フォルクスワーゲン・ゴルフR 20 Years(4WD/7AT)
いつもより多めに回っております 2023.07.19 試乗記 「フォルクスワーゲン・ゴルフR32」が日本導入20周年を迎えた。その血筋は現代の「ゴルフR」につながっているが、コンパクトなボディーに高出力エンジンと4WDシステムを積むというやり方は当時も今も変わらない。20周年を祝う特別仕様車「20 Years(トゥエンティーイヤーズ)」に試乗した。900台がアッという間に完売
R32は「スカイラインGT-R」だけぢゃない。
フォルクスワーゲン・ゴルフにもあったんです。4代目ゴルフに3.2リッターの狭角V6を搭載し、ハルデックスのオンデマンド4WDシステムを組み合わせた超高性能モデルである。日本でも限定発売され、計900台がアッという間に完売になったことを、台数はともかくとして、ご記憶の方もいらっしゃるだろう。
R32は5代目ゴルフでもつくられ、その後のダウンサイジングの流れもあって、6代目で2リッター直4ターボにエンジンを載せ替え、名称もシンプルにゴルフRとし、こんにちに至っている。つまり、初代R32こそ、Rシリーズの元祖なのだ。フォルクスワーゲンがそう位置づけた、ともいえるわけですけれど。
ということで、ヨーロッパでは昨2022年、Rシリーズ誕生20年を記念して、現行ゴルフRをベースとするスペシャルなモデルが発売された。その名もゴルフR 20 Years。その記念モデルがニッポンにやってきた! ヤァ! ヤァ! ヤァ! 初代R32の国内導入はヨーロッパより1年遅れだったから、まったくもって正しいタイミングで。
このスペシャルのどこがスペシャルか。まずはエンジンが強化されている。2リッター直4ターボは最高出力が320PS/5350-6500rpmから333PS/5600-6500rpmへと、13PSアップ。420N・mの最大トルクはそのままに、発生回転域が2100-5350rpmから2100-5500rpmに広がっている。これにより、0-100km/hは4.6秒と0.1秒速く、リミッターが作動する最高速は250km/hから270km/hに引き上げられている。
2つの特別なドライブモード
さらにフツーのゴルフRではオプションの「DCC(アダプティブシャシーコントロール)」を標準装備とし、しかもその標準装備のDCCにはスペシャルなモードが用意されている。「ドリフト」と、「スペシャル」こと「ニュルブルクリンク」である。前輪駆動を基本とする4WDのゴルフでドリフトができる!? 兄弟モデルの「アウディRS 3」にも同様の仕掛けがあるから、驚くにはあたらない。これぞ20年のテクノロジーの進化である。としても、やっぱり驚く。
もっとも、筆者はどちらのモードのスイッチも押さなかった。車両の説明書にこう書いてあったからだ。
ドリフトは「車両のオーバーステア特性を可能にするため、高トルクを後輪に配分します。(中略)通行が閉鎖された道路のみを対象としているため、適切な運転スキルがある場合にのみ使用する必要があります。→その際には、国別の法律や規定を必ず確認してください」
くわばらくわばら。ではないか。
「警告:車両のオーバーステアにより、事故、重症、死につながる恐れがあります」
なまんだぶなまんだぶ。触らぬ神にたたりなし。
ニュルブルクリンクのコース図をアイコンとするスペシャルは、「スペシャルを選択すると車両システムはニュルブルクリンクのノルトシュライフェのコース特性に合わせて調整されます」とだけ書いてある。ニュルは走らないので、関係ない……と思っちゃったのである。
フツーに乗れることに意義がある
ではあるけれど、13PS強化されたパワーと、より広範なトルク特性、ニュルブルクリンクで開発されたDSGと足まわりの電子制御プログラムを装備したゴルフR 20 Yearsは、世界ツーリングカーカップに「ゴルフGTI TCR」で参戦していたフォルクスワーゲンのワークスドライバーにして、ゴルフRの開発ドライバーでもあるベンジャミン・ロイヒターの手により、実際にニュルの北コースで先代ゴルフRのラップタイムより4秒速い7分41秒31を記録。この20年間で最速のゴルフRを名乗る栄誉を得ている。
さてでは、この史上最速のゴルフRがどんなに最速・最強・最凶だったかというと、じつは筆者が肝心かなめの現行ゴルフRに乗っていないという事情もあるのですけれど、結論を申し上げると、最速のゴルフRなのに、フツーに乗れる。まさに実用高性能車の鑑(かがみ)。ポルシェをカモれることはこれまでのゴルフRと同様で、スーパーへの日常の買い物もフツーのゴルフと同様にこなせるスーパーゴルフ。その意味では、「ゴルフGTI」の延長にあるゴルフRの、そのまたちょっと先にあるスーパーゴルフRなのだ。
なんせタイヤが235/35R19という超偏平である。乗り心地がスポーティーにファームで、荒れた路面だと少々揺れる。だけど、よく整備された都内の道路だったら、「コンフォート」だと物足りないくらい、「スポーツ」や「レース」だって、ガチガチに硬いわけではないから、快適に思える。
あくまで安全のため
エンジンは6500rpm近くまでスイートに回り、専用装備のアクラポヴィッチのチタンエキゾーストシステムが快音を奏でる。上まで回し切ってシフトアップするときの快感、ブレーキを踏んで自動的にブリッピングを入れつつシフトダウンするときの法悦は、スーパーカーにも匹敵する。繰り返しになるけれど、それでいてゴルフの実用性を備えているから、スーパーカーほど意識する必要がない。そこがスーパーゴルフの美点だ。
なお、説明書にはちゃんと、ドリフトはトラクションコントロールがオフになるものの、スタビリティーコントロールは介入がやや遅くなるだけでカットされるわけではない、と明記してある。使用者に警告しているのは、ひとえに安全性に配慮してのことなのだ。
この取材のあと、たまさか再び同じゴルフR 20 Yearsに乗る機会があった。そこで、ここに至ってスペシャルモードを試してみた。すると、レースモードよりも右足の動きに敏感にDSGがブリッピングを入れてダウンシフトし、より豪快に爆裂音をとどろかせるではないか。臆すことなく、ニッポンのニュル、ターンパイクで試せばよかった……。後悔先に立たず。ことわざばかりつぶやいているのは、筆者がオジイだからである。
