レクサスLX600“オフロード”(4WD/10AT)
一点突破 2022.06.27 試乗記 新型「レクサスLX」には“オフロード”を名乗る悪路走破に特化したグレードがある。「1290万円もの高額車で悪路?」と思われるかもしれないが、とにかくある。その悪路も含めて500kmほど試してみた結果、想像以上のマニア向け物件であることが判明したのだった。ランクルとのシャシーのちがい
レクサスLXのハードウエアの主要部分はあの「ランドクルーザー300(以下、ランクル)」と共有する。その悪路性能は掛け値なしに世界トップクラスであり、独立ラダーフレームとリジッドサスペンションをもつ高級SUVという定義では、ほかには「メルセデス・ベンツGクラス」くらいしか存在しない。競合他車がほぼ例外なく、どんどん舗装路寄りのクルマづくりになっているのに対して、LXのそれはちょっと異質である。もちろんLXも世代交代ごとに舗装路性能を確実に高めてはいるものの、悪路性能あるいは極限時の信頼性における“ゆずれない一線”のレベルが他車とは別次元に高い。
ハードウエアにおける最大のちがいがエンジン排気量だった先代とは異なり、新しいLXが搭載する3.5リッターガソリンターボは、環境対応の都合もあってか、ピーク性能値も含めてランクルのそれと共通となった。そのかわり……なのかはともかく、先代では共有していたシャシーのハードウエアにランクルとの明確な差別化がなされたのが新型LXの特徴だ。
ポイントは大きく2つある。ひとつがサスペンションで、ランクルはコイルばね(一部グレードにAHCがあった先代ランクル200に対して、新型はコイルに統一)だがLXは空気ばねと油圧回路を一体化した「アクティブハイトコントロール(AHC)サスペンション」となり、連続可変ダンパーの「アダプティブバリアブルサスペンション」も標準装備。実車を見ると前後ともにコイルが残されているが、「実際にコイルが効力を発揮するのは縮み側最後の約50%で、あとは万が一AHCが壊れてしまったときに“生きて帰る”ための車高を確保するためです」とは開発担当氏。
また、ランクルのパワステが信頼性が証明されている油圧式をベースに電動式を追加した重ねがけなのに対して、LXのそれはシンプルな電動式である。電動パワステは操舵感がよりすっきりとするいっぽうで、信頼性は油圧式にゆずるとされるが、LXの電動パワステが壊れる状況というのもリアルには想像しにくい。裏を返せば、ランクルの信頼性要求レベルが信じられないくらい高いということだ。
国内限定の“オフロード”
今回の試乗車は3種類あるグレードのうちの“オフロード”である。5人乗りと7人乗りが選べるシートレイアウトについては素のLXと同様でも、タイヤがハイトの高い18インチ(素のLXは20インチ、“エグゼクティブ”は22インチ)になるほか、前後のデフロック機構が追加される。
ランクルで最大限の悪路性能を追求している「GRスポーツ」には、必要に応じてスタビライザーを自動的に解除する「E-KDSS」が備わっていたが、それはLX600“オフロード”には備わらない。そのぶんはAHCの緻密な車高制御が補う思想だろう。LXのフロントスタビライザーはランクルより細く柔らかく、リアにいたってはそもそも備わっていない。
ちなみに、素のLXや“エグゼクティブ”は海外でも販売されるのに対して、この“オフロード”だけは現時点で日本専用だそうだ。LXとしては特殊なグレードゆえに、地元市場でのお試し販売という側面もあるかもしれないが、こういうクルマにも極限的な性能を求める筋金入りのマニアが一定数存在するのが、わが日本市場の特徴だ。
また、スピンドルグリルやバンパー、ドアハンドル、ウィンドウモール、ドアミラー、ホイールアーチ、ホイールなど、他グレードではメッキや車体同色になる外観ディテールが、ことごとくブラックかマットグレー調の仕上げとなるのも、“オフロード”専用である。これらに機能的な意味はなく、あくまでコスメ的な差別化だ。しかし、ただでさえ目立ちまくりのLXゆえに、その押し出し感がはっきりと薄まる“オフロード”の仕立てを、素直にありがたいと思ってしまった筆者は小心者である。
見事なまでの“レクサスの走り”
それにしても、「LX史上初めて、プラットフォーム設計段階からレクサスの要件を入れ込んで開発した」という新型LXの走りは、これまで以上にレクサスしている……というか、ランクルとのちがいが大きい。専用のフットワークと騒音対策によって低速での乗り心地は明らかにスムーズになり、キャビンは静かである。さらに操作系の仕立ても、そういうちょっと落ち着いた運転がしやすいものとなっている。
レクサスのお題目である「すっきりと奥深い走り」を目的に完全電動化されたパワステは、なるほどスルリと軽やかで滑らかな操舵感で、ピーキーな動きを抑制しやすい。また、エンジンも基本性能はランクルと同じだが、スロットルの味つけは専用だという。「フロントが少し持ち上がってでもグイッと前に出る感覚にしつけてあるランクルに対して、LXではフラット姿勢のまま前に押し出す感覚を重視しました」とは開発担当氏の弁である。
実際に乗っても、その開発意図には納得できるところが多い。左右方向に落ち着いた動きをさせやすいステアリングに加えて、アクセルは前後方向で同乗者にピーキーな挙動を感じさせない運転がやりやすい。そこは新型LXの明確な美点といっていい。このあたりの入念な仕立ては、今回のLXに運転手付きVIP用途を想定した“エグゼクティブ”が用意されることも無関係ではないだろう。
スイートスポットは22インチ
