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第3回:ホンダN-BOX(前編)

2023.12.01 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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いうなれば初代への原点回帰

国内市場でベストセラーの地位に君臨するホンダの軽トールワゴン「N-BOX」。新型の3代目も人気は上々だが、そのデザインは初代・2代目とソックリ! ホンダがあえて形を変えなかった理由と、それでも感じる進化のポイントを、元カーデザイナーとともに探ってみよう。

渕野健太郎(以下、渕野):実は私、子供の頃からホンダに憧れていて、それがカーデザイナーを目指すきっかけになったんですよ。

webCGほった(以下、ほった):そうなんですか!

渕野:そして今でもホンダファンです。

清水草一(以下、清水):なんと! 初心を忘れてないんですね。

渕野:N-BOXはこれで3代目ですよね。初代、2代目、3代目と、ちょっと離れて見ると区別がつかないぐらい変わってないじゃないですか。プロポーションもそうだし、ウィンドウグラフィックもそうで、グリルとヘッドランプの関係とかも。 

ほった:「どこが変わったのかわからない」って言われてますね。

清水:私に言わせれば全然違うけど。

渕野:2代目はちょっとゴテゴテしてましたけど、3代目は初代の雰囲気に戻りましたよね。

清水:そうですよね! うれしかったな~。

渕野:結局こういうシンプルなデザインがいいという結論になったんでしょう。N-BOXは売れ続けていますし、変わらないっていう選択肢は全然あっていい。デザイナーとしては、おそらくは開発初期にはさまざまなスケッチを描いたと思うんです。全然違うデザインも検討したはずです。でもやっぱり初代が完成形だった。

清水:まったく同感です。初代N-BOXのデザインはまれにみる傑作でした。

3代目となる新型「ホンダN-BOX」。N-BOXといえばホンダが誇るベストセラーモデルで、この新型も発売初月の販売台数が2万台の大台を突破(2023年10月に2万2943台)。幸先のいいスタートを切った。
3代目となる新型「ホンダN-BOX」。N-BOXといえばホンダが誇るベストセラーモデルで、この新型も発売初月の販売台数が2万台の大台を突破(2023年10月に2万2943台)。幸先のいいスタートを切った。拡大
これで3代目となる「N-BOX」だが、そのデザインは初代からほとんど変わっていない。プレスラインの引き方やボディーサイドの面構成を見るに、「3代目は、ちょっと初代に先祖返りしたかな?」と感じる程度だ。
これで3代目となる「N-BOX」だが、そのデザインは初代からほとんど変わっていない。プレスラインの引き方やボディーサイドの面構成を見るに、「3代目は、ちょっと初代に先祖返りしたかな?」と感じる程度だ。拡大
ラインナップはこれまで同様、標準車と「カスタム」(写真)の2モデル構成。 
ほった「そういえば、カスタムもずいぶんすっきりした顔になったと思いますけど、どう思います?」 
渕野&清水「……」
ラインナップはこれまで同様、標準車と「カスタム」(写真)の2モデル構成。 
	ほった「そういえば、カスタムもずいぶんすっきりした顔になったと思いますけど、どう思います?」 
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四角いクルマを“ただの四角”に見せない

渕野:初代は顔まわりを絞ってフロントフェンダーとの差をつくり、しっかりとした佇まいを表現していましたね。それによって、「ただの箱じゃない」感を出していた。軽バンとは違う、乗用車の顔をこのときに確立していて、それが2代目にも3代目にも踏襲されました。

清水:いや、フロントフェンダーのふくらみ感は初代が圧倒的で、2代目ではほとんど消えたじゃないですか。あれがすごく残念だったんです。初代はあのふくらみで踏ん張り感が出ていたんですから!

ほった:清水さんは初代がすごくお気に入りなんですね。

清水:そう。そこに原点回帰した3代目もすごくいい。

渕野:そうやって乗用車としての質感を出してる箇所が、今言ったフロント部分と、もうひとつはリアゲートやDピラーまわりの“絞り込み”です。基本は四角いクルマなんですけど、実はここが弧を描いていて、側面から見ても真後ろから見ても、ちょっと丸まっている。その結果、Dピラーの上部が結構絞られている。これは普通の乗用車のデザインの仕方です。それこそ、さっき言った軽バンとの違いで、こういうところで乗用車としての質感を出している。そこがすごくいいなって思う。

