トヨタとの協業も品質管理もお任せあれ! スバルの新社長 大崎 篤氏ってどんな人?
2023.03.20 デイリーコラム次期社長はバリバリの理系のエンジニア
2023年の「桃の節句」こと3月3日、スバルは東京・品川で記者会見を行い、同年4月1日付で大崎 篤(おおさきあつし)氏が新たな代表取締役社長兼CEOに就任すると発表した。大崎氏とはどんな人物なのか? なぜこのタイミングで社長交代となったのか? 記者会見で感じた当人の人柄を含めて、お届けしたい。
あらためて、この記者会見直前の取締役会で新社長に内定した大崎氏は、現在は取締役専務執行役員兼製造本部長を務めている。年齢は、1962年4月生まれの60歳。東京都出身で、東京農工大学大学院工学研究科を修了して1988年4月に富士重工業(当時)に入社している。要するにバリバリの理系エンジニアなのだ。入社のきっかけは、研究室で富士重工業からのエンジンの委託研究に携わったことで、先に入社した先輩の「業界内では小さな会社だが、自由な社風」という言葉にも心引かれたそうだ。入社からの約10年はエンジンやトランスミッションの開発に携わり、モノづくりの難しさや奥深さ、そして楽しさを肌で学んだという。
その後、30代となった大崎氏はいったん会社を休職することになる。8年にわたり、労働組合の専従役員を務めたのだ。当時の経営陣と経営課題について激論を交わすなか、経営側の視点や働きを学び、人材こそがすべての基盤だという思いを強くしたという。
拡大 |
複雑な経歴に見るユニークな人となり
大崎氏が富士重工業に復帰したのは2007年4月のことで、スバル商品企画本部においてPGM(プロジェクトゼネラルマネージャー=車両開発責任者)を2011年まで務めた。
記者会見で彼の代表作として挙げられたのが、トヨタとの共同開発車であるBセグメントコンパクト「トレジア」だ。「トヨタ・ラクティス」の姉妹車だが、実はスバルも開発段階から携わっており、デザインだけでなく走りの面でもスバルらしさを追求。「タイプ ユーロ」という専用のスポーティーグレードも設定された。この協業で示された、「双子モデルでもそれぞれの個性を大切にする」という2社の姿勢は、その後の「トヨタ86」「スバルBRZ」にも受け継がれるところだ。また、同時期には自社製軽自動車全般のPGMも務めており、ダイハツ車のOEMとなる前の、スバル自製の最後の「サンバー」や「ステラ」なども彼が手がけている。
次なる転機は2011年6月で、大崎氏は車両開発の現場から離れ、スバル技術本部技術管理部長に就任する。2013年4月にスバル品質保証本部長となると、後に品質保証本部副本部長を兼任し、2017年に品質保証部長となり、2018年にはCQO(最高品質責任者)も兼任……と、ここ10年余りはひたすらスバル車の品質向上に力を注いできた。現職の製造本部長となったのは、2021年4月のことだ。
こうして経歴を振り返ると、大崎氏が幅広い分野でエンジニアとしての経験があり、また経営の視点も持ち合わせるユニークな人物であることがわかる。
拡大 |
“完成検査問題”への対応で指揮を執る
もうひとつ、大崎氏の近年の経歴からわかるのが、彼が中村知美社長体制のもとで、“完成検査問題”の解決と体制改善に取り組んできたことだ。スバルの危機に際して現場で指揮を執り、近年の改革を支えてきた。そのことから、大崎氏は中村社長だけでなく社内外からも信頼が厚いようだ。
彼の新社長抜てきの理由について、中村社長は「コーポレートガバナンスに定められる『あるべきCEO像』と『CEOとして備えるべき5つの資質』に適した人物を、役員会で選定した」と説明。加えて「自動車が100年に一度の大変革を迎える今、どのようなかたちで電動化シフトが進んでいき、(エンジン車が)終息を迎えるのか。それともカーボンニュートラル燃料の普及でエンジン車も選択のひとつに成り得るのか。さまざまなことが想定されるなか、開発や製造の現場とも近い大崎さんのキャリアが生きてくるのではないか」と期待を寄せた。
また、このタイミングでの社長交代を決めた理由について、中村社長は、自身が中心となって進めてきた2018年策定の中期経営計画「STEP」が、5年の区切りを迎えることを挙げた。環境の変化に対応する新たな経営ビジョンの策定を前に、社長を含めて新経営体制へ移行すべしと考えたのだ。
中村氏が社長を務めた5年間、スバルではコーポレートガバナンスの強化、品質改善、組織改革、トヨタとの関係強化、スバルブランドの価値向上を中心に、経営改革が進められてきた。コロナ禍における数字の落ち込みなどはあったものの、会社の体質や利益構造に改善の兆しが見える今が、社長交代にふさわしいタイミングだと判断したようだ。
記者会見に出席した筆者は、せっかくなので今後のスバルについても尋ねてみた。昨今は新車価格が高騰しており、ユーザーからはより安価なモデルの登場が期待されているが、そちらのジャンルでなにか展望はあるのだろうか?
