フェラーリ296GTB(MR/8AT)
清冽なる駿馬 2022.03.24 試乗記 フェラーリの未来を担う新たな基幹モデル「296GTB」。ブランド初のV6ターボエンジンに「SF90」譲りのプラグインハイブリッドシステムと、好事家なら口を挟まずにはいられないトピックを満載したニューモデルは、どのようなマシンに仕上がっていたのか? スペインはアンダルシアの山とサーキットで確かめた。注目の新機軸を満載
フェラーリ初のV6で、プラグインハイブリッド車(PHEV)で、伝統のV8ミドシップ系と近しいポジションに位置するニューモデルである。「跳ね馬の新顔」というだけでも十分注目されるというのに、フェラーリ296GTBは、好事家の耳目を集めるトピックにあふれている。そしてその一部は、古典的なクルマ好きにもあまねくポジティブにとらえられる類いではない。
字面の記号性が重い意味を持つ超高級車・高性能車の世界にあって、V6というエンジン形式は必ずしも笑顔で受け入れられるものではないし、軽快さが身上のスポーツカーに重い電動パワートレインを積んだ判断に、走りの純粋性を疑う向きもあるだろう。そもそも、「308」から「F8」に至るV8ミドシップの系譜があるのに、なぜわざわざ別の機軸を立てようとするのか。
スペインで開催されたメディア向け試乗会において、記者は実車に触れ、こうしたギモンに関する言い分を関係者に聞いて回ることで、このクルマの像をつかめるのではないかと考えていた。誤算は当のフェラーリに、そんなロジカルな方法で懐疑派を説得するつもりがさらさらないことだった(詳しくは後述)。
クルマの概要についておさらいすると、プラットフォームには軸間を切り詰めるなどして敏しょう性を追求した独自設計のシャシーを採用。完全新開発の2.9リッターV6ツインターボエンジンは、リッターあたり221PSと非常にハイチューンで、そこに「SF90」の後軸用パワートレインをベースとしたハイブリッドシステム、すなわちエンジンを切り離すクラッチと、高出力・高トルクのアキシャルフラックスモーター、8段DCT、リチウムイオンバッテリー等が組み合わされる。シャシーのエンジニア氏によると、前後重量配分は40.5:59.5としっかりリア寄りだ。
ちなみに、気にする人がいるかは知らないが、燃費は「F8トリブート」の12.9リッター/100kmに対して6.4リッター/100kmである(ともにWLTPサイクル)。
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動力性能は“圧巻”の一言
スペイン南部、セビリアのモンテブランコサーキットで見た296GTBは、実に潔いスタイリングをしていた。プレゼンテーションにいわく、60年代のスポーツカーのイメージにモダンなディテールを織り交ぜたデザインとのことだが、その意匠には他のスーパーカーに見られるようなおどろおどろしさ、過度に自分をデカく見せようという思惑が感じられない。引き締まっていてシンプルで、「ここがこうなっているのはこういう理由からなんですよ」なんて逐次説明されなくても、クルマの造形がすんなり腑(ふ)に落ちる。フェラーリの関係者によると「SF90はパフォーマンス、296GTBはファンなドライブを追求したクルマ」とのことなので、デザインにおいてもことさら偉ぶる必要はなかったのだろう。
ただあらためて思うに、「SF90はパフォーマンス、296GTBはファン」という説明はいかがなものだったでしょうか。なんせ296GTBは、パフォーマンスも突き抜けていたのだ。サーキットでの試乗は先導する296GTBを追走するかたちで行われたのだが、マシンを熟知したスタッフによる先導車の走り、試乗後に供されたテストドライバーの助手席同乗体験には絶句した。あんなにブレーキを遅らせられるのか、ブレーキを強く踏めるのか、Gがかかった状態でもコントロールが失われないのかと、驚きの連続である。少ないながらサーキット試乗の経験もある記者だが、今回ほど敗北感と絶望感を味わったことはない。当方のウデと度胸では実力の輪郭を感じ取れないほどに、296GTBはスゴかった。
とはいえ、ただ「スゴかった」ではリポートにならないので力不足なりに品評させていただくと、ハンドリングはドライバーの意識に対して+5~10%くらい速くノーズが切り込んでいく感覚。操舵に対してサーッと抵抗なく回頭するさまは、いかにも鼻先に重量物がなく、前輪が舵のみを担う後輪駆動のミドシップといった趣で、さわやかにクルマは向きを変える。
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速いだけのクルマに未来はない
ブレーキの操作性も自然そのもの。296GTBのそれはバイ・ワイヤー式で、踏力・踏量に応じて回生ブレーキと摩擦ブレーキを統合制御するのだが、ウラでそんな複雑な仕事をしているとは思えないほどにコントローラブルだ。他の電動車のブレーキの仕上がりを鑑みるに、これだけでも296GTBがいかに丁寧につくり込まれたクルマであるかがうかがえる。
そしてもちろん、パワートレインがすさまじい。システム出力830PS(!)のフルパワーは、eマネッティーノで「Qualify」を選ぶと解放されるのだが、そのほかのモードでも、加速は十分えげつない。記者のドライブでも、ホームストレートではブリッジ付近で240km/hを突破。その後も速度はすいすいと伸び、頭を打つ気配はなかった。ちなみに事前のブリーフィングによると、モンテブランコのストレートエンドにおける296GTBの車速は270km/h。そして同車の最高速は330km/hだ。
このように、絶対的な動力性能・運動性能はまさに圧巻の296GTBだが、昨今のスーパースポーツは、それだけでは許されないのがつらいところ。速いだけのクルマは、リリースされるや「こんなの、どこ走らせるんだよ?」と総ツッコミを受ける運命にある。トラックではしてやられた記者だが、ちんたら走るストリートはわが領分。存分に検分してくれよう。
クローズドコースで296GTBに打ちのめされた記者は、そんな風に思いながら公道へと出ていった。
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純粋に走りを楽しめる
モンテブランコの敷地を出て記者がまず感じたのは、電動パワートレインの柔軟性の高さだった。なにせモーターの最大トルクは315N・mもあるのだ。制限速度50km/hの市街地からいきなり同90km/hのカントリーロードへ出るようなシーンでも、バッテリーに電気が残っていればまずエンジンはかからない。またその残量がゼロとなっても(実際には制御の都合で蓄電量の何割かは残っているはずだが)、漫然と走っているだけで、EV走行距離にして10km程度の電気がすぐに補充される。市街地区間をひっそり抜ける程度なら、これで十分。日本でも、閑静な住宅街や別荘地を走るときなどに重宝することだろう。
