レクサスNX350“Fスポーツ”(4WD/8AT)
ひとまず追いついた 2021.12.23 試乗記 2035年に電気自動車(BEV)専業ブランドとなることをぶち上げたレクサスだが、足元では内燃機関の進化の手も休めてはいない。とりわけ新型「NX」には最新鋭の技術を詰め込んだ新しい2.4リッターターボエンジンが搭載されている。果たしてその仕上がりは?装備を一気にデジタライズ
メカニカルアーキテクチャーも電子アーキテクチャーが完全刷新されただけでなく、新たなエンジンや四駆メカニズムの投入によるバリエーション拡大など、とにかく特筆点が多すぎるのが新型NXだ。前回に次いで後編ともいえる今回は、新たなインフォテインメントを得た室内環境を掘り下げながら、コンベンショナルな内燃機モデルを紹介したい。
NXのラインナップはパワートレイン別に「450h+」「350h」「350」「250」の4つに分かれ、おのおのに標準とスポーティー系の“Fスポーツ”、ラグジュアリー系の“バージョンL”といったグレードが設定されている。そのうち、今回紹介する350には“Fスポーツ”のみ、250には標準と“バージョンL”の2グレードが用意される。駆動方式は350が4WDのみ、250はFFと4WDから選べるというあんばいだ。
装備のデジタライズが一気に進んだことは、乗降の時点から伝わってくる。ドアの開閉は物理的にノブを引く従来の動作から、「eラッチ」と名づけられた電磁ボタン式に改められた。ボタンを押せばドアがアンロックされることで、ガチャガチャとメカメカしい動作から解放されるというのは副産物のひとつで、効能として最も価値があるのは、ブラインドスポットモニターのセンサーとの連携で、ドアを開く際に危険と判断されればロックを解除しないなど、ケアレスミスによる事故の防止が可能になったことだ。
イグニッションをオンにすると流れるスタートアップメロディーも変わり、いかにもメモリーやプロセッサーがリッチ化されたことが伝わってくる。クリアランスソナーやベルトリマインダーなどの警告音も確実に注意喚起しながらも耳当たりが柔らかいものへと変更された。これらの音質には著名な音楽プロデューサーも加わってチューニングを重ねているという。
サクサク動くインフォテインメント
内装のデザインは2019年に発表されたレクサスのBEVコンセプトカー「LF-30エレクトリファイド」で披露された「TAZUNA(タズナ)コンセプト」に着想を得ている。ステアリングスイッチとヘッドアップディスプレイの連動により、視点移動を少なくしながらさまざまな機能を操るべく、ステアリング左右の十字キーに多様な機能を持たせたうえ、その機能をモニター上で確認できるタッチトレーサーオペレーションを新たに採用。インフォテインメントのコントロール系もピンチングやスワイプといったコマンドに対応し、スマホやタブレットのような感覚ですべての機能をコントロールできる。その応答速度にもストレスはなく、サクサクと滑らかな操作感だ。
ドライバー側にやや傾けて配される14インチ(標準グレードは9.8インチ)のタッチスクリーンは、ナビや音楽だけでなく車両設定全般もつかさどる、ハイテク化されたNXの新たな心臓部ともいえるものだ。画面そのものは下部の空調温度ダイヤルからつながっており、空調をタッチパネルによって操作する一方で、視界にまつわるデフロスター機能にはメカスイッチを残しているあたりに安全に対するプライオリティーがうかがえる。
これらの室内環境は、価格帯による差異はあれど、今後のレクサスの主要モデルに水平展開されていく前提だ。タッチ操作にハプティクスなどの応答技術の加えようがありそうとか、地図展開時の前方表示領域が狭いことが時折あるとか、ちょっと気になるところもあったが、オーバージエアーアップデートに対応していることもあり、今後はさまざまな点が改善されていくだろう。あるいはそこまでの言及はないものの、このインフォテインメントシステムが、新たな機能を無償なり有償なりで提供するためのプラットフォームとなる可能性もある。
個人的にはレクサス対ドイツ御三家という枠でみたとき、巷間(こうかん)言われるBEVへの出遅れはまったく心配していなかった一方で、むしろ車内のデジタル化にまつわる遅れのほうがヤバいだろうと思っていた。この領域でキャッチアップできたのは、今後のレクサスの他のモデルにとっても大きな収穫となるだろう。
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350専用のシャシー補強
新型NXのコンベンショナルモデルのグレード構成は、従来の「300」を挟み込むかたちで250と350が新たに設定されたと考えるとわかりやすい。エンジンは共に高速燃焼による熱効率の改善を図ったダイナミックフォースユニットの直列4気筒で、250の側は北米仕様の「RAV4」や「カムリ」に搭載される2.5リッター自然吸気の「A25A-FKS」、350の側は新設計となる2.4リッターターボの「T24A-FTS」となる。
279PSのピークパワーを6000rpmで発生する一方で、430N・mの最大トルクを1700rpmからマーク……と、今どきのダウンサイジング系ターボユニットらしいスペックを持つT24A-FTSは、その名から察するに従来の3.5リッターV6「2GR」系ユニットの代替という側面も今後は担うのだろう。
バリエーションは“Fスポーツ”のみ、そして駆動方式は四駆のみというNX350は、このクルマのスポーティネスを最も先鋭化させたグレードだ。他グレードとのやる気の違いは目に触れない床下に見てとれる。それでなくても剛性たっぷりの新しいボディーなのに、前から後ろからの補強パネルやブレースのはい回りっぷりは、ここまでやるとバキバキに固まっちゃうんじゃないかとこっちが心配になるほどだ。聞けばこれらは下山テストコースでの走り込みで表れたネガをつぶすために必要だったとのことで、いかにNX350を特別なダイナミクス基準でつくり込んだかが伝わってくる。
