レクサスUX200“Fスポーツ”(FF/CVT)
世界に通じる大吟醸 2022.09.27 試乗記 ボディー剛性の強化や足まわりの再セッティングが実施された「レクサスUX」。純ガソリンエンジン搭載のスポーティーバージョン「UX200“Fスポーツ”」に試乗し、トヨタテクニカルセンター下山で徹底的に磨き込んだという、その走りを確かめた。狙いは機能の最適化
レクサスのSUVのラインナップにおいて、大きいほうから「LX」「RX」と並ぶのはわかるとして、時々どっちが大きいんだっけと考えてしまうのが「NX」とUX。NXの全長が4660mm、UXが4495mmだから、UXがレクサスのSUVの末っ子ということになる。
いまのレクサスは「Always on」という考え方に基づいて、マイナーチェンジなどのタイミングにこだわらず、新しい技術や知見を投入して、順次改良を進めているという。2018年に登場したレクサスUXにも改良が加えられてきたけれど、デビューから4年のこのタイミングでやや大がかりな変更を受けた。
ただし、外観は改良前と変わらないように見える。デビューから4年、見た目に新鮮味を与えるために、ヘッドランプやフロントグリルに手を加えるような小細工をしていないところに好感を持つ。オリジナルの造形に自信があることの証しだろう。
乗り込むと、センターコンソールの液晶タッチパネルが大型化していることに気づく。資料によると12.3インチとのことで、なかなかの存在感だ。
また、シフトセレクターの左隣にあったタッチパッド式の「リモートタッチ」がなくなり、“さら地”となった場所にはシートヒーター/ベンチレーションとステアリングヒーターのスイッチが配置された。また、この区画整理によって、センターコンソールの使いやすい場所にUSBコネクター(タイプC)が設置されるようになった。
いまいち使いにくかったリモートタッチを廃止し、液晶タッチパネルの操作性が上がりUSBコネクターが追加されるなど、インテリアもマイチェンのためのマイチェンではなく、機能の最適化が狙いだ。
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硬いけれどやわらかい
レクサスUXには2リッターの直4ガソリンエンジンとハイブリッドシステムを組み合わせた「UX250h」と電気自動車(EV)の「UX300e」という電動モデルもあるけれど、今回試乗したのは2リッターの直4ガソリンエンジンを搭載するUX200。グレードは、主にシャシーのセッティングをスポーティー方向に振った“Fスポーツ”だ。
スタートして真っ先に感じるのは、乗り心地のよさ。といっても、ゆったりとしていたり、ふわふわしていたりするソフトな乗り心地のよさとは違う。上下動の少ないぴりっと引き締まった乗り心地であるけれど、舗装の荒れた部分を乗り越える際にはサスペンションがしっかりと伸びたり縮んだりして、ショックを吸収してくれる。そして伸びたり縮んだりした後で、その上下動はビシッと抑え込まれてフラットな姿勢を保つ。
引き締まっているけれどしなやかな乗り心地は、実にいいあんばいだ。野球のボールをグローブのベストポジションで捕球した瞬間のような、硬いけれどやわらかい、心地よさがある。
この“カタきもちいい”乗り心地が快適だと感じるのは、しっかりとしたステアリングホイールの手応えとセットだ。曖昧なところがなく、タイヤと路面の関係性をクリアに伝えるステアリングフィールとの合わせ技で、走りが気持ちいいと感じるのだろう。
これでもし、ステアリングホイールの手応えがダルダルだったら、ユルいステアリングフィールと硬い乗り心地という、ちぐはぐで残念な組み合わせになっていたはずだ。このあたり、キメ細かにチューニングされている印象で、高速道路やワインディングロードで走るのが楽しみになってくる。
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きれいな姿勢で曲がる
高速道路では、末っ子らしからぬ、どっしりとした安定感を見せた。上下動が少なく、落ち着いている。また、こうした場面でもステアリングフィールのよさで、乗り心地への好印象は2割増しぐらいになる。例えば車線変更でステアリングホイールを切ると、しっかりとした手応えを伝えながら、遅れることなく車体が向きを変えるから、やや硬めの乗り心地にも納得するのだ。
資料には、今回のマイチェンにあたっては、「EPSのチューニングを実施」とさらりとひとことでつづってあるけれど、ステアリングフィールに対するチューニングは、入念に行われているとみた。
ワインディングロードでは、その敏しょう性の高さに驚いた。操舵に対して、よっこらしょ、と曲がるのではなく、喜々として曲がる印象だ。ほどよくロールしながら、4本のタイヤがしっかりと路面をとらえ、きれいな姿勢で曲がっていく。そして、コーナリング中の挙動の小さな変化が、ステアリングホイールやシートを通じて、濁りなく伝わってくる。
この繊細さと切れ味の鋭さを兼ね備えた味わいは、ドイツ勢ともラテン勢とも違う独自のもので、これがレクサスの味として突き詰められるとすばらしい。ワインのまねではない、世界に通じる大吟醸の日本酒だ。
