次なるモータリゼーションのフロンティア! インドに寄せる日本メーカーの熱視線
2023.02.24 デイリーコラム2023年には中国を抜いて“人口世界一”に!
ここ最近、日系自動車メーカーの戦略説明会で、やたらとその名を耳にする国といえば、インドだ。ちょっと前までは「スズキの一強で、その他は五里霧中のマーケット」といったイメージしかなく、実際、進出して“返り討ち”状態に陥っているメーカーも少なくない。それでもなお、今あらためてインドが盛り上がっている理由はなんなのか?
まずはインドの現状がどうなっているのかから説明したい。2022年のインドは、コロナ禍や半導体不足という問題の解消が進んだこともあり、自動車市場が絶好調だった。新車販売台数はなんと前年比+25.7%の約473万台となり、約420万台だった日本市場を抜いたのだ。これにより、インドは年間約2600万台の中国、約1500万台のアメリカに次ぐ、世界3位の市場となった。ちなみに2022年のインドでは、これ以外にも「リキシャ」と呼ばれる三輪車が約41万台販売され、さらにバイクが1560万台売れている。今でも十分に自動車大国のインドだが、経済成長が進めば、これらの需要が四輪車に移行してくるかもしれない。
また国連の発表した「世界人口推計2022」によると、インドの人口は2023年に14億を突破して、中国を抜くと予測されている。中国が2022年に人口減に転じたのに対し、インドは2063年の約17億人まで人口増が続くと予測されているのだ。
つまり、インドは「現時点で中国やアメリカに届いたわけではないけれど、今後約40年にわたって成長し続けるであろう、超未来有望なマーケット」なのだ。そうとなれば、ここに参入しないわけにはいかない。特にその意図を明らかにしているのが、冒頭でも触れたとおり、日本のメーカーなのだ。
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新戦略を掲げるルノー・日産と“王者”スズキの施策
インドに対するアプローチとして最新のものとなるのが、2023年2月13日にルノーと日産が発表した、同国における新事業計画だ。内容は「6億USドルを投資して、電気自動車(EV)2車種を含む新型車6車種をインドで生産する」「チェンナイにある研究拠点に最大2000人を新規雇用し、研究開発能力をアップさせる」「生産工場での再生可能エネルギーの採用を拡大する」というものだ。気になる6車種の新型車については、日産とルノーで3車種ずつとなる様子。EVは2車種のAセグメントモデルで、残りの4車種はCセグメントのSUVとなるようだ。
またインドにおけるNo.1自動車メーカーのスズキも、2023年1月26日に「2030年度に向けた成長戦略」を発表。その骨子は、「日本・インド・欧州を核にして、カーボンニュートラル社会の実現と、新興国(インド、ASEAN、アフリカなど)の成長に貢献する」というものだった。ちなみにスズキは、この発表で、2030年度の売上目標を2022年度の2倍(!)となる7兆円に引き上げたことも公表した。この目標達成には、インドとアフリカの成長が必須と言っていいだろう。それにしても、米国からも中国からも手を引いたスズキが「売上目標7兆円」というのだから恐れ入る。彼らがインド市場の成長をいかに大きく見込んでいるかがうかがえるというものだ。
具体的な事業計画を見ると、新型EVの投入、バイオガス事業の開始、研究開発体制・外部連携の強化などが公表されている。このうち、EVについては「オートエキスポ2023」で発表したコンセプトモデル「eVX」の量産版を2024年度に投入するのを皮切りに、2030年度までに6車種を投入するという。ただし、同年におけるEVの販売比率は15%が目標で、これは「2030年に30%」というインド政府の目標と比べても少ない数字だ。かの地の実情を知り尽くす彼らは、EV一辺倒ではなくハイブリッド車やCNG車、バイオガスやエタノール配合燃料など、エンジン車を存続しつつ多角的な施策でカーボンニュートラルの道を探るつもりなのだ。
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ホンダが挑むバッテリーのシェアリングサービス
そんなスズキとの協業により、インドにアプローチしているのがトヨタだ。トヨタとスズキは、2020年6月にインドでの開発・生産領域における協業の拡大を発表(参照)している。その内容は、スズキが開発した新型SUVを、トヨタの現地工場(トヨタ・キルロスカ・モーター)で生産するというもの。生産されたクルマは、トヨタ版が「アーバンクルーザー ハイライダー」、スズキ版が「グランドビターラ」の車名で販売される。パワートレインにはスズキのマイルドハイブリッドとトヨタのストロングハイブリッドが設定され、インドだけでなくアフリカを含めた海外市場にも輸出される……というものだった。実際、同車の生産は2022年8月に始まっており、2023年1月には輸出もスタートしている。インドにおけるトヨタとスズキの協業は、順調なスタートを切ったと言っていいだろう。
最後に、ちょっとユニークなホンダのアプローチを紹介しよう。ホンダは四輪車や二輪車に加え、“バッテリー”でもインドに挑んでいるのだ。武器は着脱・可搬式の「Honda Mobile Power Pack e:」(ホンダモバイルパワーパックイー、以下モバイルパワーパック)。彼らは、インド国内で保有台数800万台といわれるリキシャのEVモデルに向けた、バッテリーのシェアリングサービス事業を行っているのである。
インドでは、深刻化する都市部の大気汚染を解決するため、リキシャのEV化が模索されている。しかし四輪車の場合と同じで、EVのリキシャにはエンジン車と比べて航続距離が短く、充電に時間がかかり、高コストであるというハードルがある。それをモバイルパワーパックでクリアしようというわけだ。ホンダは、2021年2月にインドで30台のリキシャを用いて検証を開始(参照)。同年11月に現地法人を立ち上げ、2022年に事業をスタートさせた。現在は現地企業とも協力し、ガソリンスタンドなどにもバッテリーの交換ステーションの設置を進めているという。
こうして四者四様の取り組みを見ると、インドが成長著しいマーケットとしてだけではなく、生産を含む産業の拠点としても注目を集めていることがうかがえる。現状では、具体的な事業戦略を明らかにしているのは日系メーカーが主だが、今後は世界中のメーカーが本格進出の意向を示すことだろう。インドの自動車業界は、これからさらに熱くなるに違いない。
(文=鈴木ケンイチ/写真=スズキ、日産自動車、本田技研工業/編集=堀田剛資)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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