メルセデス・ベンツCL550 ブルーエフィシェンシー(FR/7AT)/S63 AMG ロング(FR/7AT)【試乗記】
白鳥とUFO 2011.01.19 試乗記 メルセデス・ベンツCL550 ブルーエフィシェンシー(FR/7AT)/S63 AMG ロング(FR/7AT)……1738万円/2447万円
3割、5割はあたりまえ!? 燃費が大幅に向上したというメルセデスとAMGの新型V8エンジンの感触やいかに?
燃費が5割以上もアップ!
「あなた、今まで燃費のことなんか考えたことなかったでしょっ!」とツッコミを入れたくなったのは、AMGの新しいV8エンジンが従来型に比べて5割以上も燃費がよくなったと聞いた時。ここで、急に3分の2以下になるなんて牛丼の値段ですか、てな意地悪を言うと、天に唾することになる。わが身を振り返っても、つい数年前まで燃費は二の次、三の次だった。
大事なのは明日への取り組み。「CLクラス」のマイナーチェンジと同じタイミングでメルセデス・ベンツとAMGのV型8気筒エンジンが大きく燃費を改善したものへと移行した。新エンジン搭載の「CLクラス」および「Sクラス」を紹介したい。
まず、メルセデス・ベンツの自然吸気5.5リッターV型8気筒エンジンが4.7リッターV8直噴ツインターボへとダウンサイジング。より緻密に燃料の量をコントロールできる直噴の採用もあって、燃費が約3割も改善された。排気量を小さくしながらも、ツインターボの過給によってパフォーマンスは向上。最高出力は435psと、従来の5.5リッターユニットに比べて48psのパワーアップを果たした。最大トルクも71.4kgmと、17.4kgmが上積みされている。
一方AMGでは、自然吸気6.2リッターV型8気筒エンジンが5.5リッターV8直噴ツインターボへと移行。燃費を5割以上改善しながら、最高出力は従来型比プラス19psの544ps、最大トルクもプラス17.4kgmの81.6kgmとなっている。
ちなみに今回試乗した「S63 AMG ロング」にはAMGパフォーマンスパッケージという130万円(!)のオプションが装着されており、最高出力は571ps、最大トルクも91.8kgmにまで引き上げられている。
といったところで説明はおしまい。「CL550 ブルーエフィシェンシー」と「S63 AMG ロング」に順番に試乗してみましょう。
乗り心地だけでお金がとれる
マイナーチェンジによって、「CLクラス」は外観にも変更を受けた。フロントグリルの彫りは深くなり、ヘッドライトユニットとフロントバンパーがLEDで“お化粧”されたことで、顔つきは派手になった。ただでさえ長身で華やかなキャメロン・ディアスがさらに濃いメイクをしたみたいで、個人的な好みとしては少々やりすぎ。でも、いざ運転してみると、そんな好みの問題は吹っ飛んだ。アホみたいな感想だけど、世の中にこんなにいいクルマがあるのかと思った。
巨大なドアを開けると、油圧式のホールドシステムによって開いたドアが願った場所でぴたりと止まる。当日は強風が吹き荒れていたけれど、隣のクルマにゴン! ということはない。乗り込んで、インテリアに大きな変更はないことを確認。
スタートして数十秒、「ターボが付いているかわからない」ということに気が付く。いや、それはターボの存在に気が付かないということか。とにかく発進加速は恐ろしくスムーズで、鏡のような湖面を優雅に泳ぐ白鳥のように白い「CL」は進む。白鳥も水中では足をバタバタさせているわけで、10.5という高圧縮比や効率重視の小径タービンなど、エンジンフードの下では技術の粋がこれでもかと稼働しているはず。けれど、ドライバーにそんな野暮は一切伝わらない。
強大な最大トルクは1800rpmという低回転から生まれるから、アクセルペダルに載せた足にそっと力を入れるだけで、威風堂々と前進する。少なくとも街中では2000rpm以上は必要ない。
エンジン回転を上げずに走るから退屈かといえば、そんなことはない。体がとろけそうな乗り心地なのだ。プロ野球やJリーグの解説で「あの選手は守備だけでおカネがとれます」みたいな発言を聞くけれど、CLは乗り心地だけでおカネがとれる。それは、ただ乗り心地がソフトというだけではない。
