航続距離でもインフラでもない! EVが市民権を得るうえで本当に必要なもの
2022.06.20 デイリーコラム共犯者の供述
「トヨタbZ4X/スバル・ソルテラ」のメディア向け試乗会に筆者とともに参加した、webCGほった君による記事については、賛否両論いろいろなご意見があったようだ。それらを大別すると2つあって、ひとつは「やっぱりEV(電気自動車)は使えない!」という趣旨、もうひとつは「これはEVの問題というより取材班の失敗では?」というものだった。私はほった君ではないので確かなことはいえないが、より記事の本旨をすくった意見は後者ではないかと思う。
このときの試乗会は開催したトヨタとスバルみずからが「EVは現状どれくらい使えるか?」を裏テーマにしていたきらいもあった。われわれ取材班が参加した日も、高速道路と激しいワインディングロードを組み合わせた約316kmを、途中に急速充電を1度(30分)入れて走り抜けるプログラムだった。
前半と後半でクルマを乗り換えることになるのだが、われわれが後半(高速メインの行程で約130km)にあてがわれたbZ4Xの出発時点での予想航続可能距離は、エアコンをオフにして200km超。ちょっと余裕に欠ける気はしたが、それでも淡々と走れば追加充電なしで目的地に到着できる計算だった。ただ、実際には途中の時間ロスもあり、最後の高速セクションで走行ペースを大幅に引き上げる必要に迫られた。高速道路でのEVは、速度を上げるほど消費電力も正直に増加する。
bZ4Xの名誉のために補足しておくと、試乗車にも備わっていた純正の「コネクティッドナビ」には、航続可能距離が目的地までの距離より短いときには充電スポットを提案する……という電欠予防機能もあり、実際に今回も途中で提案もあった。しかし、それに従っていては30分以上の大遅刻は必至。ステアリングをあずかった筆者はbZ4Xからの提案をあえてスルー。刻々と減っていく航続可能距離やルート残距離とにらめっこしながら「とにかく目的地にたどり着くべし」と強行突破をはかったのだが、最後は力尽きた。しかも、観念した時点での航続距離はわずか20kmほど。そこからあわてて急速充電器を探したところで、そんな都合よく見つかるはずもなく……というのがてん末である。
くだんのwebCGほった君の記事も、EV批判よりは「そんな取材班のポンコツっぷりを笑ってください」というのが本旨であろう。「電欠」という少しばかり衝撃的なタイトルがつけられていたこともあり、激しいご意見もいただいたようだが。
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“足し算”による進化には限界がある
とはいえ、これがエンジンを搭載したクルマだったら、そもそも今回のような事態にはならなかったことも事実。現代はコンパクトカーでも、ハイブリッドなら満タン1000km超えもめずらしくない。今回の行程では追加給油もまず不要だし、かりに必要になっても補給時間はせいぜい10分。後続距離に少しでも不安を感じたら、さすがに筆者でも、その時点で迷うことなく給油していただろう。
それに、今回のように記事にして笑ってもらえるような状況ならいいが、これが重要な取引先へ向かう途中だったり、家族や友人の緊急事態だったりしたら……とリアルに想像すると「やっぱりEVは怖くて使えない」と思ってしまう気持ちも分かる。今回「やっぱりEVは使えない!」との声を寄せていただいたような皆さんの意見を見ても、「EVが嫌いなわけではない。EVが普及するには航続距離や充電時間などの基本性能が、従来のクルマに追いつかなければならない。話はそれからだ」というものは多い。
現在市販されているEVで、一充電あたり航続距離1000kmのクルマはさすがにまだ存在しないが、600km台後半をうたう例はいくつかある。これなら、距離だけでいえばミドルクラスのエンジン車と同等レベルに達している。ただし、それらが搭載する電池容量は90~110kWhといったところで、こうなると充電時間が問題となってくる。
たとえば112kWhの電池を積んで航続距離650km(WLTCモード)をうたう「BMW iX xDrive50」の場合は、「150kWの最新急速充電器であれば、最短40分で80%まで充電できます」という触れ込みとなっている。ただ、現在国内で普及している急速充電器は20~50kWのものが主で、最近いくつかの施設で90kWがポツポツと出はじめた段階だ。そんな日本の急速充電インフラでiX xDrive50を運用するとすると、50kWなら30分で2割程度、最新鋭の90kWでも30分で4割程度しか充電できないことになる。
