プジョー508(FF/6MT)/508SW(FF/6MT)【海外試乗記】
新しいプジョーの顔 2011.03.01 試乗記 プジョー508(FF/6MT)/508SW(FF/6MT)次世代のプジョーデザインを取り入れ登場した「508」。「407」よりもひと回り大きくなった新型は、どんな走りを見せるのか。
「408」との違いは?
2010年秋のパリサロンで発表された「プジョー508」は、「407」の後継車である。同じクラスなのに400番台から500番台に移行したのはこれが初めてではなく、1960年代の「404」から「504」への進化に先例がある。
しかし今回は、すでに「408」というクルマも存在している。408もまた、407の後継車だ。もっとも中身や仕向地は違う。508の主要マーケットは欧州や日本といった先進国で、407と同じ「プラットフォーム3」を使うのに対し、408は中国やブラジルなどの新興国向けとして、「プラットフォーム2」の「308」をベースに開発された。
それだけ新興国需要が増えているということなのだろう。なかでも中国は特別扱いで、世界中で唯一、408と508の両方が売られるという。
508は顔つきも407や408とは違っていて、グリルの位置が上がり、ヘッドランプの吊り目はやや控えめになった。1年前、プジョー社創立200周年を記念して発表されたコンセプトカー「SR1」に似たフロントマスクだ。SR1で提示された次世代のプジョーデザインを、初めて採用した市販車なのである。
その508の国際試乗会が、地中海に面したスペインの港町、アリカンテ周辺で行われた。南欧らしい澄みきった青空の下で対面した実車は、その顔つきよりもプロポーションそのものが印象的だった。
広くなっただけじゃない
「508」のボディサイズは、全長がセダンで101mm、ワゴン(SW)で48mm、ホイールベースは92mm、「407」より拡大しているのだが、フロントオーバーハングは逆に43mm短縮している。躍動感は影を潜めたものの、代わりに端正な雰囲気を手に入れた。「406」や「405」「505」あたりの路線に戻ったともいえる。このクラスのプジョーはこうでなければと思う人は多いはずだ。
さらに外寸の割に狭いといわれていた室内空間は拡大した。例えば後席のひざの前の空間は52mmも広がっている。荷室についても同じで、セダンのトランクは407時代の407リッターから545リッターまで増え、トランクスルーにすると1581リッターまで拡大。SWで後席を倒すと1865リッターの空間が得られる。
インテリアデザインも外観同様落ち着いている。むしろ仕上げが良くなったことに目がいく。オートエアコンが4ゾーンになるなど装備レベルもアップした。実用性重視の408があるおかげで、プレミアム性を強調することが可能になったのだろう。
シートの座り心地はそんなにふっかりとはしていなかったけれど、数時間乗り続けてもまったく不満を覚えなかったから、作りはいいと評することができる。
日本導入は2011年6月
エンジンはガソリンが1.6リッターの自然吸気とターボ、HDi(ディーゼルターボ)が1.6、2.0、2.2リッターターボである。旧型に存在したV6はガソリン/ディーゼルともに消滅した。さらに驚くのはこのエンジンに合わせ、サスペンションのダウンサイジング(?)まで敢行されたことだ。
リアのマルチリンクはそのままだが、フロントが407と同じダブルウィッシュボーンなのは2.2リッターHDiを積む「GT」だけで、それ以外はマクファーソンストラットに置き換えられた。この前足だけで12kgの軽量化を達成し、車両全体では外寸の大型化にもかかわらず、セダンで25kg、SWでは45kg軽くなっているという。
2011月6月に日本に導入予定のモデルは、156ps、24.5kgmのガソリン1.6リッターターボで、6段ATを組み合わせる。「RCZ」や「3008」と同じパワートレインだ。スペインで乗ったのはこれのMT仕様だったが、アイドリングのすぐ上からなだらかに過給を立ち上げるエンジンと見た目より軽いボディのコンビで、高速道路や山道を含め十分な加速を披露してくれた。
伝統のネコ足健在
乗り心地は最近では少数派になった、足をしっかりストロークさせてショックを吸収するタイプである。つまりプジョー伝統のネコ足は健在だ。しかもボディの大きさや重さが味方して、車体の動きは「207」や「308」よりゆったりしているから、意味もなく長距離を目指したくなってしまうほど心地いい。限りなく快感に近い快適なのである。
それでいてハンドリングは、サイズを忘れさせるほど軽快だ。電動油圧式ならではのしっとり感が好ましいパワーステアリングを切ると、ノーズはスッとインを向き、大柄な5シーターとは思えぬ高度なロードホールディングを武器に、狙ったとおりのラインを抜けていける。爽快という言葉を与えたくなるほど、自然な操縦感覚の持ち主だった。ストラットのデメリットなどまるでなく、軽さというメリットだけが印象に残った。
これ見よがしなデザインやメカニズムに頼ることなく、基本となるボディとシャシーを入念に磨き上げることで、最高レベルの走りを手に入れる。顔つきこそ新しくなったけれど、ミドルクラスのプジョーが連綿と受け継いできたクルマ作りの伝統は、この508にもしっかり継承されていた。
(文=森口将之/写真=プジョー・シトロエン・ジャポン)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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