回答は「現時点では独自のコンパクトカー開発などは考えていない」というものだったが、同時に「トヨタやダイハツから供給されるOEM車についても、86/BRZや『トヨタbZ4X』『スバル・ソルテラ』のときのように、深く開発に携わり、“スバル色”を強めることを検討したい」との考えも示された。一方でスバル独自の車種については、今後も付加価値の追求を続けながら、少しでもアフォーダブルな価格での製品提供に取り組んでいくとのことである。
拡大 |
モノづくりが好きで、現場好き
最後に、大崎氏の人柄にも触れたい。子供のころからモノづくりが好きで、もちろんクルマ好き。それが大学院でのエンジン研究へとつながり、富士重工業の門をたたくことになった。人とのコミュニケーションを大切にし、現場好きを自負する。記者会見ではクルマへの強い思いと実直な人柄が感じられるシーンもあった。それが、完成検査問題で得た知見を語るコメントだ。
「クルマづくりには多くの職場と従業員が関わり、どれが欠けてもならない。だからこそ、すべての仕事がお客さまに信頼されるものではなくてならないと社員に伝えてきた。その環境づくりでは、現場で問題が生じた際の上司と部下のコミュニケーションが重要だ。上司はしっかりと対応ができなくては意味がない。より現場の声を吸い上げるためにも、今も私が現場の人と少人数でのラウンドテーブルを続け、腹を割って話すことを大切にしている」
趣味はグルメ巡りで、最近はスバル研究実験センターのある栃木県佐野市のご当地グルメ「佐野ラーメン」の食べ歩きを楽しんでいるという。無論、キャリアの原点であるエンジンへの思い入れは今も強い。現在スバルは、カーボンニュートラル燃料を使ったレース参戦などを通し、電動化以外の自動車の可能性についても模索している。大崎氏のエンジニアとしての知見も生かされるはずだ。加えて、労働組合での経験などから人材の大切さも肌で知る。日本的なモノづくりが岐路に立たされるなか、大崎氏のようなリーダーは大いに力を振るってくれるだろう。
この4月からのスバルでは、中村社長が取締役会長となり、大崎氏の率いる新体制をバックアップしていく。新社長の就任と新体制の発足が、スバルらしさにあふれる新世代のクルマづくりにつながることを期待したい。
(文=大音安弘/写真=大音安弘、スバル/編集=堀田剛資)
拡大 |

大音 安弘
-
パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く 2026.10.9 パナソニックが、市販市場向けカーナビゲーション、ドライブレコーダー、リアビューカメラの終売を発表! カーエレクトロニクス界の巨人は、なぜ市場からの撤退を選んだのか? 変化し続けるマーケットの在りようを振り返り、車載機器の未来を考察した。
-
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る 2026.10.8 スバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。
-
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか? 2026.10.7 いよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。
-
人件費不要の自動運転タクシー導入! で、料金はどうなる? 2026.10.5 運転手がいない完全無人の自動運転タクシーが、2027年中に国内で運用される見通しとなった。では、われわれユーザーが享受できる具体的な恩恵は? 望ましい料金とは? 清水草一はこう考える。
-
メーカー団体もついに本気になった? 日本における「自動運転」の未来と現在地 2026.10.2 日本の自動車メーカー14社で構成される日本自動車工業会が、記者会見で「自動運転」の普及・実装へ向けた取り組みを発表した。彼らは、どのようなロードマップで自動運転の社会実装を考えており、そこにはどのような課題があるのか?
-
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション
2026.10.9webCG Moviesホンダを代表するSUV「CR-V」に、トヨタでさまざまなクルマを開発してきたエンジニア、多田哲哉さんが試乗。その仕上がりにどんなことを思ったのか、動画でリポートします。 -
パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く
2026.10.9デイリーコラムパナソニックが、市販市場向けカーナビゲーション、ドライブレコーダー、リアビューカメラの終売を発表! カーエレクトロニクス界の巨人は、なぜ市場からの撤退を選んだのか? 変化し続けるマーケットの在りようを振り返り、車載機器の未来を考察した。 -
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。

































