BMW M3コンペティションM xDrive(4WD/8AT)
右足は知っている 2022.11.16 試乗記 「BMW M3」史上初の4WDモデルとしてラインナップされた「M3コンペティションM xDrive」に試乗。BMWのモータースポーツ部門として半世紀もの歴史を刻むM社が磨き上げた走りと、先に上陸した2WDモデルとのちがいを確かめた。M3シリーズ初の4WDモデル
もともとは後輪駆動を売りにしているメルセデスやBMWでも、一定以上のハイパワーモデルでは、4WDにするのが現代の常識である。メルセデスもAMGとなると、変速機をリアに置いてトラクションを確保するトランスアクスルレイアウトの「AMG GT」以外は、ほぼすべて4WDとなってしまった。
BMWも「M○○○i~」という車名が与えられる「Mパフォーマンスモデル」はすべて4WDである。さらに上級の最高峰たる「Mハイパフォーマンスモデル」も今や大半が4WDだ。SUV各車のMはもとより、「M5」や「M8」も4WDだけになってしまった。そのなかで今回の主役であるM3とそのクーペ版「M4」、そして「M2」は、BMWの高性能モデルとしては数少ない後輪駆動を守っている存在である。
とはいえ、M3/M4も現行モデルがデビューした2021年1月時点で4WDが用意されることも明らかにされていた。そして同年9月には日本でも価格を公表するとともに、FRから少し遅れての販売開始がアナウンスされた。というわけで、今回試乗したのは、そんなM3初の4WDである。
BMWの最新4WDシステム「xDrive」は電子制御油圧多板クラッチを使って駆動配分するタイプだ。FRレイアウトベースの場合は後輪駆動を主体としつつも、タイヤ回転数のみならず、速度やアクセル開度、舵角に応じて積極的に前輪にも駆動トルク配分をする。実際、乗り味的にも完全なFR状態になっている時間はとても少ない感触である。
しかし、このM3/M4に搭載される4WDはM5やM8のそれと同様、普通のxDriveとは一線を画す「M xDrive」と呼ばれるものだ。ハードウエアの構造こそ普通のxDriveと同じだが、制御がまるでちがう。
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4WD感がないM xDrive
M xDriveは通常の「4WD」モードでもフルグリップ時は完全な後輪駆動として走り、前輪へトルク配分するのは基本的に駆動輪のスリップを検知した場合という。最近のオンデマンド4WDは舵角や速度などに応じて先回り的にトルク配分するのが一般的だが、M xDriveはそうではない。M xDriveには「4WDスポーツ」というモードも用意されるのだが、これは通常用の4WDモード以上にトルク配分が限定的になる。そして、さらにM3らしいスポーツ性を最大限に引き出すモードとして「2WD」モードまでが用意される。
つまり、M xDriveは4WDらしくないことを最大の特徴とする4WDだ。4WDはあくまで黒子に徹する保険のような存在であり、たとえばアウディの「クワトロ」みたく4WDスポーツの可能性を突き詰めたタイプとは根本から異なる。M3らしい走りを追求するほど4WDから遠ざかる。DSC=横滑り防止装置をオフにすると、本来は4WDがもっとも頼りになる状況なのに、M xDriveはそこにあえて完全な2WDモードを用意するのだ。本末転倒というか、「そこまで4WDがイヤなのか?」と奇妙なツッコミを入れたくなる4WDというか……。
実際、M xDriveを搭載する今回のM3も普通に走るかぎり、ステアリングフィールは既存の2WDと区別がつかない。もちろん、前輪には駆動部品が追加されているから、厳密には差はあるのだろう。しかし、単独試乗では見事なまでに、4WD感がない。交差点を曲がるときにもステアリングフィールは混じり気なく軽快そのものだし、そこからアクセルを踏むと明確に後ろから蹴り出す。
日常走行で4WDを明確に意識させられるのは急いでUターンするときくらい。あせってアクセルを踏み込むと意図せず後輪が空転しかけるが、そんなときはトラクションコントロールが利くか利かないかの瞬間に、前輪も引っ張られるのを感じ取ることができる。
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ターボと自然吸気のイイトコどり
それはそうと、M xDriveとは関係ないけれど、このエンジンの気持ちよさはなんだ! 最新ターボらしく中低速からすこぶる強力なパンチを繰り出すくせに、7200rpmのリミットに到達する最後の最後まで、力感とレスポンスをきっちり積み上げていく。とくに「スポーツ」モード以上に設定すると、4000rpmくらいから火がついたように盛り上がり、さらにテンションが上がる。直6らしい実の詰まったサウンドも素晴らしい。最新のターボと伝統的な高回転型自然吸気のイイトコどりをしたようなエンジンである。
M3では、エンジン、サスペンション、パワステ、ブレーキやDSCやトラクションコントロールにいたるまで、それぞれ複数の味つけが用意される。しかも、普通のBMWのように、それらをメーカー側で組み合わせた「コンフォート」「スポーツ」「スポーツプラス」といった定食的なドライブモードは、最新のM3/M4には用意されない。よって、このクルマのドライバーは、通常時および「M1」「M2」といった走行モードの内容をそれぞれ自分でセッティングして走る。
