レクサスLC500(FR/10AT)
まだまだ踏ん張る 2022.03.26 試乗記 一部改良を受けたレクサスのフラッグシップクーペ「LC500」に試乗。乗り味のさらなる深化を目指し磨きをかけたというシャシーと、最高出力477PSを誇る5リッターV8自然吸気エンジンの織りなす走りを、500kmに迫るロングドライブで確かめた。本格的なシャシー改良を実施
今回の試乗に連れ出したレクサスLC500は、2021年9月に一部改良を受けた最新バージョンである。
LCは2017年3月にまずはクーペのみが発売された。2018年8月にステアリング周辺構造強化や新型ダンパーを含む一部改良を実施して、続く2019年には大っぴらには公表されなかったが、後輪の接地性を高めるためリアバンパー部材の剛性を強化したそうだ。そして2020年6月に「コンバーチブル」が追加された際に、クーペも同時に大々的に改良された。このときは、フロントロアアームのアルミ化やダンパーを含む全面的なシャシー改良と、パワートレイン特性の熟成が図られた。
つまり、今回の試乗車は通算4度目の改良を受けたクーペということだ。ちなみに、その改良メニューは新しい外板色が追加されたほか、クーペのみ、シャシー方面にまたまた手が入っている。しかも、その内容はコイルやスタビライザーのバネレート、およびダンパーの制御を最適化……と、サスペンションセッティングの完全見直しに近い。これにより「タイヤの接地感をアップし、操舵入力に対する車両応答のリニアリティーと高い旋回G 領域でのコントロール性を高めました」というのがレクサスの主張である。
また、可変レシオステアリングと後輪操舵を組み合わせた「レクサスダイナミックハンドリングシステム(LDH)」の制御も手直しされたというが、今回の試乗車は非装着だった。
それにしてもLCクーペは毎年、シャシー関連になにかしらの手が入れられているわけだ。しかも、その都度の改良内容も、決して小さいものではない。デビュー後の年次改良をいとわないのは、この種の高級車ブランドのたしなみとしても、本格的なシャシーの改良だけを、これほど繰り返すのもめずらしい。
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快音を奏でる自然吸気のV8エンジン
LC500で走りだすと、もはや絶滅危惧種でもある大排気量マルチシリンダーエンジンが、なにより印象的である。この5リッターV8自然吸気エンジンは、巨大な肺活量を利して低速トルクがたっぷりしているが、回転上昇にともない雑味のない高音で歌い上げながら、7200rpmのリミットまでトルクを積み上げていく。
ヌケのいい高いチューンドサウンドはなつかしくも刺激的だ。ただ、同じLC500でも背後から響く排気音もダイレクトにブレンドされる、コンバーチブルの極上の歌声を経験してしまうと、クーペではちょっと物足りなく思えてしまうのも事実。現時点では室内に音を導くサウンドジェネレーターは備わるそうだが、最近の常識となりつつあるスピーカーによる追加演出はしていないという。それはそれですがすがしい態度ともいえるが、いっそ生音の追求はコンバチにまかせて、クーペはクーペで、スピーカー音も含めた派手めの独自演出をしてもいい気がする。
また、スロットルのオンオフでパワトレがゴトンと揺れるのは気になる。これは別の機会に乗ったハイブリッドの「LC500h」では見られなかったので、V8特有の現象のようだ。次の一部改良ではこのあたりにも手を入れてほしいところだ。
……といろいろと重箱のスミをつついてしまったが、このV8サウンドが絶対的にはかなりの快音であることは間違いないし、体感的にはLC500hより間違いなくパワフルだ。この発売から5年が経過してもいまだに新鮮でスタイリッシュな大型ラグジュアリークーペが、V8の快音をとどろかせて走る……ということだけでも、このクルマの存在価値はあると思う。
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ドライブモードを選びあぐねる
幾度もの改良と熟成の手が入ったシャシーは、ドライブモードセレクトを「Comfort」モードにすると、なるほどフワリと柔らかい。しかし、ザラザラという路面感触はわずかに残り、上下動も多め。フラット感もちょっと物足りず、ハイエンドクーペとして乗り心地は絶品か……といわれると、正直、そこまでではない。
ドライブモードを「Normal」あるいは「Sport S」にすると、シャシーは中間のノーマル設定となる(Sport Sではさらにエンジンや変速機がパワーモードになる)。路面のアタリはComfortよりわずかに強まるものの、上下動は落ち着いて、バランスが改善する。しかし、凹凸が連続する路面だとバネ下のバタつきは目立ち、高速や山坂道に入るとフラット感がやはり物足りない。
ただ、2018年の改良で大幅に強化されたステアリングだけは、印象的なほどタイトでリニアだ。しかも過敏でないのも好印象である。そのスッキリした操舵感は素直で心地よく、LCの売りのひとつといえる。
