「トヨタGRカローラ」と「ホンダ・シビック タイプR」 2台のハイパフォーマンス国産車に思うこと
2022.05.02 デイリーコラム同時に出てきたアツいヤツ
去る2022年4月1日、アメリカで発表された「GRカローラ」。情報をご覧になられた方も多いと思います。日付もアレなので、ティーザーが出た当初はエイプリールフール向けの“フォトショ爆弾”ではといぶかしがったのですが、ふたを開ければガチだったので驚きました。
と、その1週間後の4月7日、ホンダが次期型「シビック タイプR」にまつわるプレスリリースを発信しました。いわく「開発を進めている新型シビック タイプRが、鈴鹿サーキット国際レーシングコースにおいて2分23秒120のラップタイムを記録」とのこと。これはFFの市販車では最速となるタイムで、前のレコードホルダーは先代となるFK8型シビック タイプRをベースに、車体やバネ下の軽量化を施し「ミシュラン・パイロットスポーツカップ2」を履かせるなどレーシーにまとめられた「リミテッドエディション」です。
そのタイムをFL型ベースの新型シビック タイプRは標準モデルで0.8秒以上削り落としたというわけですから、進化の幅はなかなかなものです。ドライバーは両方とも同じ、GT500で「モデューロNSX」を駆る伊沢拓也選手ですから、ほぼほぼ車体側の進化幅が表れた結果とみていいでしょう。ちなみに鈴鹿での2分23秒なにがしがどのようなタイムかといえば、ざっくり「日産GT-R」の5秒落ちといったイメージです。最高出力570PSのトラクションマスターを向こうに、FFの手漕(こ)ぎ3ペダルで張り合っての時計とみれば、そのポテンシャルが推し量れます。
“タイプR”のこれからに注目
先代、先々代とシビック タイプRが目指したところは、欧州に軸足を置き旧WTCC(世界ツーリングカー選手権)、現WTCR(世界ツーリングカーカップ)カテゴリーでの活躍と、それをベースにしたマーケティング活動によるブランドイメージと販売の向上でした。同様の志向を抱く「ルノー・メガーヌ」や「フォルクスワーゲン・ゴルフ」との、ドイツ・ノルドシュライフェを舞台にFF最速の座を競った場外乱闘は記憶に新しいところです。
が、そんな2010年代とこの2020年代とでは、バックグラウンドがいろいろと変わってしまったのも事実です。コロナ禍によって残念ながら世界のセパレーションが明確化、WTCRカテゴリーのリージョン化も進み、開発もマーケティングもその環境が変わりました。加えてホンダは英国工場を閉鎖、シビック タイプRは開発だけでなく生産の軸足も日本に移ります。
新しいシビック タイプRのマーケティング上の位置づけは恐らく欧州からアジア側へとシフトすることになるのではないでしょうか。WTCRカテゴリーもリンク&コーやヒョンデの参戦によってアジアでの人気も高まっています。
加えて感じるのが、FFを極めるというホンダの姿勢です。YouTubeにアップされた今回の鈴鹿最速ラップのドキュメントでも、「ライバルはタイプRである」とか「自分自身を超える」などという言葉が聞かれます。クルマをニュルでゴリゴリしごいて性能を国際的に可視化するなんてことがホイホイとできなくなったことで、かえってホンダは自らのFF屋としてのヒストリーを見つめ直す気づきになったとすれば、それはいいことだと思います。ちなみに先代のFK8でのアウトプットは既に最高出力320PS、最大トルク400N・mと、FFとしては臨界点。これ以上パワーを上げてもタイヤが食わないというところに達していますから、さらに推進力を得るにも一筋縄ではいかないでしょう。そのあたりを新型はどう対処しているかも興味深いところです。
「GRカローラ」は戦略的な一台
一方、トラクション的には余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)のGRカローラは、果たしてどういった企てなのか。
これはもう、先に佐野弘宗さんがwebCGのデイリーコラムで書かれたとおりだと思います(関連記事)。GRブランドを世界的に浸透させるうえで、WRC(世界ラリー選手権)レプリカである「GRヤリス」ではカバーできない、言い換えればWRCの訴求力が及ばないマーケットに向けたスポーツモデルの素材として、メカニズムがコンバートしやすく世界戦略商品であるカローラに白羽の矢が立ったということでしょう。加えて、中身をみればGRヤリスの恩恵あらたかですから、その開発投資回収の一環という側面も考えられます。
それにしてもトヨタにおいて、カローラという名前の重さは、われわれが想像する以上のものなのかもしれません。日本市場においてはこの2月、カローラがヤリスを抑えて登録車販売台数でトップに立っています。言わずもがな、「カローラ クロス」の台数がまるっと乗っかって順位を押し上げているわけです。あるいは、スーパー耐久のST-Qクラスに参戦する水素燃焼エンジン車両のベースにカローラを採用したのも、その名への思い入れからという側面があったと聞いています。
GRカローラがGRヤリスに準ずるパフォーマンスをもつクルマになることは想像に難くありませんが、個人的には搭載されるG16E-GTSが日常性の高いパッケージで扱えるというところに興味があります。というのもこのエンジン、回転フィールにいかにもレーシング由来の高剛性・高精度を感じさせる凝縮感がありまして、気筒数は半分ながら往時のRB26DETTのようないいもの感が伝わってくるんです。人も荷物も乗せるに困らないハコでそのエンジンを慈しめるというところに、速い遅いうんぬん以前でヨダレが垂れてしまいます。
それにしても、片や56年。片や50年です。共に長い歴史をもつカローラとシビックが、今でも最速だ最強だと現役感バリバリで活躍しているのをみると、なんだか励まされる気がするのは、いよいよ老眼の進行を実感する中年のオッサンがゆえでしょうか。トホホ。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車、本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。