また、もうひとつ、M独特の「Mモード」という機能も興味深い。これには大きく「ロード」「スポーツ」「トラック」という選択肢で、作動する先進運転支援システム(ADAS)などのメニューをワンタッチで変えられる。たとえばロードでADAS機能をフル作動させるいっぽうで、スポーツではクリッピングポイントをギリギリ射抜くときに邪魔な車線逸脱警報をキャンセルできる。さらにトラックではすべてのADASをストップできる。
これらドライブモードやMモードは、最初は面倒くさいという印象しかなかったのだが、その使い方やセッティングのキモも徐々につかめてきて、その便利さが身に染みる。そしていかにも好事家のエンジニアがリアルワールドで開発したのがヒシヒシと伝わってくる。
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心理的安心感は大きい
写真撮影の翌日、せっかくなので箱根のワインディングロードにひとり出かけたら、完全なウエットコンディションという幸運に恵まれた(?)。このコンパクトな車体に650N・mという自然吸気6~7リッター級の大トルク、しかもトランスアクスルでもミドシップでもない“尻軽”な重量配分となる後輪駆動……と、考えるだけで、下手の横好きの典型である筆者は緊張で鼓動が高まる。
実際、ヘビーウエットの箱根でもM3はあくまで後輪駆動らしい走りを披露した。高性能FR特有のスリリングな緊張感も健在で、ぶしつけな運転では後輪は容易にブレークしかける。ただ、コーナリング出口でアクセルペダルに乗せた右足に力をこめる瞬間に「最後は4WDになってくれる」と思える心理的安心感は、筆者のようなアマチュアには大きい。実際、気づいたら4WDに助けられていたかのようなシーンも何度かあった。
それにしても、これだけ4WDらしくない4WDなのに、水しぶきを上げながらでも積極的にアクセルを踏むことができたのには、あらためて感心した。優秀なサスペンションや「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S」タイヤ、そして「Mアクティブディファレンシャル」によるM3の基本トラクション性能は、一般的なレイアウトのFRとしてはやはり最上級の部類に入る。
現行M3/M4のデビュー時に4WDが用意されていると知って「この性能ではもはや4WDこそが大本命」と早合点して、2WDが残されたことに逆に違和感をおぼえたのは事実だ。
しかし、こうして乗ってみると、M3/M4の本命はまだ2WDと思える。これ1台ですべての生活をこなして、それこそ冬季はスタッドレスタイヤを履かせる使い方なら、4WDを選んだほうが安心だろう。ただ、ガレージに複数台のクルマを置いて、とっておきのスポーツドライビングマシンとして所有する向きには、やっぱり2WDをおススメしておきたい……と結論づけたあとでよくよく最新ラインナップを眺めてみると、日本ではM3の2WDモデルがいつの間にかカタログ落ちして(欧州ではまだ残されているようだが)、2WDが選べるのはM4だけになっていた。まあ、M xDriveは後輪駆動好きにも邪魔にならなそうな4WDではあるのだが。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW M3コンペティションM xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1905×1435mm
ホイールベース:2855mm
車重:1800kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510PS(375kW)/6250rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2750-5500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR19 100Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:9.8km/リッター(WLTCモード)
価格:1381万円/テスト車=1726万4000円
オプション装備:BMW Individualボディーカラー<リビエラ・ブルー>(68万5000円)/フルレザーメリノ ヤスマリーナ・ブルー×ブラック(30万8000円)/BMW Individualアルミニウム・ファブリック・ハイグロスインテリアトリム(9万6000円)/Mドライブプロフェッショナル(12万4000円)/Mカーボンセラミックブレーキ<ゴールドキャリパー>(107万5000円)/アクティブベンチレーションシート(11万7000円)/パーキングアシストプラス(6万9000円)/Mドライバーズパッケージ(33万6000円)/Mカーボンエクステリアパッケージ(64万4000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:4979km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:1049km
使用燃料:131.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.0km/リッター(満タン法)/8.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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