第701回:名作映画のなかに名車あり 銀幕に登場した忘れがたき5モデル
2022.07.04 エディターから一言 拡大 |
ともに19世紀末に誕生した“自動車”と“映画”はとても親和性が高いようで、これまで銀幕には数多くのクルマが登場してきた。とりわけ、まさしく名車というべきクルマたちが名演を披露してきた事例も枚挙にいとまがない。今回はそんな“銀幕を駆け抜けたクルマ”のなかでも、筆者が実際にこの目で見ることができた歴史的な名車5モデルを紹介する。
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秘密兵器を満載した「アストンマーティンDB5」
『007/ゴールドフィンガー』『007/サンダーボール作戦』
映画版『007』に史上初の「ボンドカー」として登場した「アストンマーティンDB5」。まずは『007/ゴールドフィンガー』(1964年公開)に、ショーン・コネリー扮(ふん)する主人公ジェームズ・ボンドの愛車としてスクリーンを駆け巡った。
実はこの車両、アストンマーティン・ラゴンダ社の旧ニューポートパグネル工場内スペシャルコーチワーク部門にて特別に改装された文字どおりの“ワークスカー”。機関銃や回転式ナンバープレート、原始的なナビシステム、リア防弾装甲、携帯発信器、煙幕/オイル散布装置、助手席射出シートなど、当時としては夢のような秘密兵器で度肝を抜いた。
またDB5ボンドカーは、翌1965年公開の『007/サンダーボール作戦』でも再び登場して大活躍を見せたほか、その後も最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』に至る数多くの『007』作品に出演。現在もなお「The Most Famous Car in the World(世界一有名なクルマ)」という、栄誉ある称号で呼ばれているのだ。
そんなDB5ボンドカーに筆者が遭遇したのは、2019年8月のことであった。映画『007/サンダーボール作戦』のPR活動で世界巡回を行ったこともある本物のボンドカーが、米カリフォルニア州モントレーで開催されたRMサザビーズ社のオークションに出品された。そしてその会場において、手数料込みで638万5000ドル、当時のレートで邦貨換算約6億7000万円という恐るべき高価格で落札されるさまを目の当たりにすることができたのである。
空飛ぶクラシックカー「チキチキバンバン」
『チキチキバンバン』
小説『007』シリーズの原作者として知られるイアン・フレミングが著した童話を原作とし、映画版『007』シリーズの仕掛け人であるアルバート・R・ブロッコリがプロデューサーを務めた『チキチキバンバン』は、1968年に公開され日本でも大ヒットを博したファンタジックなファミリー向けミュージカル映画だ。劇中で大活躍する空飛ぶクラシックカー「チキチキバンバン」が、そのまま映画のタイトルになっていた。
その風変わりな車名は、1920年代に英国ブルックランズサーキットを舞台に活躍したレーシングカーに由来するものだ。
本来の映画タイトルおよび車名は『Chitty Chitty Bang Bang(チティ・チティ・バン・バン)』なのだが、配給元のユナイテッド・アーティスツ日本法人において当時宣伝部長であった故・水野晴郎氏(のちに映画評論家および監督に転身)のアイデアで、日本の子どもでも発音しやすい『チキチキバンバン』いう邦題に変更されたとの逸話も残っている。
チキチキバンバン号は、映画出演およびプロモーション活動で世界を巡回したのち、ロンドンからクルマで2時間ほどのイングランド南部ハンプシャー州ビューリーにある国立博物館「ナショナル・モーターミュージアム」に永久展示されている。筆者は2018年夏に英国を尋ねた際に、初めて本物に出会うことができた。
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日本唯一のボンドカー「トヨタ2000GT」
『007は二度死ぬ』
再び『007』シリーズのボンドカーなのだが、アストンマーティンDB5に次ぐ史上2台目のボンドカーにして、現時点における日本唯一のボンドカーがある。それが、映画『007は二度死ぬ』(1967年公開)にて、助手席にショーン・コネリーを乗せてカーチェイスを展開した「トヨタ2000GT」のロードスター仕様だ。
トヨタ2000GTが正式デビューを果たす以前に、試作車をベースとして「トヨペット・サービスセンター綱島工場(現・トヨタカスタマイジング&ディベロップメント)」が2台のロードスターを製作。1号車は劇中車として、2代目クラウンとカーチェイスシーンも展開した個体だ。いっぽう2号車は、撮影中のトラブルに備えて用意された予備の車両である。
