MINIクーパーS クロスオーバーALL4(4WD/6MT)【試乗記】
MINIの拡大解釈 2011.01.28 試乗記 MINIクーパーS クロスオーバーALL4(4WD/6MT)……499万7000円
4枚ドアの新型MINI「クロスオーバー」が日本上陸。シリーズ初の四駆モデルに試乗した。
リメイクの範疇を超えている
そもそも考えてみれば、ニュー「MINI」というクルマは、オリジナルMINIを“リメイク”するところにスタート地点があったクルマだ。これはすなわち、ゴール地点もオリジナルMINIであることを意味している。
どういうことかというと、ビートルズのコピーを生業(なりわい)としてスタートしたバンドは、どれほど演奏能力が高くて、どれほど作曲能力に恵まれていたとしても、ポールが間違えて演奏したところはそのとおりまねなくてはならないし、酷なことを言うようだが、自らのオリジナル曲を演奏することは望まれていない。なぜなら、ビートルズを超えたり、ビートルズより正しく演奏した瞬間に、別モノになってしまうからである。
だから本来、リメイクカーにモデルチェンジや進化などというものはありえないはずなのだ。だって、リメイクするたびに解釈がちょこちょこと変わっているようでは、リメイクとは呼べないじゃないか。
つまりニューMINIは、モデルチェンジをした瞬間にオリジナルのリメイクの範疇(はんちゅう)を超えていたわけであり、独自の進化を志すオリジナルカーになっていたと考えた方が、きっといいのだ。
見るからに大きい「MINIクロスオーバー」を前にして、まずはそんなことを考えた。そしたら、ずっとこのクルマが理解しやすくなった。ハッチバックモデルより高い位置にあるドアハンドルを引き、いざ、運転席に着いてみる。
みんなに一番オススメしやすい
運転席の居心地は、「MINIハッチバック」とはいろいろ違っている。まず、アイポイントが高い。信号で「トヨタ・プリウス」と並んだので、比べてみたら、ドライバーの目線はこちらの方が若干高かった。次に、ボンネットが前の方までよく見える。地面と水平の方向に伸びたデザインになっているため、車体の感覚がつかみやすい。
そうはいっても、「MINIクロスオーバー」の全幅は1790mmもあり、「MINIハッチバック」(1685mm)と比べれば、街中での取り回しに気を使うようになってしまったことは事実だ。フォルクスワーゲンでいうなら、ライバルは「ポロ」(全長3995×全幅1685mm)ではなく、場合によっては「ゴルフ」(同4210×1790mm)になってしまったわけだ。
ちなみにこのクルマの1550mmという全高は、タワーパーキングへの入庫を考えて設定した日本仕様専用の値であり、欧州仕様では1561mmとなる。その差の11mmは、ルーフアンテナの台座を日本専用品にするなどして稼ぎ出している(斜めにそがれたデザインになっているのが確認できる)。
最近は中国市場ばかりクローズアップされて、日本が忘れられている気がしてならなかったから、実用面もさることながら、心理面でもちょっとうれしい心遣いである。
さらに「MINIハッチバック」とは、着座姿勢が変わった。ヒップポイントが低く、足を前に投げ出して座るようなハッチバックに対し、こちらはもっとアップライトに、いかにも椅子(いす)然と座る格好となる。加えて後席の膝周りも、MINIファミリーの中で一番余裕があるし、着座位置が高いから、乗り降りがしやすい。
「これがMINIと呼べるかどうか」という議論に拘泥(こうでい)しなければ、「MINIクロスオーバー」はみんなに一番オススメしやすいMINIである。
遠乗りしたいゴーカート
ボディが大きくなったぶん、「MINIクロスオーバー」は確実に重くなっている。今回試乗した「クーパーS クロスオーバー」の「4WD仕様」の車重は1460kg。「ハッチバック」の「クーパーS」が1210kgだから、ずいぶんな違いである。
もっとも184psを発生する1.6リッターのツインスクロールターボエンジンは、これくらいの差なら問題なしと言わんばかりに、重量級のボディをグイグイと引っ張りあげる。トルクがちょうどピークに達する1500rpmあたりでボディがグッと前に出て、そこからリミットまでリニアに吹けあがり、動力性能は十分。いや、これはかなり速いクルマの部類に入る。
エンジンは4000rpmあたりから騒々しくなってきて、クルマの質感という意味ではマイナスだが、まあ、クルマのキャラクターに合った健康的なエンジンノイズ(?)なので、目をつぶろうかという気にさせられる。
一方で、ゴーカートフィーリングをうたってきたMINIならではのクイックなハンドリングについては、サスペンションがゆったりとストロークする設定になっているので、ロール方向に姿勢がなびくぶん、やや反応が甘くなっている。これはオプションの18インチタイヤを履いたモデルでの印象だから、16インチや17インチではさらに鷹揚(おうよう)に感じられるのかもしれない。
ただ個人的には、これでも十分ゴーカートっぽいと思う。荒れた路面では“当たり”こそ硬めだが、そこから先がしなやかなサスペンションのおかげで、遠乗りしたいゴーカートである。
もし仮に今、オリジナルMINIの設計者であるアレック・イシゴニスが現役で、できるだけ小さなボディで、4人がしっかり乗れて、荷物も積めて、運転して楽しい小型車を作れと言われたら、やっぱりこれくらいの大きさのクルマになるのでないか、というのが半日触れての感想だ。
いろいろ考えれば、これでもまだ十分MINIである。筆者はこの新しいMINIに肯定的だ。ただし、オプションを盛り込むと500万円になんなんとする価格だけはBIGすぎるが。
(文=竹下元太郎/写真=小河原認)
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|

竹下 元太郎
-
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】 2025.12.17 「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
NEW
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】
2025.12.20試乗記冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。 -
NEW
失敗できない新型「CX-5」 勝手な心配を全部聞き尽くす!(後編)
2025.12.20小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージによる新型「マツダCX-5」の開発主査へのインタビュー(後編)。賛否両論のタッチ操作主体のインストゥルメントパネルや気になる価格、「CX-60」との微妙な関係について鋭く切り込みました。 -
NEW
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】
2025.12.19試乗記フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ911カレラT編
2025.12.19webCG Movies「ピュアなドライビングプレジャーが味わえる」とうたわれる「ポルシェ911カレラT」。ワインディングロードで試乗したレーシングドライバー谷口信輝さんは、その走りに何を感じたのか? 動画でリポートします。 -
NEW
ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編)
2025.12.19小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。 -
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」
2025.12.19デイリーコラム欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。

































