三菱アウトランダーP(4WD)
可能性は無限大 2022.02.02 試乗記 いよいよ公道を走りだした新型「三菱アウトランダー」のプラグインハイブリッドモデル(PHEV)。ファンはもちろん、メーカーにとっても待望の電動ハイテク4WDは、今後の展開にも期待を抱かせる、高いポテンシャルを秘めたクルマに仕上がっていた。パワートレインは洗練の極み
袖ケ浦フォレストレースウェイのプロトタイプ試乗会で、そのSUVらしからぬ走りに驚かされ、同時に「ここはなんでこうなってるの?」と少なからず疑問も抱いた新型三菱アウトランダー。それをようやく一般公道で走らせることができた。
今回の試乗会は、千葉県千葉市にあるホテルをベースに行われた。区画整理がいき届いた幕張の市街地でその取り回しを、東関東自動車道では高速巡航時のフレキシビリティーを確認し、最後は「オートランド千葉」でダート走行まで体験するという充実の内容である。
試乗車は最上級グレードの「P」。カタログに見る満充電時のEV航続距離は83kmだが、試乗中に“エンジン充電”を体験できるようにと、あえてバッテリーをフルチャージしない状態で貸し出された車両のメーターには、EV航続距離はわずかに12kmと表示された。これなら、かなり早い段階でハイブリッドモードやチャージモードの実力が試せそうである。
ということで早速走りだしてみたのだが、まず面白かったのは、EVモード時のアウトランダーの走りに、あまり“EV感”がないことだった。エンジンは完全停止しているのだが、なぜか普通にガソリン車を走らせているようなフィーリングである。
もっとも、このクルマはピュアEVではなくPHEVであり、フロントコンパートメントには2.4リッター直列4気筒の“重り”が収まっている。動かした感覚が慣れ親しんだエンジン車と似ているのはうなずける。ただ、それ以上に「高いキャビンの静粛性が効いているのでは」と筆者には感じられた。アクセル開度が小さい状況では、外部環境の音はもちろん、モーターやインバーターなどが鳴らすEV特有の音までもがきちんと遮断される。外では結構はっきりと“ヒューン音”が聞こえるらしいが、車内ではそれが聞こえないため、乗ってる限りはEV感が薄いのである。
加えて、モーターの制御が非常に洗練されている。わずかなアクセル開度でもきちんと反応するうえに、トルクの出方が穏やかに制御されているため、EVにありがちな出足の唐突さがないのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
街なかでもわずらわしさはない
目の前が開けたチャンスを見計らって、ちょっと深めにアクセルを踏み込んでみたが、このときの加速もマナーを心得ていた。
フロントが最高出力116PS、最大トルク255N・m、リアが最高出力136PS、最大トルク195N・mというアウトプットを発生するモーターは、アクセルに対する“ツキ”こそいいものの、ドライバーの頭が後ろにのけぞるような加速はしない。その加速はガソリン車よりもリニアだが、2次曲線的に盛り上がっていくようにしつけられている。
ならばと走行モードを「POWER」に切り替えてみても、加速度は幾分鋭くなるものの、やはり“カタパルトダッシュ”はしなかった。そこにはシステム出力に対する車重(2110kg)の重さが大きく影響しているだろうが、三菱としてもここでスポーツカー顔負けの加速力を表現しようとは思っていないのだろう。正直、最初はちょっとつまらない気もしたが、これこそがロケット加速が特徴的だった初代に対する、2代目の洗練だといえるし、その割り切り方もある意味先進的である。
こうしたモーターライドの解釈に対し、乗り味や乗り心地も上手に足並みがそろえられている。足もとに20インチの大径タイヤをおごりながらも、垂直方向の入力はストロークの豊かなサスペンションが、きちんと衝撃を吸収・減衰してくれる。
取り回しのよさを狙ったのだろう電動パワーステアリングの制御は、アシストがやや強めで、ごつい見た目のイメージからするともう少し操舵感に“たくましさ”が欲しいところだ。ただ、(サイズを思えば当然だが)最小回転半径は5.5mとそれほど小回りの利くタイプではないから、街なかで取り回しのよさを感じさせるには、せめてハンドルは軽いほうがいい。このくらいが落としどころということなのだろう。ダブルピニオン化によって、きちんと路面の様子は手のひらに伝わるようになったし、手応えは軽くとも狙いは正確。これなら女性でも運転しやすいのではないだろうか。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
もう少し“しっかり感”があってほしい
