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第224回:見直したぜ! おっさんポルシェ

2022.01.24 カーマニア人間国宝への道 清水 草一

「996」を「997」に買い替えたS氏

中古フェラーリ専門店コーナーストーンズに遊びにいったときのこと。1台の「ポルシェ911」が、お店の駐車場に滑り込むのが見えた。

どこのエリートだろうと思って凝視すると、それは997型の911。私は997型と991型と992型の区別がイマイチつかず、すべて「エリートが乗る最新の911」に見える。もちろん993型までの空冷モデルは、「エリートが乗る空冷の911」だ。残る996型だけが、「おっさんポルシェ」に分類されるのである。

ところが、そのエリートが乗るはずの997から降りてきたのは、かなり標準的なおっさんだった。

オレ:あれ? あのおっさんは……。
エノテン(コーナーストーンズ代表・榎本 修氏):Sさんですよ。最近996から997に買い替えたんです。
オレ:マジで~~~~~~~っ! 

私は店から飛び出して、S氏のもとに駆け寄った。

オレ:買い替えたんですか!?
S氏:ええ。思い切って。
オレ:せっかくナベちゃん(自動車ライターの渡辺敏史氏)も、Sさんの後を追うようにおっさんポルシェを買ったのに!
S氏:渡辺さん、僕と高校が同じなんです。よろしくお伝えください。
オレ:了解です。ところで、これ、おいくらでした?
S氏:前期型のティプトロなので、500万円ちょっとです。996の下取りが思ったより高かったんで、買い替えられました。
オレ:どれくらい?
S氏:300万円ちょっとくらいです。
オレ:ええ~~~っ!

久しぶりに会ったモテないカーマニア仲間のS氏(左)。彼はいつのまにか「おっさんポルシェ」こと996型「911」を、ひとつ世代の新しい997型に買い替えていた。
久しぶりに会ったモテないカーマニア仲間のS氏(左)。彼はいつのまにか「おっさんポルシェ」こと996型「911」を、ひとつ世代の新しい997型に買い替えていた。拡大
モテないカーマニア仲間S氏の新しい愛車、997型「ポルシェ911」。車両は前期型の「ティプトロニックS」で、購入金額は500万円ちょっとであったという。
モテないカーマニア仲間S氏の新しい愛車、997型「ポルシェ911」。車両は前期型の「ティプトロニックS」で、購入金額は500万円ちょっとであったという。拡大
かつてのS氏の愛車である「おっさんポルシェ」こと996型「911」。997型の購入にあたり、300万円ちょっとで下取りされたという。996型も値上がりしているのか?
かつてのS氏の愛車である「おっさんポルシェ」こと996型「911」。997型の購入にあたり、300万円ちょっとで下取りされたという。996型も値上がりしているのか?拡大
自動車ライターのナベちゃんこと渡辺敏史氏(左)も、S氏の後を追うように「おっさんポルシェ」こと996型「911」を購入。なんとS氏とナベちゃんは、同じ高校の出身なのだった。
自動車ライターのナベちゃんこと渡辺敏史氏(左)も、S氏の後を追うように「おっさんポルシェ」こと996型「911」を購入。なんとS氏とナベちゃんは、同じ高校の出身なのだった。拡大
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筑波で「997」の実力を知る

S氏は2年前、300万円弱でおっさんポルシェ(996後期型「ティプトロニックS」)を買ったはず。つまり、おっさんポルシェも値上がりしているらしい! 

フェラーリも、不人気だった「348」が1000万円まで値上がりしちゃってるので、さもありなんだが。

S氏:どうぞ、試乗してください。
オレ:ありがとう! じゃちょっとだけ。

997に乗るのは、いったい何年ぶりだろう。まったく覚えてないくらい久しぶりだ。何年前に発売されたのか調べたら、2004年だったので、たぶん17年ぶりなのだろう。

思い起こせば、エノテンも中古の997型カレラ(ティプトロニックS)に乗っていた時期があった。当時「F355」に乗っていた私は、エノテンの997と筑波サーキット コース1000で対決。スタートで前に行かれたものの、1コーナーで抜き返してそのままリードを保ち、勝利を収めたのだった。

が、997の速さは十分で、予選でのタイム差はわずかだった。おっさんくさいと評判のティプトロも、スタートではアクセルを踏むだけでロケットスタートが可能。薄い低速トルク+繊細なクラッチのF355は、ダッシュで置いていかれ、エノテンが1コーナーでアンダーを出さなければ負けていた。あのアンダーも、わざとだった可能性がある。なにしろエノテンはフェラーリ屋ですから!