なにはともあれ、RシリーズのRはRacingのR。20周年、おめでとうございます。20 Yearsはいつもより多めにエンジンが回っております。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフR 20 Years
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1460mm
ホイールベース:2620mm
車重:1540kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:333PS(245kW)/5600-6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-5500rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y/(後)235/35R19 91Y(グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ)
燃費:--km/リッター
価格:792万8000円/テスト車:800万8300円
オプション装備:有償ボディーカラー<ラピスブルーメタリック>(4万4000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万6300円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1037km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:575.6km
使用燃料:53.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.7km/リッター(満タン法)/10.6km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
MINIジョンクーパーワークスE(FWD)【試乗記】 2025.11.7 現行MINIの電気自動車モデルのなかでも、最強の動力性能を誇る「MINIジョンクーパーワークス(JCW)E」に試乗。ジャジャ馬なパワートレインとガッチガチの乗り味を併せ持つ電動のJCWは、往年のクラシックMiniを思い起こさせる一台となっていた。
-
プジョー2008 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2025.11.5 「プジョー2008」にマイルドハイブリッドの「GTハイブリッド」が登場。グループ内で広く使われる最新の電動パワートレインが搭載されているのだが、「う~む」と首をかしげざるを得ない部分も少々……。360km余りをドライブした印象をお届けする。
-
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(後編:無限/TRD編)【試乗記】 2025.11.4 メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! 彼らの持ち込んだマシンのなかから、無限の手が加わった「ホンダ・プレリュード」と「シビック タイプR」、TRDの手になる「トヨタ86」「ハイラックス」等の走りをリポートする。
-
スズキ・アルト ラパン ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.3 スズキの「アルト ラパン」がマイナーチェンジ。新しいフロントマスクでかわいらしさに磨きがかかっただけでなく、なんとパワーユニットも刷新しているというから見逃せない。上位グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】 2025.11.1 メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。
-
NEW
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(後編)
2025.11.9ミスター・スバル 辰己英治の目利きあの辰己英治氏が、“FF世界最速”の称号を持つ「ホンダ・シビック タイプR」に試乗。ライバルとしのぎを削り、トップに輝くためのクルマづくりで重要なこととは? ハイパフォーマンスカーの開発やモータースポーツに携わってきたミスター・スバルが語る。 -
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.8試乗記新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。 -
MINIジョンクーパーワークスE(FWD)【試乗記】
2025.11.7試乗記現行MINIの電気自動車モデルのなかでも、最強の動力性能を誇る「MINIジョンクーパーワークス(JCW)E」に試乗。ジャジャ馬なパワートレインとガッチガチの乗り味を併せ持つ電動のJCWは、往年のクラシックMiniを思い起こさせる一台となっていた。 -
新型「日産エルグランド」はこうして生まれた! 開発のキーマンがその背景を語る
2025.11.7デイリーコラム日産が「ジャパンモビリティショー2025」に新型「エルグランド」を出展! およそ16年ぶりにフルモデルチェンジする大型ミニバンは、どのようなクルマに仕上がっており、またそこにはどんな狙いや思いが込められているのか? 商品企画の担当者に聞いた。 -
ジャパンモビリティショー2025(ホンダ)
2025.11.6画像・写真「ジャパンモビリティショー2025」に、電気自動車のプロトタイプモデル「Honda 0 α(ホンダ0アルファ)」や「Super-ONE Prototype(スーパーONE プロトタイプ)」など、多くのモデルを出展したホンダ。ブースの様子を写真で詳しく紹介する。 -
ジャパンモビリティショー2025(マツダ・ビジョンXコンパクト)
2025.11.6画像・写真マツダが「ジャパンモビリティショー2025」で世界初披露したコンセプトモデル「MAZDA VISION X-COMPACT(ビジョン クロスコンパクト)」。次期「マツダ2」のプレビューともうわさされる注目の車両を、写真で詳しく紹介する。























