一方、気になる部分もあって、“255幅”のタイヤが路面の凹凸やうねりによって、小刻みな横揺れを車体に起こす。エネルギーロスの少ない(=入力があっても変形しづらい)エコタイヤながらも、相応に大きなエアボリュームを持たせているから、極端な不快さはない。それでも、見た目を欲張った20インチタイヤの影響は多少なりとも出ている。
また、クルマの大きさや車重に対してはロール剛性がいささかソフトだ。ダンパーでこれをしなやかに動かしてはいるのだが、ホイールベースが2705mmもある割には、加減速に対して若干前後ピッチングを感じた。こうした足まわりは、乗り心地を得ると同時に回生ブレーキを積極利用する「イノベーティブペダル オペレーションモード」に対応したセッティングなのかもしれない。
そんなことをあれやこれやとチェックしていると、狙いどおりと言うべきか、いつの間にかEV航続距離は0kmとなっていた。実際にはこの状態でもバッテリーには2割近く電気が残されており、その残量とエンジンによる発電を併用して、なんら問題なく静かに走り続けられる。ハイブリッドモードに転じてもエンジンの作動音はとても静かで、チャージモードにして初めて「ブーン」とうなりを上げた。ちなみに、このモードを使うと94分で80%まで電力をチャージできるというが、街なかでは明らかにハイブリッドモードのほうが快適。よって、チャージもそこそこにハイブリッドモードで走り続けた。
高速巡航における印象も、基本的にはタウンユースの延長線上。成田に向かう東関道の上限速度は110km/hとなっており、この道をアウトランダーは極めて乗り心地よく、静かに走る。追い越し時にも圧倒的なダッシュ力こそないが、加速態勢への移行に遅れが生じず、流れるようなスムーズさで右へと車線変更し、速度を乗せていける。パワーではなくスムーズさでドライバビリティーを高める姿勢。これこそがモーターと4WDを組み合わせた最大の利点だろう。
少し残念なのは、速度感応式という割には電動パワステの据わりが弱く、力のかかった方向へゆっくりと舵が流される印象を受けたことだ。ACC(アダプティブクルーズコントロール)を起動させ、LKA(レーンキープアシスト)を利かせればその手応えはグッと強まるのだが、ここまでとは言わずとも、もう少しだけ高速巡航にはどっしりとした操舵感が欲しい。せっかく燃費や電費で不利な常時4輪駆動を選び、リアの駆動力を確保して走安性を高めているのだから、運転感覚でそれを削(そ)いでしまうのはもったいない。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ダートで感じた秘められた実力
東関道を千葉北ICで降り、千葉市近郊にあるオートランド千葉まで足を延ばす。ここでは本格的なダートコースで、6つあるドライブモードのうち「GRAVEL」と「MUD」の性能を試した。
両者ともに悪路を想定した駆動モードだが、前者はこうした状況でも危なげなく安定して走ることができる印象。対して後者は、ぬかるみ(や深雪)から脱出するために高められたスリップ率、特に後輪へのトルクを増やした特性から、よりアグレッシブに4輪で大地を蹴り、かつ積極的に旋回する走りが確認できた。当日は地面のぬかるみが強かったこともあり、アクセルを大きく踏み込んでもさほどオーバーステアに転じることはなかったが、それはAWD制御が不要な挙動を賢く抑え込んでいたからでもあるのだろう。ノーマルタイヤできちんとダートを走れたことが、それを証明している。
同時に感心したのは、こうした路面では強い回生ブレーキによるアクセルオフでの減速が、非常に有効だったことだ。タイヤをロックさせることなくスピードを落とせるから挙動が乱れにくく、かつそこからアクセルを踏み込めば、トルクが素早く立ち上がる。実際にユーザーが泥道を走る機会は少ないだろうが、条件が悪くなるほど安定性が際立つ2モーター4WDの特性は、激しい雨や雪道でも有効だろう。
……と、このように悪路でも高いパフォーマンスの片りんを見せたアウトランダーだが、だからこそ現状ではまだまだ「すべてを出し切れていないな」と感じてしまった。
アウトランダーのライバルは、現状だとずばり「トヨタRAV4 PHV」だ。その違いをここで細かく比較はしないが、RAV4に対するアウトランダーの美点は、いまのところ「シームレスかつリニアな走りの快適性」ということになる。燃費性能は向こうが上手だが、そのぶんホイールベースが長いこちらは、荷室を広くとれ、3列シート仕様もあり、そして急速充電(38分で80%充電)にも対応している。しかしなにより特徴的なのは、やはりその穏やかで優しい走行感覚だろう。
そもそもPAV4 PHVは、ベースとなるRAV4に対するプレミアムバージョンである。対してアウトランダーは、この新型で全車PHEV化。日本ではこのパワートレインがベーシックな仕様なのだ。これを起点としてラインナップを発展させれば、アウトランダーはさらなる高みを目指せるはずだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
