BMW i4 M50(4WD)
秘めたる魔性 2022.11.03 試乗記 「BMW i4 M50」は前後のモーターを合わせたシステム出力544PSを誇るハイパフォーマンス電気自動車(BEV)だ。「M」と「Mスポーツ」の間に入る「Mパフォーマンスモデル」という位置づけだが、不思議なことにその走りにはMっぽさはみじんも感じられなかったのだった。10年目の「i」ブランド
今やすっかりBMWのBEVを統括するサブブランドの感がある「i」。その歴史は2013年、BEVの「i3」とPHEVの「i8」の登場にまでさかのぼる。
核となるカーボンモノコックの素材ひとつとっても、日本で作られた原糸を水力発電を用いたアメリカの工場で焼成し、内装にはリサイクル材を多用。アッセンブリーラインにも最大50%の供給能力がある風力発電を用いるなど、当時としてはサステイナブルがきっちり追求されたプロダクトは、独創的なデザインとも相まってブランドの指向性を強く表していたように思う。
その両車がディスコンとなったいま、iを頂くプロダクトで最も強くその意志を継ぐのは「iX」ということになるだろうか。賛否が分かれるだろうデザインは、SUVプロポーションにして0.25という卓越したCd値を実現。内装はリサイクル材やオーガニック加工を多用するなど、やはりメッセージ性の強いものとなっている。
その骨格はカーボンやアルミの複合構造だが、大本となっているのは2015年に発表された先代「7シリーズ」から採用されている「クラスターアーキテクチャー=CLAR」だ。時系列から推するに、BMWはiブランドの立ち上げと並行してその第2段階を見据えてCLARを設計していたとみることもできる。
BEVの不利を感じさせないパッケージング
黎明(れいめい)期では高価格帯でのBEVニーズを見据えてFR系車台のカテゴリーで高い適応力を確保しておきつつ、いよいよ普及期とあらば既にスタンバっている新型MINIに採用されるだろう、BEV専用アーキテクチャーを水平展開していくと。よもやそんなことはないとは思うが、理想論でi3とi8を企画していく裏で、もしそういう未来の見通しが立てられていたとすれば、そのタイミングの測り方はお見事としか言いようがない。
そんなわけで現時点でのBMWのBEVは、大半がCLARをベースにした、内燃機版と並立するモデルになる。これまたデザインが物議を醸しそうな新型7シリーズも然り。商売的リスクを小さくしながらBEVの販売を広げるに、最もシンプルな手法だ。が、お察しのとおりFR系車台は空間効率が悪い。フロアには大きなトンネルがあり、バッテリーの積載性にも影響がある。
BMWのBEVで感心させられるのはこの点が見事にクリアされていることで、i4も見た目のとおり「4シリーズ グランクーペ」のBEV版ということになるが、パッケージへの影響がほとんど感じられない。床が持ち上がることでスペースが押されて足置きが窮屈になっていることもなければ、トランク容量も内燃機版と同じ470リッターが確保されている。そのぶん最低地上高がえらいことになっているのかと調べてみても、4シリーズ グランクーペより5mm低いだけだ。
そんなi4のトップグレードがこのM50ということになる。「eDrive40」には標準仕様とMスポーツというおなじみの2つのトリムがあるが、M50はパフォーマンス面からMが深く関与するMパフォーマンスモデルに位置づけられるグレードだ。iとM、2つのサブブランドがコラボレーションした初めてのBMWということになっている。
クルマ屋ならではの仕事
BMWが言うところでは、そのパフォーマンスの源は「M eDrive」と題される、前後に配されたモーターによる「xDrive」つまり四駆ということになる。前軸:258PS、後軸:313PSのモーターによるシステムの最高出力/最大トルクは544PS/795N・m。額面的には「M4」をも大きく上回るアウトプットが与えられている。そのぶん重量が火勢、いや、電勢? を相殺するところがあるとはいえ、0-100km/h加速は3.9秒、最高速は225km/hリミットと動力性能は強力だ。
同様にMパフォーマンス的な位置づけのiシリーズには「iX M60」があって、こちらは「X5」に相当するほどの巨体にもかかわらず、このi4 M50をも上回る動力性能が与えられている。BEVの速さ自慢は天井知らずの一面もあるが、それでもiX M60で驚かされたのはそのキレた能力をきめ細かな駆動制御を通じて努めて上質に送り出していることだった。やっぱりクルマ屋さんの仕事はどこぞとは違うよなと感心させられた次第である。
