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【スペック】全長×全幅×全高=4855×1910×1690mm/ホイールベース=2810mm/車重=2080kg/駆動方式=4WD/3リッターV6DOHC24バルブ(269ps/6950rpm、30.8kgm/5100rpm)/価格=599万円(テスト車=620万円/リアシートエンターテイメントシステム=21万円)

キャデラックSRXクロスオーバー プレミアム(4WD/6AT)【試乗記】

キャデラックの新境地 2011.03.14 試乗記 佐野 弘宗 キャデラックSRXクロスオーバー プレミアム(4WD/6AT)
……620万円

「クロスオーバー」の名を背負う、2代目「SRX」が日本上陸。新型プレミアムSUVはどのように変わったか? その走りを試した。
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価格もダウンサイズ!?

このキャデラックの新しいSUVはもちろん、従来の「SRX」の後継機種である。しかし、車名の末尾に新しく“クロスオーバー”という単語が追加された。これは単純に気分転換の改名ではなく、「先代とはちがうクルマになった」と明確にアピールするためと思われる。

驚くべきことに……というか、いかにも今っぽいというか、あるいはこれが経営破綻を経た新生GMなのか、とにかく新型「SRXクロスオーバー」は、先代のSRXに対してボディが小さくなった。それにともない3列7人仕様は廃止されて、エンジンもV8をなくしてV6に統一。しかも、基本レイアウトも縦置きFRベースから横置きFFベースに大転換。GMでいうところの「アーキテクチャー(プラットフォーム)」は先代の“シグマ”から“シータ”に宗旨替えである。

もっとも、設計年次の違いもあって、実際の明らかなダウンサイズは全長だけで、意外にも車重もほとんど軽くなっていないが、3.6リッターだったV6エンジンの排気量は3リッターまで縮小。さらには価格も約100万円ダウン! キャデラックが競合しようとしているブランドでいえば、先代SRXが「ポルシェ・カイエン」や「BMW X5」を仮想敵としていたのに対して、新しいクロスオーバーは「レクサスRX」あたりをおおいに意識しているのだろう。
それはともかく、よりにもよってキャデラック(失礼!)が、ダウンサイズにデフレ戦略……にいち早く打って出たとは興味深い。

前席には前後高さなどの調節が可能な8ウェイパワーシートやシートヒーター、ベンチレーション機能を装備。内装色はブラックも選べる。
前席には前後高さなどの調節が可能な8ウェイパワーシートやシートヒーター、ベンチレーション機能を装備。内装色はブラックも選べる。 拡大

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フロントグリルと同じ五角形のモチーフが印象的なインテリア。本革張りのシートや本革巻きステアリングホイールは全車標準装備。
キャデラックSRXクロスオーバー プレミアム(4WD/6AT)【短評】

アメ車きっての国際派

もうひとつの驚きは、つくり込みや人間工学、そしてドライビングテイストに、アメリカの方言らしきものが見事なまでに払拭(ふっしょく)されていることだ。キャデラックはGMのみならずアメリカ車きっての国際派として売る。だからこそ、GMジャパンもキャデラックだけはこの極東地域での展開を縮小しない。

たとえばメルセデスやBMW、レクサスから乗り換えて、ドアを開けてドラポジを合わせて、都心部を徘徊(はいかい)して、ついでに世界屈指にチャレンジングな箱根を攻めても、なんら違和感がない。これは国際派高級ブランドとては素直に好ましいことだ。

写真をクリックすると後席が倒れるさまが見られます。
キャデラックSRXクロスオーバー プレミアム(4WD/6AT)【短評】

ステアリングのチルトとテレスコ調整に加えて、ペダルまで前後調整可能だから、なみいるライバルと比較しても理想的なドラポジは見つけやすく、かつてのように指の短い日本人にはウインカーレバーが遠い……なんてこともない。

U字レールと伸縮アームで、取りつけたまま自由にパーテーションを変えられる“カーゴマネージメントシステム”も日本車顔負けだ。
グリルと同じ五角形モチーフが内外装にこれでもかとリフレインされるのは数年前からの独自デザインだが、樹脂パネルの仕上げにも、各部の建てつけその他にも、ツッコミどころはほぼ存在しない。

キャデラックSRXクロスオーバー プレミアム(4WD/6AT)【短評】

快適至極、飛ばして安心

乗っても見事にアメリカなまりがない。かつてのキャデラックは、ステアリングの中立付近やスロットルの初期応答だけが妙に敏感で、それはつまり「アメリカ人がイメージする欧州車風味」だったわけだが、そうしたこれ見よがしの過剰演出もほとんど消えた。パワステこそアメ車らしい軽めの設定だが、切りはじめからフル舵角(だかく)付近まで、じつに安定した正比例なレスポンス。運転席がホイールベースのほぼ中間にあり、またFFベースだからか前輪の位置が把握しやすく、車両感覚は日欧の同サイズSUVと比較しても優秀な部類に入る。ダウンサイズとはいっても絶対的には小さなクルマではないが、サイズによるストレスは驚くほど少ない。

4WDシステムはハルデックスカップリングによるオンデマンド式で、今回試乗した上級の“プレミアム”にはリアルタイム可変ダンパーも備わっていたが、それらのハイテクが黒子に徹しているのもいい。事前知識がなければ4WDにも可変ダンパーにも気づかないだろう。路面を滑るようにピタッとフラットな乗り心地としっとりと安心感の高いグリップ感が印象的で、そして過剰動力を巧妙に吸い出す4WDによってトルクステアもまったく顔を出さない。この「快適至極だけど、飛ばして安心」の乗り味は、ちょっと大げさにいえば、フランス車のようですらある。これはワタシ的には最大級の賛辞である。

いやあ、マジで驚いた。良くも悪くも「テキトーでおうようこそアメ車の魅力」と考える伝統的なアメ車好きには、これは見事に肩すかしだろう。SRXクロスオーバーはそれくらい「ついにブレークスルーしたか」と思わざるをえないキャデラックなのだ。

(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)

ラインナップは、18インチホイール装着の標準グレード「ラグジュアリー」と試乗した上級グレード「プレミアム」の2つ。「プレミアム」には、20インチホイールやスポーツサスペンションと電子制御リアルタイム ダンピング ショックアブソーバが備わる。
ラインナップは、18インチホイール装着の標準グレード「ラグジュアリー」と試乗した上級グレード「プレミアム」の2つ。「プレミアム」には、20インチホイールやスポーツサスペンションと電子制御リアルタイム ダンピング ショックアブソーバが備わる。 拡大
「プレミアム」のリアシートには、シートヒーター、オーディオコントロールが標準装備される。
「プレミアム」のリアシートには、シートヒーター、オーディオコントロールが標準装備される。 拡大

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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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