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自動運転でも楽しい
たとえば路面の凸凹を越える時、凸凹の存在も路面からのショックも消してしまうタイプの乗り心地のよさはヨソでも経験できる。でもCLの場合はそうじゃない。「凸凹がありますよ」とその存在は伝えるけれど、ショックだけは上手に遮断するのだ。言動不一致、二枚舌のイヤなやつだ。
コーナリング時のロール(横傾き)もまた、快感だ。中距離ランナーやサラブレッドが少し体を傾けながらカーブを曲がるように、ごく自然にロールするのだ。「この速度でこのコーナーならこのロール量です」という正解を、コーナーのたびに見せてもらえる。ロールが適切だと感じることはあるけれど、ロールがキモチいいと感じる経験がいままであったか。このクルマだったらEVだろうが燃料電池車だろうがなんでも楽しいし、自動運転でも退屈しないんじゃないかと思える。
そして、ここでも白鳥は水面下で必死に水をかいている。ABC(アクティブ・ボディ・コントロール)のコントロールユニットが4輪にかかる荷重を察知、瞬時にコイルスプリング内蔵の油圧ユニットに指令を出してサスペンションの動きをコントロールしているのだ。ゆっくり走る時は穏やかに、激しい時にはリズミカルに舞うCLは、白鳥の湖を踊るバレリーナ。
試乗後に口をポカンと開けてしまった「CL550 ブルーエフィシェンシー」であるけれど、残念だった点がひとつ。試乗車の「白ボディ×黒内装」という組み合わせは、あまりにもつまんない。カタログには「designo」という項目があって、実にステキな内装色がたくさん用意されているのに。
せっかくの広報車両なんだから、ため息が出るようなカラーリングを見たかった。このクルマにとって、そこんところは最高出力より重要だと思うのです。
不思議な超高性能車
「S63 AMG ロング」に乗り換えて真っ先に感じたのは「カッテェ」だった。「買ってぇ」じゃなくて硬かったのだ、乗り心地が。もしかしたらロング版だから後席の乗り心地はいいのかと思ったら、後席もかなり突き上げがキツい。「CL550 ブルーエフィシェンシー」の後席のほうが、狭いは狭いけれどはるかに快適だ。
これだけ締め上げているぶん、さすがにハンドリングはビシッとしている。骨っぽい手応えのステアリングホイールを切るとキュッと曲がって、全長5260mmという巨体が信じられないくらいコンパクトに感じられる。
厄介なのは、もっとスピードを上げればさらに乗り心地とハンドリングがよくなりそうな気配があること。でもこれ以上、日本では無理です。
ノーマルでも544ps、AMGパフォーマンスパッケージというオプションで571psのハイパワーはさすが、と書きたいところだけれど、日本のワインディングロードでは持てる能力の数割しか味わえない。軽くアクセルペダルを踏み込むだけで、目ん玉が飛び出そうな速度になる。
エンジンのレスポンスはかみつくように鋭いし、回転を上げるとエグゾーストノートがエキサイティングなものとなる。従来のトルクコンバーターに代わって採用された湿式多板クラッチ式の「AMGスピードシフトMCT」も電光石火。だから楽しくないわけではないのだけれど、気持ちが高ぶるというよりも、ちょっと不思議な気分になる。ボディを長くして後席を広げたロング版に、これだけの高性能を組み合わせるのはどんな人か?
乗り心地がカッテェうえに、後席でもかなり騒々しいこのクルマ、とてつもない底力があるのはわかったけれど、その力の使い方がわかりません。
超多忙な大金持ちが元レーシングドライバーをショファーに雇うのか、それとも「一番高いヤツ持ってきて」とオーダーしたら間違えてコレが来ちゃったのか。カシミヤベージュ×サバンナベージュという内装色の組み合わせが強烈にステキだったことも、どんな人が乗るのかという謎をさらに深めるのだった。CLが白鳥だとしたら、こっちはUFOだ。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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