ほった:四角いようで真四角じゃないんですね。

初代では、フロントフェンダーがロアバンパーとひとつながりになっており、大きく張り出して見えるデザインとなっていた。新型では、わかりやすいプレスラインは消滅したものの、前へと回り込んで立体感を強調するフェンダーの見せ方は受け継がれている。
初代では、フロントフェンダーがロアバンパーとひとつながりになっており、大きく張り出して見えるデザインとなっていた。新型では、わかりやすいプレスラインは消滅したものの、前へと回り込んで立体感を強調するフェンダーの見せ方は受け継がれている。拡大
新型「N-BOX」のDピラーまわり。横から見ても後ろから見ても、ゆるやかな弧を描くように傾斜がかけられているのがわかる。
新型「N-BOX」のDピラーまわり。横から見ても後ろから見ても、ゆるやかな弧を描くように傾斜がかけられているのがわかる。拡大
「N-BOXファッションスタイル」のリアビュー。右奥のピラーを見ると、キャビンの絞り込みやテールゲートのわずかな“丸まり具合”がわかりやすい。
「N-BOXファッションスタイル」のリアビュー。右奥のピラーを見ると、キャビンの絞り込みやテールゲートのわずかな“丸まり具合”がわかりやすい。拡大

端々に宿る質感アップの工夫と試行錯誤

渕野:先ほど言ったように、2代目ではいろいろキャラクターラインがついてちょっと煩雑になってしまったのを、新型ではよりシンプルにしつつ、質感を高めています。で、あとヘッドランプ。ゼータクなことに新型ではノーマルでも全車LEDですけど、近くで見てもすごく質感が高い。この丸目だけでも欲しいなと思ってしまう。「N-VAN」の上級グレードもこの手のヘッドランプになっていましたね。

清水:そういう細部って大事ですよね~。

ほった:ヘッドランプっていったら、N-BOXのデザイナーさんが目頭の部分の“えぐり込み”をすごく自慢したんですけども、気づきましたか?

渕野:これについては、最初は「設計要件なのかな?」って思ったんですけど、カスタムのほうはえぐれてないですね。機能抜きの、純粋なデザインなのかもしれない。

清水:フロントフェンダーのふくらみは初代よりずっと主張が控えめだけど、こういうところで立体感を出しているのかな。

ほった:そうかもしれませんね。

清水:N-BOXはシンプルな初代のデザインが本当に傑作だった。だから雑みの入った2代目はすごく残念でした。一般ユーザーにはどうでもいいことだと思いますけど、カーマニアとしては譲れない部分でした。

渕野:2代目は、おそらく幅をしっかり見せようとしたんですよ。幅を見せつつフェンダーもしっかり見せようとすると、必然的にフェンダーのまわりにプレスを入れたくなる。ほら、ここです。

ほった:なるほど。

渕野:多分、競合するクルマと比べると、初代は幅が狭く見えたんじゃないですかね。個人的な嗜好としては、そういうところは自分は全然気にしないんですが、軽のユーザーは迫力を重視しますから、2代目の意図もわかる気はします。新型では、ちょうどいいあんばいのところが見つかった感じですね。

ホンダの関係者いわく、リング型のヘッドランプは人の瞳をモチーフにしたもの。輸入車・国産車を問わず、最近はやりのデザインだ。新型「N-BOX」ではフルLEDヘッドランプが標準装備となる。
ホンダの関係者いわく、リング型のヘッドランプは人の瞳をモチーフにしたもの。輸入車・国産車を問わず、最近はやりのデザインだ。新型「N-BOX」ではフルLEDヘッドランプが標準装備となる。拡大
標準車のヘッドランプをよく見ると、人でいう“目頭”の部分でレンズが大きくくぼんでいる。
標準車のヘッドランプをよく見ると、人でいう“目頭”の部分でレンズが大きくくぼんでいる。拡大
2代目「N-BOX」のボディーサイド。上から見ていくと、ショルダー部のラインで一段パネルを奥まらせ、フェンダー上部のくぼみでさらにへこませ、そこからどーんとフロントフェンダーを張り出させる……という、かなり複雑な処理を加えていた。
2代目「N-BOX」のボディーサイド。上から見ていくと、ショルダー部のラインで一段パネルを奥まらせ、フェンダー上部のくぼみでさらにへこませ、そこからどーんとフロントフェンダーを張り出させる……という、かなり複雑な処理を加えていた。拡大
新型「N-BOX」のボディーサイドの処理。先代であったショルダー部の段差は、彫刻刀で削ったような切り込みとなり、フェンダーまわりの凹凸やプレスラインもかなり控えめなものとなった。
新型「N-BOX」のボディーサイドの処理。先代であったショルダー部の段差は、彫刻刀で削ったような切り込みとなり、フェンダーまわりの凹凸やプレスラインもかなり控えめなものとなった。拡大

ユーザーの心をつかんだ「所帯じみてない軽」

清水:それにしても、初代があんなに大ヒットしたのは、なぜですかね?

