三菱アウトランダーP(4WD)
これぞ全部入り 2022.02.16 試乗記 生まれ変わった「三菱アウトランダー」で冬の信州路へ。すべてが新しくなったというプラグインハイブリッドシステムや三菱独自の四輪制御技術「S-AWC」の実力を、リアルな環境の雪道で試してみた。強烈な出足が味わえる
プラグインハイブリッド車(PHEV)の新型三菱アウトランダーの販売が絶好調だ。2021年10月末の先行受注開始から約3カ月で1万台を突破した(販売計画は月1000台)。そうだろう、そうだろうという感想しかない。これまでに何度か試乗したが、そのたびにいいクルマだなと感心する。今年は普段あまり雪が降らない地域が大雪に見舞われた。雪道に強く、いざという時に電気を取り出せるこのクルマへの注目度はさらに増しているはずだ。今回は長野県茅野市のビーナスラインまで遠出して雪道を走らせてみた。
日本で使うのにちょうどよいサイズのSUVだ。全長4710mm、全幅1860mm、全高1745mm、ホイールベース2705mm。もちろん人によって“ちょうどよい”は異なるが、日本の道幅や駐車スペースと、積載能力などを考えた場合、多くの人がちょうどよいと思えるところを突いている。2人と大荷物、あるいは4人とそれなりの荷物を積むのにぴったりだ。
2.4リッター直4エンジンは主に発電に用いられ、必要に応じて駆動にも駆り出される。エンジンが発電した電力を用いて前後のモーターが駆動する。モーターはフロント116PS(80kW)、リア136PS(100kW)の最高出力を誇り、パワーは十分以上。電動車は発進と同時に大トルクを発生させられるため、最初の出足が猛烈。もちろん毎回猛烈にダッシュする必要はないが、快適なクルマの条件のひとつである、望む速度に素早くスムーズに到達させられるという性能において、アウトランダーPHEVは合格中の合格。エンジンのみで駆動するクルマならもっとずっと高価なモデルでないと得られない実用域での動力性能が手に入る。
満充電の状態からは大体70km前後のEV走行が可能(カタログ上は83km)。バッテリーに残るこの70km分の電力をいつどう使うかをある程度コントロールできる。「ノーマル」モードを選ぶと、まずは電力を先に使ってEV走行し、残量がなくなるとハイブリッド走行となる。「EV」モードもほぼ同じ。先に電力を使い、なくなるとハイブリッドとなるが、ノーマルモードはアクセルペダルを深く踏むと電力が残っていてもエンジンがかかるのに対し、EVモードは電力が残っている限り、ペダルを床まで踏んでもエンジンがかからない。
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一般家庭12日分の電力をためられる
この日は半分程度電力が残った状態でクルマを渡され、まずはEVモードでビーナスラインを走行。登り坂でも2.1tの車重をものともせず、グイグイ加速することができた。当然ながらエンジンがかかっていないと加速中も車内は静かだ。路上に残るシャーベット状の雪をつぶすシャーという音ばかりが聞こえる。ノーマルモードに切り替えると、高い負荷をかけた場合にはエンジンがかかる。エンジンが発電した電力とバッテリーに残る電力の両方をモーターへ供給するので、こっちのほうが力強い。
エンジンがかかると音は聞こえるが、遮音がしっかりしているので、低級な音が車内に侵入するわけではなく、オン/オフを繰り返しても不快というわけではない。この勢いで踏んだらエンジンがかかっちゃうなというのは感覚的に分かるので、少なくともドライバーは突然エンジンがかかって不可解という状況に陥ることはないが、一度かかったエンジンが止まるタイミングはまちまちで、アクセルペダルを緩めたら必ず止まるというわけではない。
このほか、その時点での残電力量を維持する「セーブ」モード、走行充電によって残電力量を回復させる「チャージ」モードがある。旅の目的地付近でEV走行をしたい場合や、目的地で車中泊やキャンプをする際に電力を取り出したい場合に便利。バッテリー容量の20kWhを丸々残した状態なら、キャンプでひと晩中ホットカーペットと電灯を使い、時々ドライヤーをしてホットプレートで料理することができる。さらに災害時にエンジンを発電しながらであれば一般家庭で使う12日分の電力量をまかなうことができる。
さらに曲がるクルマに進化
電池残量をコントロールするモードは多くのPHEVに備わるが、アウトランダーPHEVは走行状況や路面状況に合わせて4輪の駆動力、制動力をコントロールするモード選択もできる。後輪の駆動力配分を高めて旋回性重視となる「ターマック」モード、トラクション性能を重視するほか、車体の安定を優先する「グラベル」モード、路面ミューが著しく低い場面での走りやすさを優先する「スノー」モード、空転をある程度許すなどしてぬかるみからの脱出性能を高める「マッド」モードがある。このほか燃費優先の「エコ」モード、積極的にエンジンをかけて加速力を優先する「パワー」モード、それにバランスを重視した「ノーマル」モードを選ぶこともできる。
