フォルクスワーゲン・ゴルフTDIスタイル(FF/7AT)
これぞ真打ち! 2021.12.21 試乗記 8代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に、2リッターのディーゼルターボエンジンを搭載した「TDI」モデルが登場。新しいゴルフと新世代ディーゼルエンジンの組み合わせは、私たちにどのような走りを味わわせてくれるのか?エンジンを諦めたわけではない
自ら「グローバルなEV(電気自動車)のマーケットリーダーになる」と表明し、この先多額の投資を行うことを明らかにしたフォルクスワーゲン。実際に次々と新しいEVを発表し、パワートレインの電動化にまい進している。
一方、近い将来の“EV専業化”をうたうメーカーも現れるなかにあってフォルクスワーゲンが公にしているのは、「2030年までに新車販売台数の50%をEVとし、2040年には世界主要市場での新車のほぼ100%がゼロエミッションになると予想する」というフレーズである。
その文言からは、必ずしもこの先のラインナップをEVだけに限定せず、パワーユニットとして内燃機関やそれを組み込んだハイブリッドシステムの搭載を続ける可能性にも含みを残しているように思える。前述のEV専業化をうたうのが先進国市場を対象とした“プレミアムブランド”を中心としているのに対し、充電インフラの問題ひとつとっても、この先そう簡単にEVが普及するとは考えられない新興国向けのベーシックモデルも扱っている、フルラインナップメーカーならではの事情といえるのかもしれない。
さて、今回お届けするのは「TDI」の名称からも察しがつくように、最新世代のゴルフ=ゴルフVIIIに追加設定されたディーゼルエンジン搭載バージョンである。過去の過ちによって、ディーゼルエンジンを搭載する乗用車全体のイメージを大きく毀損(きそん)させたフォルクスワーゲンだが、だからといってそれをすんなり諦めることはしなかった点に、長年にわたってこのメカニズムを磨き上げてきたという自信と葛藤が見え隠れする。
多岐にわたる新型「TDI」の見どころ
2022年1月7日から販売されることが発表され、バリエーションの展開がちょっと寂しかった日本でのゴルフVIIIシリーズに彩りを添えることになったTDI。そのラインナップは、「eTSI」と名乗るターボ付きの直噴ガソリンエンジンモデルに見劣りすることのない、4グレードの構成だ。
エントリーグレードから、同一車線内での全車速追従クルーズコントロール「トラベルアシスト」やフルデジタルメーターを標準装備とするほか、走行モードを切り替えられる「ドライビングプロファイル」機能、リアビューカメラ、歩行者/サイクリスト検知機能付きのエマージェンシーブレーキといった機能・装備も上級グレードと同様に標準で採用するなど、装備についてはどれを選んでも“必要にして十分以上”の満足度が得られるという設定も特徴になっている。
同時に、従来型に対して大きな進化を感じられるのが、肝心の心臓部。2リッターのターボ付き直噴ディーゼルユニットは、150PSという最高出力は不変だが、360N・mという最大トルク値は20N・mの上乗せ。しかも、その発生回転域は従来型の1750-3000rpmから1600-2750rpmへと、わずかながらも確実に低いほうへとシフトしている。
こうしたパフォーマンス上の変化に加えて、これまで1系統だった尿素SCRシステムを2系統化した「ツインドージングテクノロジー」の採用による排ガス浄化性能のアップや、騒音の低減など、新エンジンは多岐にわたるリファインがアナウンスされていて、WLTCモードによるカタログ燃費も従来の18.9km/リッターから20.0km/リッターへと引き上げられている。
このように、ディーゼルを諦めるどころか確実に進化させてきたフォルクスワーゲンの最新作が、新しいゴルフTDIの心臓ということになる。
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全方位的に進化を遂げた新エンジン
果たせるかな、世代交代なったゴルフTDIの走りは、日本への導入が21年ぶり(!)ということで待ちわびていた人を狂喜乱舞させた(?)、従来型の初ドライブ時を上回る、大いなる好印象を抱かせてくれるものだった。
まずはそのパワー感、トルク感が、前述したスペックの差異をしのぐ印象で従来型を確実に上回っている。1500~2000rpm付近でのアクセル操作に対する追従性が特に優れ、常用シーンでも“おいしい領域”をしっかり味わえる。もっとも、この点は事前にある程度想像がついていた事柄。それに加えて感激至極だったのは、常用域を超えてより高回転側まで使っても、ディーゼルエンジンにままみられる早々な頭打ち感がまるでなく、回転の伸びが多くのガソリンエンジンに勝るとも劣らない印象であったことだ。
実はこのモデル、エンジンからの透過ノイズもすこぶる小さいので、それもこうした印象に加担することになっていたようだ。いずれにしても、ここまでパワフルで回転伸びがよく、そして静粛性にも優れるという何拍子もそろったディーゼルモデルには、久々に出会った気がする。
確かに、一時は“身から出たサビ”によって、日本のユーザーにも「フォルクスワーゲンのディーゼルモデルなんかには金輪際乗りたくない」という思いを抱かれることがあったかもしれない。しかし、フォルクスワーゲンの開発陣はそうした汚点を過去のものとするべく、汚名をすすぐに足るディーゼルユニットを提案してくれたように思う。
気になるところもあるけれど
同時に、このモデルで走ると気分爽快になれるのは、そのフットワークの仕上がりがガソリンモデルと同等かそれ以上にバランスよく感じられるからだ。
TDIモデルのリアサスペンションは、ガソリン仕様のeTSIでは1.5リッターの上級モデルだけに適用される4リンク式となる。「だから」というつもりはないが、その乗り味はすこぶる上質で、ハンドリングも自然で自在。ディーゼルだからといってノーズの重さを意識させられることも皆無であった。
一方、これは「クルージング中は後続車に余計なサインを送ることを避けたいので、できるだけブレーキペダルにはタッチしたくない」という自身のドライビングスタイルとの相性でもあるのだが、新型ゴルフ全般に共通するエンジンブレーキの利きの弱さには、どうしてもなじめない。これは、「D」レンジで走行中にアクセルオフすると、可能な限りコースティング状態に持ち込んで燃費を稼ぎにいくという制御によると思われるのだが、ならばと「S」レンジを選べば、当然低いギアを引っ張り気味な走りとなって、燃費に悪影響を及ぼすのは必至である。
加えて、走行中、白線にタッチするとステアリングホイールに望まない操舵トルクが発生するのを嫌ってレーンキープアシストをオフにしても、次の始動時には自動的にリカバリーされてしまうのも、少々うっとうしいポイントだった。
「これぞ真打ち!」と思えるTDIモデルに乗ると、そうしたささいな部分がこれまで以上に気になってしまった。それでも、自身にとって“最良のゴルフ”がこの最新のTDIであることには、疑いはないのだが。
(文=河村康彦/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフTDIスタイル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1475mm
ホイールベース:2620mm
車重:1480kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/3000-4200rpm
最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)/1600-2750rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91W/(後)225/45R17 91W(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:20.0km/リッター(WLTCモード)
価格:403万8000円/テスト車=467万6000円
オプション装備:ディスカバープロパッケージ(19万8000円)/テクノロジーパッケージ(17万6000円)/ラグジュアリーパッケージ(23万1000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1205km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。