こうした好フィーリングの背景には、まずボディー開口部のスポット溶接打点を計20カ所追加したことが挙げられる。ハードコーナリングを敢行してもボディーがゆがんだりねじれたりしないから、常に理想の角度で4本の足が地面と接することができる。
また、従来はオプションだった「パフォーマンスダンパー」が、標準装備されることも大きい。これはヤマハが特許を持つ、振動を吸収するためにボディー後部に配置されるつっかえ棒で、路面状況や運転スタイルに応じて素早く減衰力を切り替えるAVSとの連携で、快適さと気持ちよく曲がることを両立している。
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マニアに受けるのも大事
足まわりとは逆に、やや寂しかったのが2リッターの直4エンジン。パワーもレスポンスも十分であるけれど、のっぺりとしたキャラクターで、ドラマチックな回転フィールや、エキサイティングなサウンドを求めると、物足りない。特に乗り心地とハンドリングに感心するぶん、エンジンの魅力不足が際立つ。
環境性能が問われるいま、世界中の自動車メーカーがエンジンの官能性を表現することに苦労しているから、やむを得ないという側面もある。けれども、あれだけの足まわりを開発したのだから、まだまだやれるでしょう。
参考までに、2021年に日本で販売されたレクサスUXは約7万7800台で、うちハイブリッドが約5万7800台、EVが5800台と、電動モデルが8割以上を占めている。したがって、静かで、上品で、穏やかで、環境にやさしいコンパクトSUVを求める人が、レクサスUXを購入していることは間違いなさそうだ。レクサスUXのラインナップのなかで、走りに特化した“Fスポーツ”は、マニア向けという位置づけになるだろう。
けれどもレクサスの未来を考えると、マニアに受けるということがとても大事だと思える。レクサスの問題とは、と、大上段に構えるつもりはないけれど、レクサスの気になる点は、まだマニアに認められていないことにある。例えば、クルマ好きの密度が高いと思われる筆者のまわりには、レクサスに乗っている人がひとりもいないのだ。そういえばひとりいた、と思ったら、あれは初代「セルシオ」だった……。
世のカーマニアやクルマバカと呼ばれる人々が、まずはレクサスを買ったり認めたりするようになることが必要だ。いずれそれを見た市井の人々が、「クルマ買おうと思うんだけど、レクサスってどう?」と彼らに相談するだろう。そうなって初めて、ホントの意味でレクサスは欧州プレミアムと肩を並べられる存在になるのではないか。このレクサスUX200“Fスポーツ”は、その第一歩になると感じた。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
レクサスUX200“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4495×1840×1540mm
ホイールベース:2640mm
車重:1500kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:174PS(128kW)/6600rpm
最大トルク:209N・m(21.3 kgf・m)/4000-5200rpm
タイヤ:(前)225/50RF18 95V/(後)225/50RF18 95V(ブリヂストン・アレンザ001 RFT)※ランフラットタイヤ
燃費:16.4km/リッター(WLTCモード)
価格:465万5000円/テスト車=583万2300円
オプション装備:ボディーカラー<ヒートブルーコントラストレイヤリング>(16万5000円)/“Fスポーツ”専用オレンジブレーキキャリパー<フロント「LEXUS」ロゴ>(4万4000円)/三眼フルLEDヘッドランプ<ロー・ハイビーム>&LEDフロントターンシグナルランプ+アダプティブハイビームシステム+ヘッドランプクリーナー+寒冷地仕様(18万2600円)/ITSコネクト(2万7500円)/デジタルキー(1万6500円)/ブラインドスポットモニター+パーキングサポートブレーキ<前後方静止物+後方接近車両>+パノラミックビューモニター<床下透過表示機能付き>(12万1000円)/おくだけ充電(2万4200円)/カラーヘッドアップディスプレイ(8万8000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(22万5500円)/“Fスポーツ”専用本革スポーツシート(25万3000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:769km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:229.3km
使用燃料:16.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.8km/リッター(満タン法)/9.8km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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