その走りをさらに先鋭的なものにしているのが電子制御フルタイム4WDシステムだ。イニシャルをフロント:リア=75:25とし、最大で50:50にまでリニアに駆動力を可変するそれの主な狙いは、後軸側の積極的な稼働でクルマをしっかり曲げていくことにあり、その性格上、NX350の専用装備となる。
……と、そういう触れ込みを頭に入れるほどに、なんだか張り切りすぎちゃって、やたらと曲がりたがりなクルマになっちゃってるんじゃないかと心配になるわけだが、NX350はいざ走り始めてみるとタウンスピードでの乗り心地的には他のグレードと大差のない丸さを備えていた。ちなみにドライブモードを「スポーツ」に入れてみても可変ダンパーのレートは締まれどそのアラが微振動や突き上げなどには表れにくい。微小入力域からダンピングがしっかり立ち上がるおかげで常速域の転がり感がかなりスキッと仕上がっているのはグレードを問わず新型NXの特徴だ。
わずかなウイークポイントも
今回試乗した車両はすべて20インチのランフラットタイヤ「ブリヂストン・アレンザ001」を履いていたが、そのデキのよさもNXの乗り心地の印象を引き上げた一因だろう。開発にあたっては使用温度域や走行可能距離などの社内規定値を一部緩和しながら、可能な限りラジアルタイヤに近い特性を引き出すように試作を繰り返したという。
そのタイヤはワインディングロードで負荷を高めても横Gに負けない剛性を備えている。そのカチッとしたフィードバックとも相まって、NX350の身のこなしは確かに爽快だ。後輪側の駆動力の存在感は確かに旋回力とリンクしているが、ゴリゴリとインに食い込むほど安直な効き味ではない。旋回のリズムをつかむにちょうどいいくらいの加わり方で、姿勢をきれいに安定させながら279PSをきっちりと路面に伝えていく。物騒な筋交いの効果が発揮されるのは相当に高負荷な領域だが、そこまでに至らぬ常識的な領域で、乗り味がパツパツとか曲がり方がとげとげしいとかいった“痛い”癖を抱えていなかったのには安心した。
2000rpm前後では高速燃焼ならではの燃焼音だという耳ざわりな濁音が気になったエンジンも、高回転域では心地よいサウンドを聴かせながら6000rpm向こうまではスキッと回ってくれる。前型の300に搭載されていた「8AR-FTS」型2リッターターボに比べるとがぜんロングストロークだが、回り方はむしろT24A-FTSのほうが爽快だ。ちなみに250のA25A-FKS型も特性は素直だが、さすがに車格に対してパワーはトントンといった感じで、人も荷物もそんなに乗せないというユーザーの普段乗り向けかなという印象だった。
そんなわけで、総じて好印象な新型NXの乗り味においての数少ないウイークポイントは、サスの伸び側の動きがかなり速く、伸び方に思いやりがないことだ。それが具体的にどういう乗り味になって表れるかといえば、車体のロールの収まり側の動きが性急でキュッと引き留めるように水平に戻ろうとするため、乗員の動き自体は小さくても、揺すられ方がとげとげしく感じられるということになる。それは350に最も顕著に表れるが、他のグレードにも共通してそういう傾向が感じられた。この動きをもう少し穏やかにならして収まりにふわっと優しい余韻が残せれば、メルセデスともBMWとも異なる大物感を匂わせるフットワークになるだろう。そういった惜しさはあるものの、新型NXは総合力でみれば欧州勢ともきっちり伍(ご)せるところに立っていると思う。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
レクサスNX350“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4660×1865×1660mm
ホイールベース:2690mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:279PS(205kW)/6000rpm
最大トルク:430N・m(43.8kgf・m)/1700-3600rpm
タイヤ:(前)235/50R20 100V/(後)235/50R20 100V(ブリヂストン・アレンザ001 RFT)
燃費:12.2km/リッター(WLTCモード)
価格:599万円/テスト車=694万5900円
オプション装備:“Fスポーツ”専用オレンジブレーキキャリパー<フロント「LEXUS」ロゴ>(4万4000円)/三眼フルLEDヘッドランプ<ロー&ハイビーム>+ヘッドランプクリーナー+LEDコーナリングランプ+寒冷地仕様(20万6800円)/パノラミックビューモニター<床下表示機能付き>+パーキングサポートブレーキ<後方歩行者>+緊急時操舵支援<アクティブ操舵機能付き>+フロントクロストラフィックアシスト+レーンチェンジアシスト(9万5700円)/別体型ディスクプレーヤー(13万7500円)/ルーフレール(3万3000円)/デジタルキー(3万3000円)/おくだけ充電(1万3200円)/後席6:4分割可倒式シート<電動格納機能付き>+後席シートヒーター(7万7000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(24万4200円)/デジタルインナーミラー(4万4000円)/ITSコネクト(2万7500円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1070km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:---km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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