求む ラリーアートバージョン!
例えば、クローズドコースではややそのグリップ性能に疑問を持った柔らかいアシと大径エコタイヤ。今回のように常識的な使用環境・速度域ではまったく危なげないが、緊急回避でするように急ブレーキをかけてハンドルを切ると、車体が大きくノーズダイブ。リアの接地荷重が減るのを袖ケ浦では体験済みだ。電子制御ブレーキが不安定な挙動を巧みに抑えていたが、やはり車重に対してサスペンション剛性とグリップ力が見合っていないと感じた。
速度域が低く、乗り心地が厳しく問われる日本の環境に合わせ込んでいることは承知している。モーター主導の電動車としては、WLTCモードで16.2km/リッターという燃費をこれ以上下げるわけにはいかないことも理解できる。とはいえ、現状だと「乗り心地のよいSUV」という印象に終始し、サーキットやオフロードで感じたこのクルマのポテンシャルを表現し切れていないのがもったいない。
素性は十二分。ベーシックな仕様としては非常に高い水準の走りができている。あとはオプションでもかまわないから、可変ダンパーや可変スタビライザーが用意できたら、運転の楽しいSUVとしてもアピールできるのではないか。そういう意味では、東京オートサロン2022に展示された「ヴィジョン ラリーアート コンセプト」の市販化に期待したいところだ。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
三菱アウトランダーP 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1860×1745mm
ホイールベース:2705mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:133PS(98kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/4300rpm
フロントモーター最高出力:116PS(85kW)
フロントモーター最大トルク:255N・m(26.0kgf・m)
リアモーター最高出力:136PS(100kW)
リアモーター最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 101W M+S/(後)255/45R20 101W M+S(ブリヂストン・エコピアH/L422プラス)
ハイブリッド燃料消費率:16.2km/リッター(WLTCモード)/17.8km/リッター(JC08モード)
価格:532万0700円/テスト車=556万3434円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトダイヤモンド/ブラックマイカ>(13万2000円)/レザーシート<ライトグレー>(-2万2000円) ※以下、販売店オプション ETC2.0車載器<スマートフォン連携ナビゲーション用>(4万6882円)/フロアマット<7人乗り用>(5万4252円)/トノカバー(2万2000円)/三角表示板(3300円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1869km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
三菱アウトランダーP 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1860×1745mm
ホイールベース:2705mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:133PS(98kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/4300rpm
フロントモーター最高出力:116PS(85kW)
フロントモーター最大トルク:255N・m(26.0kgf・m)
リアモーター最高出力:136PS(100kW)
リアモーター最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 101W M+S/(後)255/45R20 101W M+S(ブリヂストン・エコピアH/L422プラス)
ハイブリッド燃料消費率:16.2km/リッター(WLTCモード)/17.8km/リッター(JC08モード)
価格:532万0700円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:2875km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。