1号車は、現在では愛知県長久手市の「トヨタ博物館」に所蔵されている。ところが予備車両の2号車は退役ののち、今世紀初頭まで国内の某所で放置状態のまま残されており、なんと上下2段式の屋外駐車場で野ざらしという信じがたい状況にあった。
その2号車を救出したのが、日本を代表する自動車コレクターのひとりであり、トヨタ2000GTの世界的オーソリティーとしても知られるAuto Romanの諸井 猛氏である。
諸井氏は数多くの2000GTを修復してきた知見を生かし、ボンドカー2号車のレストアに着手。生産モデルとは異なる試作車特有のメカニズムやディテールも、入念な調査を経てみごと再現されることになった。
こうしてレストアされたトヨタ2000GTボンドカー2号車については、単に見るだけではなく、実際にステアリングを握って走らせるチャンスまでいただいたのだ。
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マックイーンの相棒「フォード・マスタング」
『ブリット』
1968年に公開、主役を演じたスティーヴ・マックイーンの代表作として知られる映画『ブリット』。その劇中に登場したのが1968年型の「フォード・マスタングGT390」だ。
サンフランシスコを舞台とする伝説的なカーチェイスを展開し、後世の映画のカーアクションに絶大な影響を及ぼすことになったこのマスタングGT390の後半生は、長らく秘密のベールに隠されていた。
マックイーン自身が運転したマスタングは2台だったとされるが、そのうちの1台が事故で廃車。残された1台は映画の宣伝ツアーの展示に供されたのち、実に40年以上、2010年代中盤まで行方不明となり、カーマニアの間では「聖杯」のごときミステリーとなっていたのだ。
しかし、長年秘匿していたオーナーが逝去したのち、そのご子息が修復を決意。撮影時のオリジナルを保ったまま機関部のレストアが行われ、2018年に再び日の目を見ることになったという。
完成後は、『ブリッド』仕様の限定モデルが現行型マスタングに設定されたことにあわせて、そのPR活動にも従事。北米のアメリア・アイランド・コンクールや英国グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードなどのビッグイベントを舞台に世界ツアーが行われた。そうしたなか、筆者自身も2018年夏のグッドウッドにてその雄姿と走りを拝むことができた。それは、まさに幸運といえるものだった。
2020年1月にはアメリカでオークションに出品され、ファンの注目を集めた。通常ならば最高のコンディションを誇る個体であっても10万ドルには届かないであろう同型モデルのなかにあって、なんと330万ドル(邦貨換算で約3億7000万円)という驚異の価格で落札されるに至ったのだ。
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主役を食う「ランボルギーニ・ミウラ」のインパクト
『ミニミニ大作戦』
『ミニミニ大作戦』(1969年公開・英米合作)との日本版タイトルにもあるように、3台の「BMC Miniクーパー」が北イタリア・トリノの街を縦横無尽に駆け回る本作は、「アストンマーティンDB4ドロップヘッドクーペ」や「ジャガーDタイプ」、そして敵方であるマフィアの愛車として「フィアット・ディーノ クーペ」なども登場する極上の自動車映画として知られる傑作である。原題は『The Italian Job』。なかでもオープニングテーマ曲をBGMにアルプスの山岳道路を快走する「ランボルギーニ・ミウラP400」は、とても印象的である。
この作中で使用されたミウラは、トンネル内で追突・爆発事故を起こすシーン直前まで使用された個体と、ブルドーザーで崖から落とされたエンジンレスの劇車(事故車をベースに製作)の2台といわれている。
後者はそのまま行方不明となってしまったが、前者は近年リヒテンシュタインの著名なコレクターが所蔵し、映画出演当時のままとなる内外装の仕立てでレストアを受けている。
2018年には、ランボルギーニのクラシックカー部門であるポロストリコから、『ミニミニ大作戦』のミウラであることについて公式のお墨付きを取得。翌2019年の米ペブルビーチ・コンクール・デレガンスに出品され、その年、同イベントを訪れていた筆者も対面することができた。
(文=武田公実/写真=武田公実、アストンマーティン・ラゴンダ/編集=櫻井健一)
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武田 公実
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