12月に生産を開始し、2022年3月に発表。内燃機関のほかBEV(電気自動車)も用意される。
ブランド全体としては、2027年までに全車電動化を達成するという。
「1年1台」には、日本で言うところのマイナーチェンジも含まれているとみられる。
それはともかく、気になるのはラインナップである。旧FCA時代である2018年のプロダクトポートフォリオでは、「ジュリエッタ」の後継車が計画されていたが、2019年におけるリポートでは、それが消滅している。同様に、いくつかのスポーティーなモデルも計画から落とされている。
いっぽうで、トナーレよりもさらにコンパクトなCセグメント級クロスオーバーが計画されており、こちらにはBEV仕様が準備されるという。
税務署ホイホイ
ところで、日本では車齢20~30年前後の、いわゆるヤングタイマー系アルファ・ロメオを今でも時折見かける。本国イタリアではどうか? というと、路上でそうした年代のアルファ・ロメオを目撃する機会がずいぶん減少した。
過去四半世紀にわたってイタリアの自動車環境を観察してきた筆者からすると、その理由は3つある。
第1は1990年代末から2000年代初頭にかけて、政府によって複数回実施された環境対策車への買い替え奨励策と、有鉛ガソリンの販売終了である。
加えて当時はディーゼル車がブームであった。当時のアルファ・ロメオにおける主力モデル「145」「146」にもディーゼル仕様は存在した。だがコモンレール方式に切り替わったのはモデル末期だったため、人々は欧州排出ガス基準「ユーロ」の対応世代が古いガソリン仕様やディーゼル仕様のアルファ・ロメオを手放してしまったのだ。
第2は一般的なイタリア人の使用方法である。それは欧州最大級のインターネット中古車サイト『オートスカウト24』で、「アルファ・ロメオ156」を検索すると一目瞭然だ。販売店による出品67台中、走行距離10万km未満は6台しかない。
たとえアルファ・ロメオでも趣味ではなく実用車として使い倒すので、古い個体が残りにくいのである。
第3はイタリア税務当局による大排気量・高出力車オーナーへの締めつけである。今日251HP以上のクルマを購入すると、たとえ中古車であろうと価格が安かろうと原則として税務調査の対象となる。
例えば2006年にデビューした「アルファ・ロメオ・スパイダー3.2JTS」の最高出力は260HPなのでこれに該当してしまう。いわば“税務署ホイホイ”なのである。
前述の中古車検索サイトで、新車時代に極めて高価だったスパイダーのそうした高出力仕様が2万ユーロ(約256万円)前後で放出されているのには理由があるのだ。
つまり、イタリアでアルファ・ロメオのヤングタイマーが少ないのは、周辺環境によるところが大きい。
ところがどっこい生きていた
そうした過酷な環境下で生き延びたアルファ・ロメオには、共通点が見いだせる。2020~2021年に筆者がイタリアで生存確認した個体を見ながら解説してゆこう。
まずはコンパクトなモデルであるということだ。イタリアのドライバーの多くは、自分の身体のような感覚で操れる車体寸法を好む。現行ラインナップよりもサイズが小さいアルファ・ロメオは貴重なのである。
4輪駆動仕様もしぶとく生き残っていることがある。もともと販売台数が少ないので、発見したときのインパクトが大きい。
イタリアにおいて今日コンパクトな4WD車の定番は「スズキ・ジムニー」であるが、アルフィスタで4WD好き、かつ「SUVはちょっと」という場合、ヤングタイマーは今もって貴重なのである。
【写真A】の「アルファ・ロメオ33ステーションワゴン4×4」は自動車専用道路におけるサービスエリアのLPGスタンドで発見した。欧州排出ガス基準の対応年次が古いガソリンエンジンほど自動車税が高額になるため、オーナーは、より税率が低いLPG/ガソリン併用仕様に改造して乗り続けていると思われる。
水平対向エンジンへの愛着が深い人も多い。アルファ・ロメオの量産車で4気筒ボクサーエンジンを初めて搭載した「アルファスッド」には、今日でも熱烈なファンが存在する。筆者の知人であるジュリアーノ氏もそのひとりだ。
「低重心のよさは誰もが知っています。美的な観点からも、時の流れを感じさせない芸術作品といえます」
そして「手を施せば、彫刻のようになります」と言って見せてくれたのが、本人のガレージで撮影された【写真B】である。
ジェントルマンドライバーである彼は、レースにおけるボクサーエンジンについても語る。
「パワーにあふれ、音を上げることが決してない、高い信頼性を兼ね備えたパワーユニットであることを、レースを通じて感じてきました」
ただし、当時の不十分なボディー防さび処理から、もはや実用に供することができる個体は極めて少ない。そうしたなか、アルファ・ロメオ33やアルファ・ロメオ145/146のボクサーエンジン搭載車は、こうしたフィーリングを楽しめる数少ない選択肢なのだ。
カギが隠れているかもしれない
筆者の東京時代の個人的回想をお許しいただきたい。1980年代末から在籍した出版社、二玄社の入社試験でのことである。
役員面接で『カーグラフィック』誌の創刊編集長、小林彰太郎氏から「どのようなジャーナリストになりたいのか?」と質問された。
筆者は小林氏が当時のジャガー会長サー・ジョン・イーガンに対して来るべき新型車「XJ40」の姿について進言したことを挙げ、「私もメーカーに進言できるようなジャーナリストになりたい」と答えたのを覚えている。
あれから三十数年。面会した開発やデザインの担当者を通じて筆者の思いが反映されたと思われるクルマはいまだ存在しない。代わりに、どんどん理想からかけ離れてゆくブランドが大半である。まあ、逆に考えれば、筆者の理想が反映されたばかりに市場で不興を買い、「フォード・エドセル」のごとくカタログ落ちしたら目も当てられないから、これでよいのだろう。
アルファ・ロメオにしても、筆者個人の思いが反映されることは、これからもなかろう。
しかしながら、アルファ・ロメオがこれから成功するカギのひとつは、今回紹介したようなオールドタイマーにあるのかもしれない、と思う今日このごろである。
冒頭のインパラートCEOは、シトロエンに続いてプジョーでCEOを務めた旧グループPSAの出身である。思えば、筆者が最初に会食したのは、シトロエンのファンミーティングであった。トリノ系の生え抜きとは異なる新しいブランド観から、歴史あるアルファ・ロメオを再構築してくれることに期待したい。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、ジュリアーノ・マッツォーリ、大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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