今回はちょっとした悪路も試してみた。が、取材班が思いつきで踏み入れられる程度の場所なら、“オフロード”専用装備の前後デフロックなど使わなくても、鼻歌まじりでクリアできるのはいうまでもない。さらに、サイドウォールが分厚い65偏平の18インチタイヤは、高価なホイールのリムを傷つけにくい……という心理的な安心感も高い。
ただ、LXにはいかにも悪路に不似合いな50偏平22インチタイヤの用意もある。今回の“オフロード”に22インチは正規装着不可だが、最上級の“エグゼクティブ”には標準装備、20インチが標準の素モデルにもオプションで装着できる。これまでwebCGで公開されてきた諸先生方の試乗リポートからも分かるように、LXは22インチでも猛烈な悪路性能を誇る。LXの22インチはレクサスならではの静粛で正確な舗装路性能に加えて、強靭なサイドウォールと、岩場でもソフトにたわむトレッドを両立した専用開発の特製タイヤなのだそうだ。
もっというと、LXはサスペンションそのものも、22インチに最大の照準を合わせて開発、調律されているという。今回の18インチは、たとえば低速での目地段差や凹凸の乗り越え時はたしかにソフトな肌ざわりだが、その点は22インチでも大きく劣るわけではない。また、もともとが悪路性能を最重視した18インチだけに、高速での安心感や安定感、フラット感は22インチあるいは20インチのほうが明らかに上手である。
また、大きなギャップに蹴り上げられるとどうしてもドシンと強い衝撃が伝わってきたり、凹凸が連続するような路面ではばね下が暴れてしまったり……といったクセを隠し切れていないのは、タイヤサイズを問わず、すべてのLXに共通する。意外なことに、LXでオールラウンド性が高いのは18インチではなく、22インチのほうなのだ。
乗り越えた先にある世界
とくに高速になるほど少しばかり心もとなくなる“オフロード”の操縦安定性と接地感は、ちょっと好き嫌いが分かれそうである。もちろん、高速道でも左側の走行車線をゆったりと巡航するなら問題があろうはずもないが、小気味よく車線変更しようとするとどうしても気を使う。……といった乗り味をみると、このグレードが海外展開されない理由は、単純なお試し期間というわけではないのかもしれない。
LX600“オフロード”は今のレクサスでいうと、個人的には「RC F」にも匹敵する、すこぶるつきのマニア物件だと思う。日常性能を少しばかり犠牲にしてでも、一点突破的な性能(このクルマの場合は悪路)を求める武闘派マニア、もしくはそういう雰囲気を楽しみたい好事家のみなさんのためのLXである。
この“オフロード”にしても4人乗りの“エグゼクティブ”にしても、新型LXのバリエーションは乗り手を選ぶものが多い。オーナードライバーがLXをLXらしく快適に乗りたいなら、基本の選択は素のLXであり、ぜいたくをいえば、そこにオプションで22インチタイヤを装着することをおすすめする。ただ、小心で控えめな性格の向きは「それなら、落ち着いた外観の“オフロード”ルックもオプションで用意してほしい」とお思いかもしれない。それについては筆者もまったく同感だ。
こうして微妙な仕様差でも、乗り味に少なからぬ影響があるのは、LXの出自が本物のオフローダーだからだ。LXをそこいらの乗用車設計の高級クロスオーバーSUVと同じに考えてはいけない。LXに乗ろうと思うなら、もはやとんでもない状況になっている納期問題を含めて、それなりの割り切りと覚悟が必要である。まあ、それを乗り越えた先には、ほかでは絶対に味わえないLXの独自世界があるのも事実なんですけどね。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスLX600“オフロード”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5100×1990×1885mm
ホイールベース:2850mm
車重:2580kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.4リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:415PS(305kW)/5200rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2000-3600rpm
タイヤ:(前)265/65R18 114V M+S/(後)265/65R18 114V M+S(ダンロップ・グラントレックAT23)
燃費:8.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1290万円/テスト車=1346万1000円
オプション装備:リアシートエンターテインメントシステム+HDMI端子<1個/フロントセンターコンソール後部>+上下前後調整式フロントヘッドレスト(28万7100円)/マークレビンソン リファレンス3Dサラウンドサウンドシステム(27万3900円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4389km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:501.3km
使用燃料:71.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.1km/リッター(満タン法)/7.0km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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