ルノー・キャプチャーE-TECHハイブリッド レザーパック(FF/4AT+2AT)
ビヤンクールの良心 2022.08.25 試乗記 ルノーのコンパクトSUV「キャプチャー」に、独自のハイブリッドを搭載した「E-TECHハイブリッド」が登場! ベース車ゆずりの走りのよさと優れた燃費性能に目を奪われるが、新しいフレンチハイブリッドの魅力は、それだけにとどまらなかった。加速する本家の電動化戦略に合わせて
いま輸入車でもっとも低燃費なパワートレイン……を自負するルノーのフルハイブリッドシステム「E-TECHハイブリッド」が、「アルカナ」と「ルーテシア」に続いてコンパクトSUVのキャプチャーでも上陸した(参照)。ルノー日本法人であるルノー・ジャポンがこの2022年1月に予告していた3台の搭載車が、これですべて姿を現したことになる。欧州ラインナップでも同パワートレインを搭載するモデルは3台のみだから、ひとまずは出そろったカタチである。
ちなみに、欧州で先行受注がはじまった中型SUVの「アウストラル」(事実上の「カジャー」と「コレオス」の統合後継車)には、パワフルな1.2リッター3気筒ターボと高出力モーター、より高性能なリチウムイオン電池(400V、1.7kWh)を使ったE-TECHハイブリッドが搭載されるという。これもゆくゆくは日本に導入してほしいところだ。
ルノー・ジャポンは2010年から「FTS戦略」という旗印のもと、あえて趣味性の高いモデルを導入してきた。FTSとは“フレンチタッチ、トレンディー、スポーティー”の頭文字を取ったもので、「カングー」や「ルノースポール」の各車、そしてMT車の豊富なラインナップなどがその典型だった。
しかし、最近のルノー本体は“E-TECH”名義でプラグインや電気自動車を含むラインナップの電動化にまい進しており、日本におけるFTS戦略とは微妙に路線がズレてきた。というわけで、ルノー・ジャポンは「FTS戦略は変わりませんが、今後の“T”はテクノロジーという意味だと思ってください」と主張する。なるほど……ではあるのだが、今後はルノースポールが「アルピーヌ」に統合されるなど、“S”の要素も以前より薄味になっていきそうな雲行きなのが、個人的にはちょっとさみしい。
合理的で高効率な「E-TECHハイブリッド」
話がだいぶ脱線してしまったが、今回の主役は、キャプチャーのE-TECHハイブリッドである。話題のパワートレインの基本構成はすでに上陸済みのアルカナやルーテシアのそれと同じだ。1.6リッターエンジンを中心に、駆動や回生をおこなうメインモーター(最高出力49PS、最大トルク205N・m)、主に発電やエンジン始動、ドグミッション変速時の回転合わせなどを担当するサブモーター(最高出力20PS、最大トルク50N・m)、そして250V、1.2kWhのリチウムイオン電池で構成される。最高出力94PS、最大トルク148N・mという1.6リッターエンジンのチューンは、ルーテシアではなくアルカナと共通である。
このフルハイブリッドシステムについてはwebCGでもいろいろと説明されているが(参照)、エンジンとメインモーターそれぞれに、シンクロメッシュ機構のかわりにドグクラッチを備える、いわゆる“ドグミッション”が使われているのが独特だ。ドグミッションはエンジン用4段、メイン駆動モーター用2段という2系統があり、エンジン走行、メインモーター走行、そして両方を組み合わせたパラレル走行、さらにはエンジンでサブモーターを回して発電しながらメインモーターで走るシリーズ走行……と、物理的に考えられるすべてのパターンを自在に使い分けながら走る。
ドグミッションといえば、一般にはレーシングカーやオートバイに使われる変速機で、変速時のショックが強烈なイメージがある。しかし、そこはサブモーターが緻密に回転合わせすることで、実際のE-TECHハイブリッドでシフトショック的なものを意識することはほとんどない。
エンジンやモーターはドグミッションをニュートラルにすることで、駆動システムからフリーになる。つまりエンジンもモーターもドグミッション直結で、一般的にイメージされる断続クラッチの類いは存在しない。ゆえにコンパクトでロスが少なくできたのも、E-TECHハイブリッドの大きな売りだ。
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パワフルな走りではターボ車に軍配
というわけで、キャプチャーのE-TECHハイブリッドも、トヨタに代表される日本的なフルハイブリッドに勝るとも劣らず、なにがどうなっているのかさっぱり……の複雑怪奇な制御をしつつも、乗っている人間にはただただ滑らかでシームレスな走行感覚である。まあ、神経を集中して意地悪に観察すれば、フル加速時などにドグミッションが変速している様子や、走行中にエンジン停止する瞬間のショックなどを感じ取ることは不可能ではない。しかし、普通に走るかぎりは、メカメカしさを意識させられることはまずない。
キャプチャーE-TECHの車重はアルカナより40kgほど軽いが、都市高速と市街地が中心だった今回の試乗では、明確な動力性能差は感じられなかった。こうした加減速がほどよく繰り返されるようなシーンでは、1.8~2リッターの自然吸気エンジンを思わせる力感をもつ。もっとも、のぼり勾配が続くような場面で絶対的にパワフルなのは、当然ながら、エンジンそのものがより力強い従来の1.3リッターターボである。高速追い越し車線や山坂道をパワフルに走り続けたいという向きには、今後も併売される1.3リッターターボと乗り比べたほうがいい。
