マセラティ・グレカーレ モデナ(4WD/8AT)
ジョルジョの本領 2023.07.24 試乗記 マセラティの伝統的手法にデジタルが融合したインテリアと、最高出力330PSの48Vマイルドハイブリッドパワートレインが関心を集める「グレカーレ モデナ」。走りの魅力や仮想敵とされる「ポルシェ・マカン」との違いを確かめるべく、ロングドライブに連れ出した。新世代マセラティの顔つき
グレカーレはマセラティのエントリーSUVである。で、旧フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)=現ステランティス傘下の高級スポーツカーブランドであるマセラティの最大の仮想敵は、ご想像のとおりポルシェ。「レヴァンテ」が「カイエン」との競合を期すれば、グレカーレはマカンの対抗馬だ。
上級のレヴァンテに「ギブリ」「クアトロポルテ」が自社設計プラットフォームを使ってきたのに対して、グレカーレの基本骨格はアルファ・ロメオ(以下、アルファ)やジープと共用の「ジョルジョ」となる。ジョルジョは当初、故セルジオ・マルキオンネCEO(当時)直轄プロジェクトとして、北米市場復活を期したアルファ専用として開発された。しかし、その開発費は想像以上にふくらみ、結局は、ジョルジョをFCA内で広く活用するようにマルキオンネCEOみずから方針転換したとかしないとか……という経緯をもつ。
それはともかく、グレカーレに「MC20」、そして近日上陸予定の新型「グラントゥーリズモ/グランカブリオ」と、ここ2~3年で新世代デザインをまとったマセラティが順次デビューしている。その新世代マセラティを象徴するのがフェイスデザインだ。グレカーレを含む3台の最新マセラティはどれも、伝統のフロントグリルを低い位置に配して、ヘッドランプはグリルから独立した高い位置に置く。そして、そのヘッドランプが三角形に後方まで伸びるのが、新世代マセラティの顔ということらしい。
ちなみに、グレカーレの車体はスチールモノコックを基本とするが、フロントフードや4枚のドア、リアゲートなどの外板が高価なアルミとされているのは、高級スポーツブランドならではの軽量化や前後重量配分への配慮だろう。しかし、通常はアルミ化されがちなフロントサイドフェンダーだけがスチールなのは、ヘッドランプに連なる“深絞り”の形状がアルミでは表現できなかったからかも……。
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しっかり考えられた実用性
今回試乗したのは現在3種類あるグレードのうち、真ん中のモデナだ。同グレードはパワーユニットが末っ子の「GT」と共通の2リッター直4直噴ターボ(ただし、最高出力のみ30PS上乗せ)なのに対して、先進運転支援システムが標準化されるほか、ホイールサイズが大きめの20インチとなって、可変ダンパーやリアLSDが標準装備となる。
まあ、マセラティのような高級車の場合、大半の装備はどのグレードでもオプション装備できるのがお約束としても、エンジン以上にシャシー周辺のグレードアップが目立つのがモデナの特徴といえる。いわば“アシのいいやつ”的なグレードというわけだ。
グレカーレのインテリアは、デジタルと伝統芸が同居する。ダッシュボードでは通常ウッドもしくカーボンパネルになりそうな部分にまで、ていねいに縫製されたレザークッションがあしらわれる。そのいっぽうで、メーターや上下に分かれたセンターディスプレイ、さらには、あの丸型時計もカラー液晶化されている。センターディスプレイは上下いずれもタッチ式となる。
中央下段のタッチパネルはエアコンその他の操作に使われる。この種のタッチパネルはこれまで、個人的に使いやすいと思ったことはほぼない。しかし、グレカーレのそれはパネルの位置や角度、あるいは並べられるスイッチ(?)の大きさや配列がよく考えられている。筆者の経験では、これまでで使い心地がもっともよかった。
いかにもクーペルックなので後席空間に期待は薄かったが、サイドウィンドウが小さいので閉所感はあっても、着座姿勢がとても健康的なのには感心した。身長180cm級でもレッグルームに不足はなく、前席下につま先を滑りこませることもできる。これなら、ブランドやスタイル先行で買っても、少なくとも実用性での後悔はあまりなさそうだ。
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速さは十分なのに刺激が足りない?