そんな思い出が枯れ野を駆け巡りつつ、私は997のエンジンに火を入れ、走り始めた。

こ、これは……。

当連載の第161回「涙が出るぜ! おっさんポルシェ」で紹介した当時のS氏(左)と私。S氏は確か150万円ほどの激安「メルセデス・ベンツSクラス」から、そのころ断然不人気車だった996型「911カレラ」の「ティプトロニックS」(後期型)に買い替えたのだった。
当連載の第161回「涙が出るぜ! おっさんポルシェ」で紹介した当時のS氏(左)と私。S氏は確か150万円ほどの激安「メルセデス・ベンツSクラス」から、そのころ断然不人気車だった996型「911カレラ」の「ティプトロニックS」(後期型)に買い替えたのだった。拡大
中古フェラーリ専門店コーナーストーンズのエノテンこと榎本 修代表は、13年前に997前期型の「911カレラ」(ティプトロニックS)に乗っており、かつて私の「F355」と筑波サーキット コース1000でガチ対決を行った。(写真=池之平昌信)
中古フェラーリ専門店コーナーストーンズのエノテンこと榎本 修代表は、13年前に997前期型の「911カレラ」(ティプトロニックS)に乗っており、かつて私の「F355」と筑波サーキット コース1000でガチ対決を行った。(写真=池之平昌信)拡大
エノテンの「911カレラ」は、私が当時所有していた「F355」と、ほぼ同等のポテンシャルをみせた。997前期型の速さはあなどれない。実にいい思い出である。(写真=池之平昌信)
エノテンの「911カレラ」は、私が当時所有していた「F355」と、ほぼ同等のポテンシャルをみせた。997前期型の速さはあなどれない。実にいい思い出である。(写真=池之平昌信)拡大
早速S氏の997型「911」に試乗させてもらうことに。997型のステアリングを握るのは、おそらく17年ぶりぐらいである。
早速S氏の997型「911」に試乗させてもらうことに。997型のステアリングを握るのは、おそらく17年ぶりぐらいである。拡大

いまこそあえて選びたい「996」

オレ:これ、全然おっさんくさくないですね! 996と全然違う!
S氏:でしょう?
オレ:まず、ステアリング径が小さいし、ステアリングギアレシオもクイックだ! ハンドル切った感覚がフツーですよ!
S氏:そうなんですよ。
オレ:ティプトロも、996に比べるとトルコンスリップ小さいな~。全然フツーに加速するじゃないですか!
S氏:そうなんですよ。全然いい感じです。
オレ:いやぁ、これはなんかフツーすぎるな……。これに比べると996は個性的だったな~。
S氏:そうですか?
オレ:そうですよ! これはフツーにちゃんとしてて、あんまりおもしろくないですよ!

なんとなんと、個人的に「おっさんポルシェ」と呼んで差別してきた996が、ものすごく個性的でステキなクルマに思えてきたのである!

いやもちろん、997を手に入れたS氏は大満足だろう。私が「996はおっさんぽくて個性的でヨカッタ!」なんて言ってられるのは、ひとごとだからだ。

でも、時間がたつと、ダメな部分が逆にいとおしくなってくるものじゃないですか! おっさんポルシェの996は、登場から20年以上を経たいま、そのおっさんっぽさが美点になってきた気がする……。

いまこそ996は、あえて選びたいポルシェ911ではないだろうか! もちろんおっさんぽい乗り味は不変で、単にこちらの意識が変わっただけですが、見直したぜ、おっさんポルシェ!

(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

新しい愛車、997型「911」の運転席に座り満足げな表情を浮かべるS氏。私には997型と991型と992型の区別がイマイチつかず、すべて「エリートが乗る最新の911」に見える。
新しい愛車、997型「911」の運転席に座り満足げな表情を浮かべるS氏。私には997型と991型と992型の区別がイマイチつかず、すべて「エリートが乗る最新の911」に見える。拡大
S氏の997型「911」のヘッドランプはピカピカだった。ここが黄ばんでいると911は貧乏くさく見える。そういえばS氏の996型のヘッドランプは黄ばみが落とされ、白いボディーカラーのノーマル車ということもあり、意外と上品に見えたことを思い出した。
S氏の997型「911」のヘッドランプはピカピカだった。ここが黄ばんでいると911は貧乏くさく見える。そういえばS氏の996型のヘッドランプは黄ばみが落とされ、白いボディーカラーのノーマル車ということもあり、意外と上品に見えたことを思い出した。拡大
996型「911カレラ」のステアリングホイール(写真)はデカかったが、997型のステアリング径は小さいし、ステアリングギアレシオもクイック。ハンドルを切った感覚もフツーだった。
996型「911カレラ」のステアリングホイール(写真)はデカかったが、997型のステアリング径は小さいし、ステアリングギアレシオもクイック。ハンドルを切った感覚もフツーだった。拡大
おっさんぽさが個性的でヨカッタ996型「911」。登場から20年以上を経たいま、そのおっさんっぽさが美点になってきた気がする。
おっさんぽさが個性的でヨカッタ996型「911」。登場から20年以上を経たいま、そのおっさんっぽさが美点になってきた気がする。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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