シトロエンC4シャインBlueHDi(FF/8AT)
ふわトロのオムライス 2022.01.31 試乗記 新型「シトロエンC4」がいよいよ日本上陸。まずは個性あふれる外観に目を引かれるが、真に注目すべきは新世代プラットフォームにシトロエンならではのサスペンションを組み合わせたシャシーである。1.5リッターディーゼルモデルでその仕上がりを試した。Cセグハッチバックに挑むシトロエン
新型シトロエンC4は、「C4カクタス」に代わるコンパクトハッチバックとして、2020年6月に発表された。C4カクタスは2014年登場だから、比較的早めのモデルチェンジである。この間、シトロエンは創業100年を2019年に迎え、自らの歴史を振り返ることで、「独創と革新」スピリットに回帰、ブランドのコアは「快適性」にあり! と宣言している。
ヨーロッパの激戦区であるCセグメントに投入された新型C4は、主流、つまり「フォルクスワーゲン・ゴルフ」とはちょっと離れたSUVクーペ風のデザインに、内燃機関だけではなく、100%エレクトリックの「E-C4エレクトリック」も用意した意欲作である。新年早々に発表となった日本市場でも1.2リッター3気筒ガソリンターボと1.5リッター4気筒ディーゼルターボ、そして電気モーターという3種類の動力源がラインナップされている。
試乗車はこのうちのディーゼルで、筆者はもうたまげました。「ふわトロの トロトロトロの ふわふわり」(五七五調)。「やは肌の あつき血汐(ちしお)に ふれも見で さびしからずや 道を説く君」という感じ。もちろん与謝野鉄幹はさびしかった。ああ、もう一度、あのふわトロの、やは肌にふれてみたい……。オホン。
まずはボディーサイズから紹介すると、全長×全幅×全高=4375×1800×1530mm、ホイールベースは2665mmである。ゴルフと比べると、ホイールベースで45mm長く、全体では80mm長くて10mm幅広く、55mm背が高い。背が高いのは最低地上高が170mmと、SUV並みにとられているからだ。どうしてシトロエンは「エアクロスSUV」と後ろにつけなかったのか、不思議なほどである。
ちなみに、「C5エアクロスSUV」の最低地上高は190mmある。でも、「C3エアクロスSUV」は160mmで、話がややこしくなるけれど、「C3」と同じ。C5のエアクロスSUVより20mm低いとはいえ、2台のC3より10mm高い。
ゴルフの最低地上高はカタログに明記されていないので、「トヨタ・カローラ」を参照すると、5ドアハッチバックの「カローラ スポーツ」は130~135mm、SUVの「カローラ クロス」は160mm。ご参考までに「ヤリス」は130~160mm(E-Four)、「ヤリス クロス」は170mmである。
肩の力が抜けていく
ということは、最低地上高が170mmもあればSUVを名乗る資格は十分ある。ともいえるけれど、最低地上高の数字だけでSUVか否かを語るのは軽々にすぎる。ともいえる。オホン。オホン。オホン。
ともかく、最低地上高が170mmあるおかげで、乗降性は大変よい。実は今回の試乗の1日前だったかに、私、自宅の近くを歩行中、よそ見して歩道のガードレールに右のモモをぶつけて転び、その痛みで、屈伸がしにくくなっていたのですけれど、そんな私でも、ノーストレス、ノーペイン。新型C4は快く受け入れてくれたのでした。
お尻を下ろした先は、C5エアクロスSUVで初採用して好評だという「アドバンストコンフォートシート」である。カタチは、自動車用というよりモダンファーニチャーといった感じで、シート生地の裏のフォームのボリュームが従来の2mmから15mmへと大幅に増やされているという。このフォームの大判ぶるまいにより、座った途端、ちょっとばかしお尻が沈む。ふわトロ。ああ、いいなぁ。と肩の力が抜ける。リラックスしたわけですね。
最低地上高が高いおかげで視界は良好。ダッシュボードを見わたせば、アバンギャルドな計器盤がドライバーの視線を待っている。液晶のメーターは速度計しか出ない。と思ったら、ウインカーレバー頭部のスイッチをカチャカチャやると切り替え可能で、編集部のFさんいわく、「自動車史上最小のタコメーター」を表示することもできる。
スターターボタンを押して1498cc直列4気筒DOHCのディーゼルターボエンジンを目覚めさせる。ちょっとうるさいけれど、意外と静かである。どっちなんだ? と尋ねられれば、最初はちょっとうるさいと感じるけれど、走りだすと、意外と静かである。その理由は後述する。
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官能的な乗り心地
8段ATのシフトは、センターコンソールの銀色に輝くスイッチで、R-N-Dを切り替える。PとM(マニュアルシフト)はその横にある四角いボタンを使う。このシフター、とても使い勝手がよい。
そして走り始めるや、ああ、トロトロのトロトロ、トトロは宮崎 駿。やは肌のあつき血汐は与謝野晶子、22歳。実にカムフォウト、快適である。この快適さに貢献しているのが、「プログレッシブハイドローリッククッション(PHC)」なるシトロエン特許のダンパーだとされる。