さらに「給油時間はせいぜい10分」というエンジン車の利便性に本当に追いつくとしたら、急速充電器の出力は大幅に引き上げなければならない。今後の技術進化で電池の大容量化や小型軽量化、低コスト化はさらに進むだろうが、一定容量の電池を短時間で充電するには、素直に充電器の出力を上げるしかないからだ。8割充電するのに150kW充電器で40分かかるiX xDrive50の充電時間を10分にするには、単純計算でその4倍=600kW(!)という、とてつもない急速充電器が必要となる。
EVを従来のエンジン車とまったく同じように使うには、100kWh級の大容量電池を抱えたEVが道路にあふれかえり、市中には600kW級の急速充電器が居並ばなければならない。はたして、そんな社会は実現可能なのか。今ある90kWの充電器でも、作動中には近くにいるのがはばかられるほどのうなり音がする。600kWといわずとも、150kW級の急速充電器が複数ならぶと想像するだけでも、ちょっとゾッとする。やはりEVの普及なんて絵空事なのか。
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社会がインフラを変え、インフラが社会を変える
筆者も、どこかの時点でEV普及の機運がしぼんでしまう可能性はゼロではないと思っている。そうした危惧をよそに、もし本当に世の中がEVに傾くとしたら、その潮目はEVの性能がエンジン車に追いついた瞬間ではなく、多くの人が「エンジン車よりEVに乗るほうが便利(あるいは得)」と実感するようになったときだろう。そのキッカケはガソリンスタンドの減少かもしれないし、ガソリン価格の高騰、あるいは真に実用的な低価格EVの登場かもしれない。
逆にいうと、ひたすらバッテリーの大容量化と急速充電インフラの進化・拡大だけに期待しているうちは、EVの本格普及はないと思われる。筆者も冒頭の体験であらためて実感したように、最初から継ぎ足し充電ありきでEVに乗るのは、この世でもっともストレスフルな行為のひとつだ。今も昔もEVはやはり、自宅や保管場所で普通充電するのが基本である。自分が乗るEVの性能に合わせて、急速充電に頼らないように運用するのが、EVと気持ちよく付き合う一丁目一番地といっていい。
だから、EVが本当に普及する社会は、今とは少しちがった風景になると思われる。たとえば、ドライブ旅行は途中充電など必要としないパターンが主流となる。宿泊施設の駐車場には台数分の200V電源が用意されるのが普通となり、駐車料金かなにかの名目で、利用者が電気代を負担するようになるかもしれない。
1台のミニバンに赤ちゃんを含めた家族全員を詰め込んで、片道何百kmもの道のりを1日で移動する……といった年末年始やお盆の風物詩も、EVが普及すれば過去のものとなる可能性が高い。帰省ラッシュの高速SAやPAに急速充電器などいくつあっても足りない。多人数の長距離移動は航空機や鉄道、高速バスが、今以上に常識となる。もちろん、現状では帰省ラッシュど真ん中の新幹線に、赤ちゃん連れで乗るのをためらう向きは多かろう。しかし、そういうニーズが本当に増えれば、目ざとい鉄道会社やバス会社は、子供連れ専用車両や個室といったサービスもはじめるにちがいない。また、今のような全国民いっせいの移動が本当にむずかしくなれば、休日の分散化もいよいよ本格的に進むはずである。
もちろん緊急用インフラとして急速充電器は今後も必要だが、そこで充電をしているEVは「なにかしら緊急事態の人なのだろう」と同情されるか、「エネルギーマネジメントに失敗した間抜けな人」もしくは「EV時代でも長距離運転が趣味のクルマオタク」と、生暖かく見守られることになるかもしれない。そんな社会なら、急速充電器も大量には必要ない。いずれにしても、世の中はなるようにしかならない。しかし、こうして考えるとEV社会もそれはそれで悪くなさそうだ。というか、そうでなければEVはそもそも普及しないだろう。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、BMW、三菱自動車/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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