アウディS8(4WD/8AT)【海外試乗記】
華やかなスポーティーサルーン 2022.07.30 アウトビルトジャパン 「アウディS8」は、ラグジュアリークラスのなかでも例外的な、スポーティーな才能を持つクルマだ。したがって、マイナーチェンジを受けアップデートされたばかりの現行モデルは、レーストラックでもその実力を証明しなければならない。※この記事は「AUTO BILD JAPAN Web」より転載したものです。
文句なしのカリスマ性がある
クルマとしてのカリスマ性? アウディS8は、文句なしにそれを放っている。アルミニウムをふんだんに使った「S」らしい色合いと外観も印象的だ。しかし、要望に応じて、今回の試乗車のような「ウルトラブルー」よりも控えめな色にすることもできるし、シルバーのライトメタルのきらめきをすべて排除した「ブラックオプティクスパッケージ」にすることも可能だ。そして、いつも光り輝いているのは、その歴史だ。
なにしろ、このラグジュアリークラスの大御所は、25年も前から存在しているのだから。この間、S8は(605PSの「S8プラス」として)よりパワフルに、より軽く(少なくとも200kg)、またより純粋になってきた(初代S8にはマニュアルギアボックスも用意されていた)。そして、S8は、現行世代で最もパワフルな仕様になった。
グレードアップしたこの豪華客船の船内は、ほとんどすべてがマイナーチェンジ前と同じだ。その代わり、新しいヘッドライトがアスファルトを照らしている。その一つひとつに130万個のマイクロミラーが搭載され、LEDライトビームと連動して、車線と方位を示す光を高速道路に投射する。この光は、矢印のグラフィックによって、明るい光のカーペットの中に、道路を正確に描き出す。まるで「ドライブインシネマ4.0」だ。イルミネーションとマトリクス機能? とにかく素晴らしい!
標準装備のアクティブサスペンションも他の技術と同様、アウディは何一つ変えていない。当たり前だが、このようなシステムは一新されることはない。そして、批判すべきポイントは狭い範囲にとどまる。
カーブでは最大3度内側に傾けられる
ハイライトはいくつかあるが、まず驚くのは、ドアを開けると瞬時にボディーが4cmほど持ち上がるという仕掛けだ。これ以上のおもてなしはないだろう。
さらに、ベルトと遊星ギアを介して各ホイールを個別に伸縮できる4基の電動モーターは、カーブで最大3度まで、それもカーブの中心に向かって傾けることができるようになっている(ドライビングモード「コンフォートプラス」)。これによって乗員に作用する遠心力を低減し、コーナリングをより快適なものにしている。
ダイナミックモードでは、横方向の傾きも抑えられ、通常の5度ではなく、S8のボディーは最大2度までしか横に傾かない。しかし、S8は決して不退転の決意で臨んでいるわけではない。オプションの21インチホイール(1500ユーロ=約21万円)を履いていたにもかかわらず、エアサスペンションはいつも楽しませてくれる。
そしてその奥には、くつろぎのオアシスが待っている。電動調整式アウターシートや電動サンブラインドを含む3435ユーロ(約48万円)のオプションのリアシートシステムは、顕著な自動運転性さえも弱体化させる。しかし、もしあなたがすべてのぜいたくを我慢してドライバーズシートに乗り込むことができたなら、その決断はすぐに報われるだろう。「なんて素晴らしいV8サウンドなんだ!」と。
571PSのV8が炸裂する
この571PSの4リッターツインターボエンジンは、サウンド・オブ・サイレンスの達人として、48Vシステムのおかげでしばしば静かに航行し、他方では何マイルも下り坂を下っていく。だが、8段オートマチックで800N・mを超えるパワーを発揮すると、歓声が湧き起こる。そして、車重2.3tのクワトロが、ある種のスーパーカーのような力強さで前方に炸裂(さくれつ)するのである。
S8クワトロの駆動はリアアクスルにパワーの厚い部分を、スポーツディファレンシャルを経由して、外輪へ伝える。このS8はドリフターでこそないものの、コーナリングへのこだわりは顕著で、その重さを考えるとジェントルなコーナリングは絶対に必要だ。
しかし、レーストラックでは、その質量の大きさからややそぐわない場所に来てしまったことを感じてしまう。一方、高速道路ではあまりドラマチックな展開にはならないが、非常に低いノイズレベルのおかげで、250km/h(電子制御によって制限)、4000rpm強でV8が退屈しているのが聞こえるかと思うほど平和に走行することができる。
ただ、高速走行時の直進安定性だけは、完璧とは言い難いものだったことに少し驚いた。S8のような高速道路の獣には残念なことだが、いくつかのミッドレンジサルーンでももっと良いものがある。しかし、S8のエンジンの優位性は、カジュアルな速度域でも楽しめる。S8の「S」は、スポーツを意味するものではないのだ。それは間違いなく「SPECTACULAR(華々しい)」の略だ。
テスト評価
ボディー:5点満点中4点
広々とした空間、上質な仕上がり、素晴らしい品質を備えたスポーティーな高級サルーンだ。センターエアバッグとヘッドアップディスプレイは標準装備されていない。
走行性能:5点満点中4.5点
優れた走行性能。V8の音も、決して高速走行などの邪魔にならない上質なものだ。48V技術で燃料を節約することも可能になった。
ドライビングダイナミクス:5点満点中3.5点
常に非常に良好なトラクション、しかしリアヘビーなトルク配分はトップスピードで若干、正確な直進安定性に欠ける。
ブレーキ:5点満点中3点
ブレーキが温まっていても、セラミックシステムはトップスコアを出せない。以前のテストでは、S8(フェイスリフト前)のほうが良い結果を出している。
ステアリング:5点満点中4点
スポーティーな走りではややもたつくが、トランスミッションは良好で、4輪操舵のおかげで、このサイズからするとかなり扱いやすいといえる。
コンフォート(居住性):5点満点中5点
アクティブサスペンションのおかげで、乗り降りの際のリフトアップなど、珍しい機能がたくさんある。極めて静かで、心地よいしなやかな足まわりといえる。
コスト(費用):5点満点中2点
メンテナンスは2年に1度だけだが、その際のコストは非常に高価だ。保険等級が高く、減価償却費が非常に高いと推測される。
AUTO BILD SPORTSCARSのテストスコア:2-
結論
このクルマはオールラウンダーだろうか? S8は技術的な花火でわれわれを驚かせてくれる。そして、多くの豪華さに加えて、非常にスポーティーな面も持ち合わせている。しかし、S8は完璧ではない。そのブレーキングと直進安定性はもっと良くなってもいいはずだ。
(Text=Berend Sanders and Stefan Novitski/Photos=Audi AG)
【スペック】
全長×全幅×全高=5190×2130×1475mm/ホイールベース=2998mm/駆動方式=4WD/エンジン=4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ(最高出力571PS/6000rpm、最大トルク800N・m/2050-4500rpm)/トランスミッション=8AT/基本価格=14万8000ユーロ(約2030万円)/テスト車の価格=15万8745ユーロ(約2225万円)

AUTO BILD 編集部
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