C5エアクロスSUVで初採用されたこれは、ダンパー内にもうひとつダンパーが入っていて、大きな衝撃も小さな衝撃もプログレッシブに吸収するという。この場合のプログレは、プログレロックの「革新的」という意味ではなくて、そういう含意もあるでしょうけれど、「漸進的」と解すべきでありましょう。「順を追ってだんだんと」「確実に」ショックを受け止め、シトロエンの表現を借りると「ゆるフワ」で「魔法のじゅうたん」のような乗り心地を実現する。
ふわんふわん、ではない。ものすごくフラットで、揺れが少ない。もしかしたら「ハイドロニューマチック」よりもストローク感がたっぷりしている。いまどき195/60R18という、細身で空気がたくさん入ったミシュランも、この快適性に貢献しているだろうし、ボディーがしっかりしていることも、もちろんあるに違いない。よくぞ、こんなに気持ちのよい、官能的ともいえる乗り心地を実現したものである。
新型C4は「コモンモジュラープラットフォーム(CMP)」というグループPSAがB、Cセグメント用に開発した最新プラットフォームを使っている。2018年発表の「DS 3クロスバック」から採用しているこれは、トレッドが2種類、ホイールベースが3種類あり、動力源は内燃機関と電気モーター、どっちもオッケーという多様性をもっている。軽量で、音響面にも配慮しているそうで、乗り心地も静粛性も、記憶のなかのC3エアクロスSUV(前世代のPF1プラットフォームを使っている)の改良型と比べると、レベルが違う。
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愛すべきモスラの幼虫
1.5リッター直4ディーゼルターボは、最高出力130PS/3750rpmと最大トルク300N・m/1750rpmを発生する。車重1380kgに対して300N・mの大トルクは強力で、一般道では軽くアクセルを踏んだだけで十分速い。自動車史上最小のタコメーターを見ていると、おおむね1600rpm、つまり最大トルクを発生する前にシフトアップしている。エンジンが上まで回っていないことも静かさにつながっている。
タイヤが現代の基準をもってすれば細身なことも幸いして、電動パワーアシストのステアリングフィールは軽めで、トルキーなエンジンとの相性がいい。実際、車重が軽めなこともある。身のこなしが軽快に感じる。箱根ターンパイクの上りだとアンダーステアっぽいのは、トルクが大きいからだろう。
小さなRの続く長尾峠は得意とするところ。凸凹路面もふわりふわり、上りは分厚いトルクを利して軽やかに、下りはロードホールディングのよさを発揮してスイスイ、やっぱり軽やかに走ってみせる。3気筒のガソリンエンジンモデルと比べるとフロントが40kg重いけれど、単独で乗っている限り、鼻先が重たい印象は皆無で、そこも好ましい。
問題があるとすれば、カタチかもしれない。サイドプロフィールは、シトロエンの主張するように1970年登場の「GS」をちょっと思わせるけれど、シンプルなGSと違って面もラインも複雑で、顔はオヘチャである。「ブランキャラメル」というボディー色のせいか、試乗車はモスラの幼虫っぽい。♪どんがんかさくやいどむ。
ところが、乗ってみたら幼虫ではなくて成虫だった。東京タワーにつくったマユからモスラが飛び出し、大きな羽をのばして、ふわりと浮いたような……。いや、映画館で見た、ああいう巨大な感じは新型C4にはないので、この比喩は適当ではない。オホン。
そんなわけで、2022年早々、今年の“私的ベスト1”に巡り合ってしまった。ふわトロのオムライスのオムレツみたいで、ミシュランひとつ星ぐらいのカジュアルさも私的には魅力だ。考えてみたら、モスラの幼虫、好きだし……。終。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
シトロエンC4シャインBlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4375×1800×1530mm
ホイールベース:2665mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/3750rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)195/60R18 96H XL/(後)195/60R18 96H XL(ミシュランeプライマシー4)
燃費:22.6km/リッター(WLTCモード)
価格:345万円/テスト車=352万0950円
オプション装備:メタリックペイント<ブランキャラメル>(6万0500円)/ETC(1万0450円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1482km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:415.0km
使用燃料:23.4リッター(軽油)
参考燃費:17.7km/リッター(満タン法)/18.0km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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