マセラティ・グレカーレ トロフェオ(4WD/8AT)
一粒で何度もおいしい 2023.06.26 試乗記 マセラティのミドシップスポーツ「MC20」譲りのパワーユニットを搭載するハイパフォーマンスSUV「グレカーレ トロフェオ」に試乗。最高出力530PSを誇る3リッターV6ツインターボと、エアサスを標準装備する4WDシャシーが織りなす走りやいかに。名家の子女といった趣
マセラティ・グレカーレの最上級モデル、トロフェオの目玉はなんといっても、MC20に積まれた3リッターV6ツインターボエンジンを搭載することだ。
グレカーレの「GT」と「モデナ」に積まれる、2リッター直4ターボエンジン+マイルドハイブリッドもバランスのとれた好パワートレインであるけれど、新世代スーパースポーツと共通の心臓を持つSUVは、どんな世界を見せてくれるのか。
黒をベースとしつつ、深みのある赤いステッチをあしらったシックなインテリアに囲まれて、スターターボタンをプッシュ。「フォン!」とか「バッフン!」といったエンジン始動時の大げさな演出はなく、V6エンジンはさり気なく目覚めた。
押し出しの強さではなく、面と線の美しさで見せるエクステリアとともに、育ちの良さを感じさせる。名家の子女といった趣だ。
走りだしても上品で、極低回転域から強力なトルクがあることと、スムーズな回転フィールからは、“いいモノ”感がひしひしと伝わってくる。伝わってはくるのだけれど、「MC20のV6」というパワーワードから想像するような、めくるめく非日常の世界は感じられない。
ところが、である。この印象は「COMFORT」「GT」「SPORT」、そして「CORSA」の4つのドライブモードのうち、デフォルト設定のGTモードで走っているときのものだった。
ステアリングホイールのスポーク下部に位置するドライブモードセレクターをクリっと回してSPORTをセレクトすると、いかにも抜けのよさそうな、乾いた排気音のボリュームが上がった。つい、パワーウィンドウを下げたくなる。
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心を震わせる性能と演出
3リッターV6は、MC20ではドライサンプだったものをウエットサンプ化するなど、グレカーレのキャラに合わせて変更を受け、結果として最高出力は630PSから530PSにデチューンされている。けれども、この気持ちよさはなんだ! 100PSぐらい、くれてやる! くれてやるって、だれにくれてやるのかわかりませんが、意味不明の言葉を口走ってしまうぐらい、気分がアガるエンジンだ。
まず、音がいい。3000rpmあたりから徐々にボリュームが上がり、ボリュームアップと同時に、音質も変化していく。具体的には、低回転域では「バ行」の音だったのに、4000rpm前後から濁音が半濁音に変わり、「パ」行の音になる。さらに回すと、「パ」行が「ハ」行に変化して、「フォーン」と抜けていく。この音の移り変わりがなんともドラマチックで、運転席がコンサートホールに変わったように感じる。
そしてエンジンのドラマチックな展開から、黎明(れいめい)期に家族経営でがんばったことや、レースに金を突っ込み過ぎてつぶれそうになったこと、シトロエンと提携したことなどなど、マセラティというブランドの栄枯盛衰が頭をよぎった。もしイタリアに『NHKテレビ小説』があったら、マセラティ兄弟の物語が大人気になるのではないか。
もちろん、音がいいだけでなく、0-100km/h加速が3.8秒、最高速度が285km/hというスペック的にも、このV6ツインターボが高性能だということがわかる。ただし公道上では、音やレスポンス、みなぎるパワー感など、心を震わせるという性能のほうが強く印象に残った。
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絶妙なシャシー制御
すっかりエンジンの魅力に心奪われてしまったけれど、興奮が落ち着いて少し冷静にドライブフィールを確認できるようになると、うっとりするほど乗り心地がいいことに気づく。実は、グレカーレのGTもモデナも、乗り心地は良好だった。アルファ・ロメオの「ジュリア」と「ステルヴィオ」のために開発した「ジョルジオプラットフォーム」をグレカーレも採用しているけれど、こいつの完成度がものすごく高いのだ。
加えて、グレカーレ トロフェオはエアサスを標準装備することで、鬼に金棒となっている。パワートレインのドライブモードと同様、足まわりのセッティングもステアリングホイールのスポークに備わるモードセレクターで選ぶことができる。ここでCOMFORTモードを選ぶと、ゆったりとサスペンションが伸び縮みして、路面からのショックを上手に吸収してくれる。乗り心地がいい、というよりも、乗り心地が優雅だという印象だ。
ただし、ワインディングロードに入ると、路面の凸凹を乗り越えた後、ふわんふわんという上下動が残るようになる。悪い意味での余韻だ。
そこで再びモードセレクターを回して、今度はSPORTモードを選ぶ。すると足まわりはビシッと引き締まる。ほほぉと感心したのは、SPORTモードでも路面からのショックが極端に強くなるという印象は受けなかったことだ。路面からの突き上げは上手になだめつつ、上下動とロールを抑えているあたりがうまい。
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これがイタリアの最新ラグジュアリー
エアサスに関してもう少し付け加えると、快適なプレミアムSUVからスポーティーSUVまで、1台で幅広く楽しめるところが魅力だと思った。一粒で二度おいしいクルマになる、というか。
エアサスはグレカーレのGTとモデナでもオプション装着することが可能で、マセラティの資料を見ると、リミテッドスリップデフとエアサスペンション、そしてスポーツペダルがセットになった「コンフォートハンドリングパッケージ」の価格が35万円也とある。
決して安いとは言えないけれど、GTかモデナを選ぶのであればエアサスはできれば付けたいアイテムだ。35万円ということは365日で割ると1日あたり958円……、と、通販番組のような計算をしてしまった。
ほかに、トロフェオと直4モデルの違いとして、フロントが6ピストン、リアが4ピストンのブレーキキャリパーを採用している点があげられる。直4モデルはフロントが4ピストン、リアがシングルピストンとなる。
このブレーキ、制動力もさることながら、ブレーキペダルのタッチが素晴らしかった。ブレーキペダルの踏み加減に応じて、繊細に制動力を立ち上げてくれるレスポンスの良さが魅力だ。このあたりもシャシーのセッティングと同様に巧みで、クルマづくりの手だれが開発していることがよくわかる。
実は、グレカーレ トロフェオに乗るまでは、直4のGTやモデナで十分ではないかと思っていた。でもトロフェオでV6ツインターボの華やかさとエアサスのエレガントな身のこなしにふれると、これがイタリアのモダンなラグジュアリーなのかと、頭がぽーっとなった。降参です。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
マセラティ・グレカーレ トロフェオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4860×1980×1660mm
ホイールベース:2900mm
車重:2030kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530PS(390kW)/6500rpm
最大トルク:620N・m(63.2kgf・m)/3000-5500rpm
タイヤ:(前)255/40R21 102Y/(後)295/35R21 107Y(ブリヂストン・ポテンザスポーツ)
燃費:11.2リッター/100km(約8.9km/リッター、WLTCモード)
価格:1520万円/テスト車=1601万円
オプション装備:メタリックペイント<ビアンコアストロ>(15万円)/フロントシートベンチレーション(12万円)/リアシートヒーター(7万円)/ヘッドレストトライデントステッチ(6万円)/ヒーテッドレザーステアリングホイール(4万円)/INOXスポーツペダル(4万円)/Sonus Faberハイプレミアムサウンドシステム<21スピーカー>(33万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:1408km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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