だがこの日のビーナスラインは、舗装路に雪が解けたウエット路、雪が残った圧雪路、そして時々凍結路と、路面状況が目まぐるしく変化する状況。いちいち切り替えていられないのでノーマルを選び、システムの制御を感じるべく、安全が確保できる範囲でハイペースで走らせた。
三菱が長年開発を続ける「S-AWC」は、アウトランダーPHEVをはじめ、歴代の多くの三菱車(市販車のみならずWRCを戦う競技車にも)に実装されてきた。前後の駆動力配分を変化させるほか、4輪を個別にブレーキコントロールすることで、タイヤのグリップ力の範囲内で最大の駆動力、制動力、旋回性能を目指すものだ。分かりやすいのはコーナーで内側の車輪のみにブレーキをかけ、車両を曲がりやすくする制御。従来前輪のみに作動させていたこの制御を新型は後輪にも適用し、よりよく曲がるクルマになった。
運転がうまくなったみたいだ
コーナーの途中でおっとっととアクセルを戻したりステアリングを切り増したりする機会が他の多くのクルマに比べて明らかに少ない。雪道の旋回でステアリングを切ってもクルマが思ったほど向きを変えてくれず、外側へ膨らんでいくのは誰にとっても恐怖体験だ。たいていはヒヤッとするものの最終的にはきちんと曲がることができるが、このヒヤッとする頻度をぐんと下げられる。
スピードを下げればよいではないか? とあなたは言うかもしれない。確かに大前提としてはそうだが、路面ミューが目まぐるしく変わる路面では、安全な速度など分からない。前のコーナーを曲がれたスピードで次のコーナーを曲がり切れないかもしれない。かといって雪交じりの区間を延々と20km/hで走行するのも事実上難しい。だから旋回性能は高ければ高いほど安全といえる。
また旋回から直進に戻る際の加速では、2WDでは絶対にあり得ない勢いを得られる。これが頼もしい。そして減速時にアクセルペダルを戻すだけで回生ブレーキによる強い減速を得られるのも、慎重に車速をコントロールするうえで非常に有効だ。
減速、旋回、加速のすべての状況で、運転がうまくなったように感じられる。常識の範囲で積極的なドライブを楽しむ際、この運動性能の高さは操る喜びに直結する。PHEVがもたらす効率の高さと電力を取り出せるという付加価値に加え、さらに運転の楽しさが備わっているのがアウトランダーPHEVの真の魅力といえる。現時点で世界を見渡して同様の全部載せ的魅力を備えるのは、「トヨタRAV4 PHV」くらいではないだろうか。
なお今回の試乗の燃費は11.2km/リッターだった。レギュラーガソリンなのは親切だ。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
三菱アウトランダーP
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1860×1745mm
ホイールベース:2705mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:133PS(98kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/4300rpm
フロントモーター最高出力:116PS(85kW)
フロントモーター最大トルク:255N・m(26.0kgf・m)
リアモーター最高出力:136PS(100kW)
リアモーター最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 101Q/(後)255/45R20 101Q(ブリヂストン・ブリザックDM-V3)
ハイブリッド燃料消費率:16.2km/リッター(WLTCモード)
価格:532万0700円/テスト車=557万9134円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトダイヤモンド/ブラックマイカ>(13万2000円)/ ※以下、販売店オプション ETC2.0車載器<スマートフォン連携ナビゲーション用>(4万6882円)/フロアマット<7人乗り用>(5万4252円)/トノカバー(2万2000円)/三角表示板(3300円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1869km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:602.6km
使用燃料:53.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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