運転席からのインパネ風景も、一見しただけでは1.3リッターターボ車と選ぶところはない。ただ、実際には(小さなE-TECHロゴ以外にも)10.2インチに拡大された液晶メーター(ターボは7インチ)やシフトレバーの「B」レンジ、そしてステアリングパドルが省かれる点などがE-TECH専用である。
「パドルまで省略されたら、やることがなさすぎてツマらない」とお嘆きの昔かたぎのエンスージアストもおられるだろう。筆者もそのひとりだが、E-TECHハイブリッドは加速側に加えて減速側もアクセル操作にピタリと吸いつくリニアフィールが美点。下り急勾配で使えるBレンジがあれば、客観的にはシフトパドルの必要性はほぼ感じない。
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この性能をこのお値段で!
低速では引き締まり系の乗り心地、アルカナより高い剛性感(よりショートホイールベースで凝縮されたディメンションなら必然)など、基本的な乗り味は今回のE-TECHでも従来の1.3リッターターボとよく似る。このあたりは、結果的に“奇跡のバランス”ともいいたくなる仕上がりだったルーテシアE-TECHハイブリッドのような驚きはない。ただ、100km/h前後までペースが上がるとフットワークにかぜん血が通いだす高速性能も健在で、よくも悪くもキャプチャーそのものだ。
夏休みで混雑した高速では、アダプティブクルーズコントロールとレーンセンタリングアシストを作動させて流したが、キャプチャーを含む「CMF-B」プラットフォーム車の先進運転支援システムには、日産の技術も入っている。その滑らかな制御は日本の交通環境でも不満なし。電動パワートレインとなるE-TECHは加減速マナーもさらにドンピシャだ。
キャプチャーE-TECHの本体価格は、1.3リッターターボの65万円増となる374万円。22.8km/リッターというWLTCモード燃費はアルカナとピタリ同じだが、正式な型式指定を取得しているキャプチャーでは、重量税と環境性能割で約13万円の優遇が加わる。競合車の最新価格と比較すると「フォルクスワーゲンTロック」のどのモデルより安く、「プジョー2008」のガソリン上級モデルとほぼ同等だから、複雑なフルハイブリッドを積むキャプチャーには明らかに割安感がある。
価格といえば、以前のアルカナ試乗リポートで“アルカナは競合車より割高”と書かせてもらった。しかし、アルカナのライバルである「フォルクスワーゲン・ティグアン」や「プジョー3008」はその後あっという間に値上げされて、現在もアルカナに対抗できる価格で買えるのは、どちらも最安価な純ガソリングレードだけになってしまった(それでも厳密にはアルカナより高い)。
今回のキャプチャーといい、アルカナといい、同じく「ポロ」や「208」比で明らかに割安なルーテシアE-TECHといい、時世の荒波に果敢に挑むルノー・ジャポンの価格戦略には素直に拍手である。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ルノー・キャプチャーE-TECHハイブリッド レザーパック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4230×1795×1590mm
ホイールベース:2640mm
車重:1420kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:4段AT(エンジン用)+2段AT(モーター用)
エンジン最高出力:94PS(69kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:148N・m(15.1kgf・m)/3600rpm
メインモーター最高出力:49PS(36kW)/1677-6000rpm
メインモーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/200-1677rpm
サブモーター最高出力:20PS(15kW)/2865-1万rpm
サブモーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/200-2865rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス)
燃費:22.8km/リッター(WLTCモード)
価格:389万円/テスト車=402万0500円
オプション装備:ボディーカラー<ブルーアイロンM/ノワールエトワールM>(5万9000円) ※以下、販売店オプション ETC1.0ユニット(1万3200円)/フロアマット(2万6400円)/エマージェンシーキット(3万1900円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2091km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。