エンジンが始動する際のマナーも上々で、ショックが抑えられているのはもちろんのこと、忍び足で走っている際中に「ボババン!」と目覚めのひと吠(ぼ)えをかますような無粋なまねはしない。低速時には低速時の、高速巡行時には高速巡行時の、ワイドオープン時にはワイドオープン時のと、TPOに合わせた目覚め方をしてくれるのだ。
むろん、走りの楽しさ、操る喜びのほうも申し分なく、ワインディングロードではマネッティーノを「RACE」に、eマネッティーノを「Performance」にして、296GTBのフットワークを大いに満喫した。なにせミドシップのスーパースポーツとしては、存外に取り回しがしやすいのだ。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4565×1958×1187mmと、F8トリブートよりちょっと小さい程度だが、視野の取り方やフットワークの仕立てが功を奏しているのだろう。実寸以上にコンパクトに、タイトに感じる。シーンによっては「もうちょっと車幅が小さくてもいいかな?」と思うこともあったが、最高出力830PS、お値段3500万円超のスーパーカーでありながら、急峻(きゅうしゅん)なワインディングロードでも運転だけに意識を集中できた。
またこのストレスのなさには、過度な硬さを感じさせない乗り心地や、アクセルワークに対するパワートレインの緻密な反応も効いているのだろう。後者は並走撮影などでも感じたことで、とにかく微低速域から車速をコントロールしやすい。先述したブレーキの制御やマナーのよさとも相まって、あらためて「これ、本当にハイブリッドか?」と感服してしまった。
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いろいろな意味で「目からうろこ」
帰りの高速道路で、ちょいとアクセルを踏んづけてみる。合流からの中間加速ははじかれるがごとしで、なによりエンジンのサウンドが素晴らしい。久しく聴いたことのない、胸のすく高音。自然吸気時代もかくやという抜けるような快音である。
思い出されるのは、説明会で語られた諸所のコダワリだ。このエンジンはV6としては理想的な120°のバンク角を持ち、エキゾーストマニホールドは等長で、2つのターボを駆動させた高速の排気は、テールパイプの直前で左右がひとつに合流する。このエンジンをフェラーリの関係者は「小さなV12」と表していて、ひねくれ者の筆者は「V12にもいろいろあるけどね」なんて斜に構えていたのだが、試乗後に大いに反省した。
フェラーリ296GTBの試乗は、一事が万事こういう体験だった。V6やPHEV、(ピッコロフェラーリとしては重めな)乾燥重量1470kgという字面からくるうがった見方は、実車に触れたら全部が吹っ飛んだ。恐らくフェラーリは、世の偏屈がどんな突っ込みを入れてくるかなんて、はじめからぜんぶお見通しだったのだろう。そしてご託を並べるのではなく、すべてのギモンを返り討ちにする現物の力をもって答えに代えたのだ。「重そう? 音が気になる? 乗ってから言えよ」
個人的にうれしかったのは、そんな新世代のフェラーリが、とてもピュアで誠実なスポーツカーに感じられたことだ。4WDや4WS、増速式のトルクベクタリングなどが介在しないハンドリングは自然で潔く、またこれだけの高性能車なのにわざとらしい演出がなく、運転に集中させてくれるキャラクターも好感を覚えるものだった。虚飾の感じられない造形や、時節とマナーをわきまえた音調ともども、非常にすがすがしいスーパースポーツである。熱心なフェラーリの信奉者はもちろんのこと、フェラーリやスーパーカーにある種の偏見を持つ向きも、ぜひ試してみてほしい。
(文=webCGほった<webCG“Happy”Hotta>/写真=フェラーリ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
フェラーリ296GTB(アセットフィオラーノパッケージ装着車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4565×1958×1187mm
ホイールベース:2600mm
車重:1470kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:663PS(488kW)/8000rpm
エンジン最大トルク:740N・m(75.5kgf・m)/6250rpm
モーター最高出力:167PS(122kW)
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)
システム最高出力:830PS(610kW)/8000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y XL/(後)305/35ZR20 107Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2 R)
燃費:6.4リッター/100km(約15.6km/リッター、WLTPモード)
価格:3678万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1万0766km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
フェラーリ296GTB
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4565×1958×1187mm
ホイールベース:2600mm
車重:1470kg(乾燥重量)
駆動方式:MR
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:663PS(488kW)/8000rpm
エンジン最大トルク:740N・m(75.5kgf・m)/6250rpm
モーター最高出力:167PS(122kW)
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)
システム最高出力:830PS(610kW)/8000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y XL/(後)305/35ZR20 107Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:6.4リッター/100km(約15.6km/リッター、WLTPモード)
価格:3678万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:6890km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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