渕野:ひとつはギャップでしょうかね。それまでのホンダの軽って、申し訳ないですけど……ちょっとショボイのばっかりだったじゃないですか。それがN-BOXでガラッと変わった、みたいな。

清水:カーマニア的にはそれで納得なんですけど、「初代N-BOXはデザインが最高だった!」なんていうのは一部のマニアだけで、一般の人は軽トールワゴンのデザインに、そんなにこだわっているとは思えない。

ほった:走りにもこだわってないでしょうね。

清水:走りにはもっとこだわってないよね。でも初代はじわじわと大ヒットしていった。ひょっとして一般ユーザーにも、初代のデザインの奥深さがゆっくり浸透していったのかな? なんて思うしかないんですよ。

渕野:最近は東京の住宅街を歩いてると、軽もそれなりに車庫に置いてありますよね。

清水:すごく増えました! 15年くらい前までは、東京人は軽なんて知らなかった。配達用としか思ってませんでしたから。

渕野:それが今は、「あまり生活感を出したくない」という人にとって、N-BOXとか「N-ONE」がすごくいい選択になってるんじゃないですか。

清水:自分は同感ですけど、それもクルマを知り尽くした一部の人だけの感覚のように思えるんだよなぁ。

渕野:一昔前まで、軽に乗ってる人はあんまり家計に余裕がないみたいな感じがあったけど、最近はそうじゃない。それにはホンダのNシリーズが大きな役割を果たしたといえなくもないでしょう。

清水:確かに変わりましたよね。今は東京でも、あえて軽に乗る人が増えました。

渕野:杉並区の豪邸にN-BOXがあったり。

ほった:「スラッシュ」出すなら今ですな(笑)。

後編へ続く)

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=本田技研工業、webCG、荒川正幸/編集=堀田剛資)

2011年12月に発売された初代「N-BOX」。それまでのホンダ製軽乗用車の不人気を吹き飛ばし、一躍人気モデルとなった。開発責任者は、ミニバン市場でもF1世界選手権でもホンダを救ったことのある、“救世主”こと浅木泰昭氏だ。(写真:荒川正幸)
2011年12月に発売された初代「N-BOX」。それまでのホンダ製軽乗用車の不人気を吹き飛ばし、一躍人気モデルとなった。開発責任者は、ミニバン市場でもF1世界選手権でもホンダを救ったことのある、“救世主”こと浅木泰昭氏だ。(写真:荒川正幸)拡大
新型「N-BOX」のイメージスケッチ。一昔前は、軽乗用車でこうしたイメージを提示されると「いやいやいや。現実を見ましょうよ……」と思ったものだが、今日ではおしゃれな街でもすっかり軽が生活の足として定着している。
新型「N-BOX」のイメージスケッチ。一昔前は、軽乗用車でこうしたイメージを提示されると「いやいやいや。現実を見ましょうよ……」と思ったものだが、今日ではおしゃれな街でもすっかり軽が生活の足として定着している。拡大
清水「これは何だい?」 
ほった「説明会兼撮影会の会場にあった、新型『N-BOX』の商品コンセプトを説明するオブジェのようなものです。左が標準車で、右が『カスタム』だとか」 
清水「コーヒーに観葉植物にソファ、おしゃれサングラスに高級ヘッドホンかぁ」 
ほった「こういう世界観で軽自動車をつくるのも、もう的外れな時代じゃないんですよ」
 
清水「これは何だい?」 
	ほった「説明会兼撮影会の会場にあった、新型『N-BOX』の商品コンセプトを説明するオブジェのようなものです。左が標準車で、右が『カスタム』だとか」 
	清水「コーヒーに観葉植物にソファ、おしゃれサングラスに高級ヘッドホンかぁ」 
	ほった「こういう世界観で軽自動車をつくるのも、もう的外れな時代じゃないんですよ」
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2014年末に現れた、ファンキーすぎる軽乗用車「N-BOXスラッシュ」。広さが自慢の軽トールワゴン「N-BOX」の屋根をぶった切って車高を低くし、2ドアクーペ風のスタイルに仕上げるという狂気の一台だった。
2014年末に現れた、ファンキーすぎる軽乗用車「N-BOXスラッシュ」。広さが自慢の軽トールワゴン「N-BOX」の屋根をぶった切って車高を低くし、2ドアクーペ風のスタイルに仕上げるという狂気の一台だった。拡大
新型「N-BOX」の商品説明会&撮影会の様子。
新型「N-BOX」の商品説明会&撮影会の様子。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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