ロイヤルエンフィールド・クラシック350シグナルズ(5MT)
心はインドか アフリカか 2022.07.11 試乗記 ロイヤルエンフィールドのクラシックなネイキッドモデル、その名も「クラシック350」が新型にフルモデルチェンジ。往年の英国製バイクを思わせるレトロデザインとモダンなテクノロジーの融合が生んだ、見ても走らせても楽しい一台の魅力をリポートする。“二輪大国”インドが育んだ一台
「次の試乗バイクはロイヤルエンフィールド・クラシック350です」とwebCG編集部からのメール。
「『クローム』や『ダーク』『ハルシオン』もいいけれど、なろうことなら『シグナルズ』が……」と、あえて詳細を聞かずに集合場所に赴くと、ビンゴ! マットな「デザートサンド」にペイントされたシグナルズが待っていて……と、ココまで読んで「なんのことやら?」と思っている読者の方もいらっしゃるはず。説明しましょう。
クラシック350は、ロイヤルエンフィールドがリリースした、排気量349ccの空冷単気筒を搭載するネイキッドモデル。丸目ヘッドランプや2本のリアダンパーがクラシカルな雰囲気を醸し出す。グレードは、ベーシックなハルシオン(63万4700円)、キャストホイールを履いたスポーティーなダーク(66万2200円)、メッキパーツで豪華に装ったクローム(66万6600円)、そしてミリタリーテイストを前面に押し出したシグナルズ(64万2400円)で構成される。いずれも機関面の違いはない。
個人的な事情で恐縮ですが、タミヤの「ツェンダップKS750」や「BMW R75」のプラモデルをつくって育った昭和世代ゆえ、ミリタリーバイクへの憧れが胸の奥に沈殿していて、「クラシック350輸入開始」のニュースでシグナルズを知った瞬間、ビビビッ! と来てしまいました。
ロイヤルエンフィールド・クラシック350シグナルズは、1390mmのホイールベースに2145mmの全長。同じく空冷単気筒を積む「ホンダGB350」(55万円)および「GB350S」(59万4000円)と類似した数値……というか、むしろかの地でクラシック350(と「メテオ350」)に挑む立場にあるのがGB350である。両者の故郷たるインドは、いまや中国と覇を競う堂々たる二輪大国。日本市場とは文字どおりケタ違いのビッグマーケットだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
肩ひじ張らないツーリングが心地よい
さて、本国のクラシック350はシングルシートが基本だが、日本仕様はセパレートタイプのタンデムシートを標準で備える。同車を2人乗りにするためにはステーから変える必要があり、リアのクッションを外せばすぐにシングルに戻せる……わけではないそう。好みは分かれましょうが、車体後部のグラブバーやサイドバッグサポートが実用性の高さをうかがわせる。取材車のリアキャリア(とバーエンドミラー)はアディショナル装備だ。
ちょっと違和感があったのがマット塗装で、厚くスムーズに過ぎるためか、タンクや前後のフェンダーなどは樹脂製と見まごうばかり。念のため磁石を持ち出してチェックしてみると、大丈夫、ちゃんとくっつきました。「表面を梨地にしたほうが“らしい”のにな」と思わないでもないけれど、1分の1プラモデルと考えれば愛着も湧く!? 要所にステンシルプレートで描かれたナンバーは、個体ごとに異なるという。
軍用イメージを受けて「ずしりと重い」と覚悟してサドルにまたがると、しかし足つきがいいせいか、意外や取り回しは悪くない。車重195kg、シート高は805mm……が本来のスペックだが、試乗車は3cm強ローダウンされるオプションシートに変えられていた。
エンジンは、クルーザータイプのメテオ350にも用いられる2バルブのシングルカムユニット。ボア×ストローク=72×85.8mmのロングストローク型だが、実はGB350のエンジンよりストロークは短い。ホンダの20PSを上回る20.2PSの最高出力は、600rpm高い6100rpmで得る。最大トルクは、27N・m/4000rpm。GB350は、29N・m/3000rpmだ。
ライディングポジションはまったく無理のない自然なもので、単気筒の適度な鼓動感やマフラーエンドからの気楽な排気音を聞きながらの走行が楽しい。トランスミッションは5スピードで、ギアをフルスケール使うと、ローで約50km/h、セカンドで約80km/h、サードで約100km/hに達する。5速はレシオの高い、いわゆる“燃費ギア”である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
クセのないハンドリングで峠も楽しい
メーターまわりは、シンプルなアナログ式の速度計に、モノクロながらデジタル液晶を組み合わせたもの。おとなしく走っていると「ECO」と表示されるのが今っぽい。余談だが、クラシック350はヘッドランプ左右に小さなデイライトを持ち、トンネルに入るとメーターへの裏面照射がことのほか美しい。いまさらながら、インドの二輪産業もクオリティーが上がり、細かな部分にまで配慮できるようになったのだなァ……などと、いまのニッポンは上から目線で感心している場合ではない。
前:19インチ、後ろ:18インチのタイヤを履いたシグナルズを峠に持ち込んでみると、個性を破綻させることなくスポーティネスを披露する。ライダー込みで200kg超に20.2PSだから、ことさら速くはないのだが、従順でクセのないハンドリングが好印象。タイトなS字カーブでの切り返しも穏やかで、どこか余裕を持って峠道を行くのはいいものだ。制動力の立ち上がりはもう少し鋭いほうが……などと言うのはやぼというものか。
ロイヤルエンフィールド・クラシック350シグナルズは、ライトでカジュアルなミリタリーバイクという希有(けう)な存在である。趣味と割り切って、WWII中に北アフリカで活躍した“砂漠のネズミ”(英第7機甲師団)を気取るのも……、というか、どちらかというとイギリス領インド陸軍のほうですかね。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2145×785×1090mm
ホイールベース:1390mm
シート高:805mm
重量:195kg
エンジン:349cc 空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ
最高出力:20.2PS(14.9kW)/6100rpm
最大トルク:27N・m(2.75kgf・m)/4000rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:--km/リッター
価格:64万2400円

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。