今回のグレカーレ モデナ(GTもだが)に搭載される2リッターターボエンジンには、マセラティ得意の「eBooster」も備わる。eBoosterとは電子制御される電動コンプレッサーで、そこで発生させた圧縮空気がターボチャージャーのコンプレッサー部に合流する仕組みになっている。アクセルを踏み込んだ際にeBoosterが素早く反応して、初期の過給をアシストしながらターボチャージャーの作動も促す。これによって、高性能ターボエンジンにありがちな過給ラグをサポートして、アクセルレスポンスを向上させるという理屈である。
マセラティではそこに48Vのベルト駆動式スターター兼発電機(いわゆるマイルドハイブリッド)も備わるが、この機構で発電した電力はほぼeBoosterに回されるのだそうだ。
そういうこともあって、実際に走らせると、とにかく全域でトルキーだ。2リッターで330PS、450N・mというピーク性能はもはやチューンドエンジンの領域だが、eBoosterの効能書きどおり、アクセルレスポンスにラグめいたものがまるでない。また、グレカーレが日本車でいうと「レクサスRX」にほど近い立派なサイズであることを考えると、2リッターや4気筒といった言葉から直感するレベルより、実際のほうが明らかにパワフルで速い。
……と動力性能は十二分なのだが、同時にパワートレインの味わいはどこまでも事務的だ。マセラティと聞くと、あの高らかに歌うV8を条件反射的に思い浮かべてしまう中高年クルマオタクとしては、なんとも食い足りない気持ちになるのは否めない。
もっとも、そういう向きには3リッターV6ツインターボを積む「トロフェオ」をどうぞ……ということなのだろう。それにしても、このグレカーレ モデナに刺激不足を感じてしまうのは、“アシのいいやつ”すぎるからでもある。
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とてもよくできた高級SUV
グレカーレ モデナには標準の可変ダンパーのほかにエアスプリングもオプション装着可能だが、今回の取材車はコイルのまま。ただ、トロフェオ同様の21インチホイールが追加されていた。つまり、マニア好みのダイレクトなハンドリング重視の仕立て……といえなくもない内容である。さらに、モデナも含めてグレカーレは全車が4WDとなる。
こうしたこともあって、この2リッターのグレカーレは明らかにシャシー優勢の感があり、走行プログラムを柔らかい「COMFORT」モードにしておけば、きれいな路面では滑るかのような乗り心地を披露する。ときに低偏平タイヤ特有のコツコツが感じ取れるが、それでも最小限だ。
さらにノーマルモードにあたる「GT」ではロールが明らかに減少して、快適性と操縦性がいかにもマセラティらしく調和する。そして、その上の「SPORT」にすると、まるでコンパクトFRスポーツカーを思わせる鋭いハンドリングを味わわせてくれる。
ジョルジョは冒頭のようにコスト度外視の過剰品質(?)が特徴だったので、アルファはもちろんマセラティでも不足なしというか、いよいよ本領発揮……と思えるほどだ。とくに剛性感と前後重量バランスは印象的である。
SPORTモードのまま大きなうねりを突破しても、進路の乱れや低級の突き上げ感はほぼ皆無。さらに今回のモデナだと車検証による重量の前後バランスはドンピシャの52:48。ワインディングロードでムチを入れるほど、クルマは軽く小さく感じられるようになる。アクセルを踏むと後ろから絶妙に蹴ってくれる積極的な操縦性にはリアLSDの効果もあろう。
というわけで、グレカーレ モデナはとてもよくできた高級SUVである。唯一の不安点は、マセラティというイタリア全開のブランドなのに、ハードウエアがあまりに冷静で優秀なデキで、愛嬌(あいきょう)がなさすぎる(?)ことかもしれない。まあ、ステランティスという巨大グループでポルシェに挑む役割を課せられるマセラティとしては、もはや愛嬌なんていっている場合ではないのだろうけれど。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
マセラティ・グレカーレ モデナ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4845×1980×1670mm
ホイールベース:2900mm
車重:1920kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ+eBooster
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:330PS(243kW)/5750rpm
エンジン最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/2250rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)/3000rpm
モーター最大トルク:54N・m(5.5kgf・m)
タイヤ:(前)255/40R21 102W/(後)295/35R21 107W(ピレリPゼロ)
燃費:8.7-9.2リッター/100km(約10.8-11.4km/リッター、WLTPモード)
価格:1114万円/テスト車=1348万円
オプション装備:メタリックペイント<ブルーインテンソ>(15万円)/ラミネートガラス(14万円)/21インチペガソスタッガードホイール<グロッシーブラック>(41万円)/イエローキャリパー(4万円)/パノラマサンルーフ(23万円)/テックアシスタントパッケージ<ヘッドアップディスプレイ、IRカットフロントガラス、ワイヤレスフォンチャージャー>(22万円)/フロントシートベンチレーション(12万円)/リアシートヒーター(7万円)/トラベルパッケージ<アルミニウムトランクシル、トランクカーゴレール>(7万円)/ヘッドレストトライデントステッチ(6万円)/ヒーテッドレザーステアリングホイール(4万円)/3Dカーボンファイバーインテリアトリム(46万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:1737km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:431.5km
使用燃料:50.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/7.8km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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