サスペンションがもっとも硬いスポーツ設定となり、パワートレインもさらに元気な専用制御となる「Sport S+」モードに合わせると、さらにアシは引き締まる。かといって当たり前だがレーシングカーのようにガチガチになるわけではなく、数あるモードのなかでは車両挙動ももっともフラットになるので、これがいちばん快適と感じる向きも少なくないだろう。自慢のシャープなステアリングともほどよくマッチして、乗り味はもっとも統一感のあるものとなる。
ただ、そのSport S+モードでも路面のウネリなどであおられてしまうクセは隠しきれない。しかも、挙動はたしかに落ち着くが絶対的にはやはり硬めなので、この価格帯のラグジュアリークーペとしては「もうちょっと乗り心地が良くならないの?」とツッコミを入れたくなるのも事実だ。
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魅力的な内外装の仕上がり
……このように、少なくともLDHなしのLC500では、どのドライブモードを選んでも乗り心地や操縦性は「おびに短し、たすきに長し」の感が強い。乗り心地はどんな場面でもほどほどに優しいが、都合5日間にわたった試乗でも「このクルマはこういう道を、こう走ればいいのか!」と留飲の下がる瞬間はなかった。強いていえば、路面整備が行き届いた高速ワインディングロードを、もっとも硬いSport S+でV8を歌わせながら攻めると、それなり俊敏で気持ちよかった。純粋な高性能スポーツカーと割り切れば、それなりに納得感もあろう。ただ、この価格帯のクーペとしては、それではちょっと間口がせまい。
LCが毎年のようにシャシー改良の手を入れられているのも、開発陣が試行錯誤しているからだろう。実際、今回もそれなりの進化は感じたが、まだ明確な課題は残る。とくにどんな場面でも上下動が収まりにくく、フラット感が物足りない。これは「LS」に乗っても同じように思ったが、両車が使う「GA-L」プラットフォームは意外にスイートスポットがせまいのかもしれない。
それはともかく、試乗車の外板は、今回の一部改良の目玉でもある「ソニックイリジウム」という新色に塗られていた。写真では分かりにくいが、実際にはプラチナというか、本物の軽合金のような深みとキラキラ感のある輝きが独特で、この色だけでLCを選ぶ人もいそうである。
そんな新色に彩られたLCのエクステリアだけは、発売から5年が経過した今でも、すれ違っただけでハッと目をひく。また、インテリアも計器やインフォテインメント関連装備には古さを感じさせつつあるものの、ウッドやレザーがあしらわれた調度類はさすがの職人技である。
これは「他人にどう見られるか」という、このセグメント最大の存在価値はクリアしていることを意味する。ラグジュアリークーペ日本代表として、LCにはまだまだ踏ん張ってほしい。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
レクサスLC500
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4770×1920×1345mm
ホイールベース:2870mm
車重:1940kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:10段AT
最高出力:477PS(351kW)/7100rpm
最大トルク:540N・m(55.1kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)245/40RF21 96Y/(後)275/35RF21 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツZP)
燃費:8.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1327万円/テスト車=1406万5300円
オプション装備:フロント245/40RF21+リア275/35RF21ランフラットタイヤ&鍛造アルミホイール<ポリッシュ仕上げ+ブラック塗装>(39万6000円)/トルセンLSD+フロント&リアブレーキ<高摩擦ブレーキパッド付き>(4万4000円)/オレンジブレーキキャリパー(4万4000円)/カラーヘッドアップディスプレイ(8万8000円)/“マークレビンソン”リファレンスサラウンドサウンドシステム(22万3300円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1836km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:484.3km
使用燃料:68.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.1km/リッター(満タン法)/7.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。