対して、i4 M50。MにあってMにあらず。はっきりとドSだ。ドライブモードが「スポーツ」以上に設定されていると、わずかなアクセルペダルの動きにも過敏に反応し、脱兎(だっと)の加速が繰り広げられる。
ドライブモードの最も激しい設定は「スポーツプラス」ならぬ「スポーツブースト」と名づけられているが、ターボエンジンのスクランブルブーストよろしく67PSが上乗せされ、著名な映画音楽監督が手がけたという、いかにもワープ的な効果音がかぶせられる。そのモードでの加速はムチ打ちが心配になるほど強烈で、大の大人がだらしないうめき声を漏らしてしまう。実際、2、3度それを繰り返すと、クルマ慣れしている自分でさえ目まいを覚えたほどだ。
にしおかすみこが呼んでいる
このご時世、0-100km/hが3.9秒以下のクルマはいくらでも経験があるが、BEVはその加速の質が内燃機とは真逆で、加速のピークが走りっぱなにドカンと襲いかかってくる。自動車メーカーが手がけるあらかたのBEVは、その特性をいかに手なずけて自然なものとするかに注力しているが、このi4 M50は特定のモードにおいて、その特性をむき出しにする。なんなら際立てているかのようだ。
お客さん、BEVをお好みってことは、こういうの、されたいんでしょ。
赤い照明が瞬く暗がりで、にしおかすみこに見透かされた下心を耳元でつぶやかれたような降伏感。この禁断の扉を開くか否かの自制心は乗り手次第だが、せめて平日平時は最も平穏な「エコプロ」モードで過ごすが吉だろう。このモードでいる限り、i4 M50はまったくストレスなく周囲に順応できる。
そう、普通にしている限りは秘めたる魔性を疑われることもない。実はこのクルマ、メカサスにしてそのくらい乗り心地もよく整っている。幅を微妙に違えたがためにローテーションが利かないタイヤのサイズ設定も、ハンドリングを入念にチューニングしたがゆえなのだろう、軽くはない車体で強烈な蹴り出しを加えていても、前後軸がブレークする感もなく安心してコーナーにアプローチしていける。M4のように誘われるような走りへの没入感こそ覚えないが、特性をうまく引き出しながら速くきれいに走らせるプロセスに気持ちよさは感じられる。
i4 M50の搭載するバッテリー容量はeDrive40と同じ83.9kWhだ。一充電走行距離はWLTCモードで約1割落ちの546kmとされている。が、i4は定常的な走行での効率が望外に高いことも特徴で、特性さえつかめば、思いもかけないほど遠くまで足を延ばせるかもしれない。そういうところも含めて、BMWのBEVは居抜きものでもよくできてるなぁと感心させられる。間もなく10年になろうというiブランドの経験値はやはりダテではないということだろう。
(文=渡辺敏史/写真=峰 昌宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW i4 M50
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4785×1850×1455mm
ホイールベース:2855mm
車重:2240kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:258PS(190kW)/8000rpm
フロントモーター最大トルク:365N・m(37.2kgf・m)/0-5000rpm
リアモーター最高出力:313PS(230kW)/8000rpm
リアモーター最大トルク:430N・m(43.8kgf・m)/0-5000rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y/(後)255/40R19 100Y(ハンコック・ヴェンタスS1 evo3)
一充電走行距離:546km(WLTCモード)
交流電力量消費率:173kWh/km(WLTCモード)
価格:1081万円/テスト車=1186万3000円
オプション装備:ボディーカラー<フローズンボルティマオブルー>(45万2000円)/ファストトラックパッケージ(40万6000円)/サンプロテクションガラス(5万9000円)/Mスポーツシート(13万6000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:835km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:278.2km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.1km/kWh(車載電費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。