第770回:埋もれていた2台の“白いクラウン”が教えてくれたこと
2022.08.18 マッキナ あらモーダ!山村 聡氏に話したくなった
2022年7月に発表された16代目「トヨタ・クラウン」は、世界40の国と地域で販売予定である。ただしヨーロッパでの成功は、決して簡単ではないと筆者は読む。
なぜなら、筆者が住むイタリアをはじめとして、欧州ではトヨタといえば明らかに小型車のイメージだからである。2022年7月のイタリア国内登録台数における上位50車種中、トヨタ車はいずれもBセグメントの「ヤリス クロス」が11位で「ヤリス」が12位、Aセグメントの「アイゴX」が15位と、シティーカーやコンパクトカーばかりだ。C-SUVセグメントの「C-HR」が登場するのは、ようやく40位である。そのうえ、欧州進出32年目にもかかわらず、レクサスが圏外であることからして、高級車のクラウンを根づかせるのは、かなり綿密なマーケティングが必須であろう(データ出典:UNRAE)。
前置きが長くなったが、クラウン、それも3代目「トヨペット・クラウン」と、意外な場所で遭遇したというのが、今回の話題である。
といっても、残念ながら実車ではない。玩具だ。2022年8月、筆者が住むシエナのチェーン系リサイクルショップでのことである。画集が並ぶ書架の脇に、古い電話機や食器など、あらゆるものを押し込んだ棚がある。とりとめのない唐突感が、この店の魅力だ。よく見ると、クルマの玩具もある。プラスチック製の「ランボルギーニ・ミウラ」といった類いだが、筆者が感嘆の声を上げたのは、棚の上から鼻を突き出していた2台のパトロールカーだった。それが明らかに1967年のトヨペット・クラウン、通称“白いクラウン”を模したものであることは、即座に分かった。
底部を見てみる。いずれも要修理状態だが、回転自在の円形台座に内蔵された2輪を電池で駆動していたことが分かる。さらに「MADE IN JAPAN」の文字とともに、「Y」を囲む桜のマークを発見した。「ヨネザワ」のブランド名で知られた旧米澤玩具製である。筆者は思わず天に向かい、長年クラウンのCMに出演していた俳優・山村 聡氏に「あなたの白いクラウン、こんなところで生きてますよ」と報告した。
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次々とMADE IN JAPAN
店長のジャンニ氏によると、地元のコレクターが持ち込んだものだという。筆者は、2台が半世紀以上前の日本の高級車を模したものであること、かつての有名な玩具メーカー製であることを説明した。
すると彼は、「確かほかにも日本製があったな」と言って、同じ人が持ち込んだという、別の2台も見せてくれた。
1台は4ドアの戦前型トルペードを模したものだ。動力を持たず、ほろ部分の細かいつくりからして、転がして遊ぶというより装飾用につくられたのだろう。車標の数字からして1925年の、何らかの実車を模したものに違いない。筆者が知る範囲では、粗いラジエーターグリルからして、往年の米国車、エセックスが最も近い。
もう1台は、クラウンよりも短い全長約18cmの青いセダンだ。同じく電池式だが、固定軸の後輪を駆動する方式だ。もし作動すれば直進オンリー、猪突(ちょとつ)猛進型である。確かに、底部に「JAPAN」の文字がプリントされている。米国車風かつ日本製ということで、筆者が最初に連想したのは「ヘンリーJ」である。旧・三菱重工業の財閥解体後誕生した東日本重工業によって1950年代前半にノックダウン生産された、米国カイザーフレイザー社製乗用車である。しかし、同車は2ドア、かつファストバックであったから、やや遠い。それよりも、そのフロントグリルの形とフロントフードのマスコット、そして当時の認知度の高さからいって、「フォード」(1952~1953年)を模したものと考えるのが正しかろう。
今回見つけた2台のクルマを含む4台のMADE IN JAPANは、古い絵画や楽器を見つけたときの感動には遠く及ばないし、完璧なコンディションを求める日本の玩具コレクターからすれば、取るに足らない状態だろう。ただし、筆者に次の3つのことを教えてくれた。
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いま見ても高品質だが……
ひとつは、高い加工精度である。スチール・樹脂部品とも、通常の遊び方で子どもが誤って手をケガするような部分が見当たらない。その素晴らしさは、同年代の英国車の実車を触っていたら手を切ってしまったことがある筆者としては、なおさら強く感じる。日本が外貨獲得のため、たとえ玩具であろうと必死で良い品をつくろうとしていた心意気が伝わってくる。その志はジャンルこそ大きく違えど、1950年代中盤までの米国車や、1960~1980年代のイタリア・オリベッティ社製品に通ずるものがある。
筆者自身は、日本に対して特別なナショナリズムは持ち合わせていない。しかし、イタリアで過去四半世紀に、次々と家電量販店から日系ブランドが消えてゆくのを目にあたりにしてきた身である。ゆえに、今回接した玩具は、日本経済がしきりに成長を模索していた、元気ある時代の挽歌(ばんか)に映った。
第2は、残念ながらそうした感傷は、あくまでも日本人が抱くものということだ。それを図らずも示してくれたのは、ジャンニ氏だった。彼の店で日本製玩具を売るには、ドイツ製などに比較して、値段を安めに設定せざるを得ないという。実際、メルクリンの鉄道模型は、1両あたり50~60ユーロ台である。後日、念のため、ちょうど日本のブリキ製玩具を陳列していた別のアンティークショップを訪ねて聞いたが、やはり答えは同じであった。
さらにジャンニ氏が例として「これ見てごらん」と出してきたのは、20世紀初頭にドイツでつくられたという、ままごと用オーブンであった。付属品を含め大半の部分が銅製のそれは、内部にベンジンを入れるカートリッジが付いていて、実際に本物に近いかたちで機能する。
安全上、明らかに保護者の監視下でしか遊べない代物である。加えて製造当時、これを子どもに買い与えられたのは、ヨネザワのクラウンを購入していたのとは明らかに異なる次元の富裕層であっただろう。
そこで、日本的感覚を当てはめれば「安くて良い品をつくる能力は、高級品をつくる能力と決して優劣をつけられるものではない」と考えたい。しかし、コレクターズアイテムの世界では、それはあまり通用しない。アジア製として、ひとくくりにされているのである。
あと5分の4で決まる
そして第3は、ヨーロッパ人独特の時代感覚だ。第2次世界大戦を境とした前後ではなく、20世紀という大きな枠組みで区切っている。そうしたなか、日本製玩具は、同じ世紀につくられたドイツのままごとセットよりも、格下に見られてしまう。
戦後の日本は急速な経済成長を遂げたあまり、“アナログ玩具”を外貨獲得の力とした時代が、あまりにも短すぎた。そのため、大きなスケールで歴史を捉えるイタリアのような国では、その存在が埋没してしまうのである。
将来、イタリア人が21世紀の工業製品を振り返る際、任天堂やソニーの家庭用ゲーム機が1980年代にまでさかのぼって語られる可能性はあろう。世紀ごとの枠組みという認識と若干矛盾するが、中世からルネサンスに突如変わったのではないように、歴史はシーケンシャルなものであることを彼らは承知しているからだ。
ただし、再び21世紀という枠組みで考えた場合、それはまだ5分の1しか終わっていない。残り5分の4の形勢によって、歴史における日本製品のポジショニングが決まる。そうしたなか、冒頭の新しい16代目クラウンは、日本製品の存在感再向上に力を発揮してくれるのか否か。
リサイクルショップで出会った日本製玩具たちは、さまざまなことを考えさせてくれたのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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