価格は400万円台前半から!? 新型車「トヨタ・ランドクルーザー“250”」の存在は、王者300系「ランドクルーザー」にどう影響する?
2023.08.10 デイリーコラムタフなキャラで個性を主張
2023年8月2日に、「トヨタ・ランドクルーザー“250”」が初公開された。従来型の「ランドクルーザープラド」(以下、プラド)、つまり150系を廃止して、2024年前半に投入される。従ってユーザー側から見れば、250系はプラドの後継車種だが、開発者は「クルマづくりを刷新して原点回帰した」と述べている。
プラドと250系でクルマづくりを大きく変えた証しとして、ボディーサイズの変化がある。250系の全長は、プラドに比べると100mm伸びて4925mmに達した。全幅も95mm広がって1980mmになり、ホイールベース(前輪軸と後輪軸の間隔)は60mm拡大されて2850mmとなっている。この数値は、ホイールベースを含めて、最上級の「ランドクルーザー」(300系)とほぼ等しい。以前のプラドは、ランドクルーザーよりもボディーがコンパクトだったが、250系になって従来の大小関係・上下の関係は薄れた。横並びに近づいたのだ。
エンジンは異なり、ランドクルーザー300系は、3.5リッターV型6気筒のガソリンツインターボと3.3リッターV型6気筒クリーンディーゼルツインターボを搭載する。一方、250系の日本仕様は、以前のプラドと同じ2.7リッター直列4気筒ガソリンと2.8リッター直列4気筒クリーンディーゼルターボだ。この点でも250系はプラドの後継と受け取られるが、ボディーと車両の性格は前述のとおり300系に近づいた。
250系のクルマづくりを見ると、300系と同様、悪路向けSUVの性格を強めている。従来のプラドも後輪駆動をベースにした副変速機を備えた悪路向けのSUVだったが、乗用車感覚も漂わせた。そこを250系では、ランドクルーザーらしい悪路向けの性格を際立たせている。
この背景には昨今のSUVの多様化もある。「トヨタRAV4」は、前輪駆動ベースのプラットフォームを使ったシティー派SUVだが、基本部分を共通化した「ハリアー」が用意される事情もあり、悪路向けSUVに近い性格を与えられている。
さらに今後は「クラウン」シリーズにおいて、既存の「クラウン クロスオーバー」に加えてSUVの「クラウン スポーツ」や「クラウン エステート」も投入される。
前輪駆動ベースのプラットフォームを使ったSUVが、コンパクトサイズを含めて膨大に増えており、ランドクルーザーシリーズはオフロード指向のクルマであるという本質をあらためて見直すことになった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
400万~500万円台の250系に買い得感
その結果、250系はランクルシリーズの中心的な存在になる。V型6気筒を搭載する300系は、250系の上級車種に位置づけられる。その一方で、1984年に発売された70系も存続させる。ランドクルーザーは立ち往生すると生還できない過酷な環境下でも使われ、「(そうした環境に対応できる)クルマづくりを一切変えないでほしい」というニーズも存在するからだ。モデルチェンジによってオンロードでの走行性能や快適性が大幅に向上しても、悪路走破力がわずかでも悪化すれば、生還できない危険性が高まってしまう。
過酷な使われ方をする地域には、トヨタの整備網が乏しく、自分たちで点検や修理を行うユーザーも多い。その場合、クルマづくりが刷新されると、新しい知識や技術を身につけて部品のストックも入れ替えねばならない。こういった面倒やその心配を考えると、70系をそのままつくり続けてほしいと考えるユーザーがいるのも納得できる。70系はまさにランドクルーザーならではのニーズに支えられている。
そしてプラドが250系に進化すると、前述のとおり300系に性格が近づくために競争関係が生じる。販売店では「250系の受注はまだ開始されておらず、人気の動向も不明」とのことだが、300系を希望するユーザーが250系に流れることは十分に想定される。
特に250系の外観は野性的で、グレードによっては丸型ヘッドランプも装着されてユーザーの幅を広げている。価格も250系は割安だ。プラドに比べると、プラットフォームの刷新、ボディーの拡大、安全装備の充実などによって値上げされるが、2.7リッターガソリンエンジン車であれば、最も安価なグレードが420万円前後、売れ筋が470万円前後といった設定だ。上位モデルの300系は価格が一番安いガソリンツインターボ「GX」でも510万円だから、250系は求めやすい。
250系のクリーンディーゼルターボの価格は、ガソリンに比べて約60万円高く、安価なグレードが480万円で売れ筋は530万円前後だ。300系のクリーンディーゼルツインターボは760万~800万円だから、こちらも価格が大幅に下がることになる。
従来のプラドと300系の間柄では、ボディーサイズの違いがヒエラルキーにも影響を与えていたから、価格差があって当然と受け取られた。そこが新型では並列に近づいたから、250系と300系で前述の価格差があると、前者が買い得と受け取られる。250系の登場により、300系の売れ行きが下がることは間違いない。おかげで納期の遅延も多少は緩和され、購入しやすくはなるだろう。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
-
米国に130億ドルの巨額投資! 苦境に立つステランティスはこれで再起するのか? 2025.10.31 ジープやクライスラーなどのブランドを擁するステランティスが、米国に130億ドルの投資をすると発表。彼らはなぜ、世界有数の巨大市場でこれほどのテコ入れを迫られることになったのか? 北米市場の現状から、巨大自動車グループの再起の可能性を探る。
-
なぜ“原付チャリ”の排気量リミットは50ccから125ccになったのか? 2025.10.30 “原チャリ”として知られてきた小排気量バイクの区分けが、2025年11月生産の車両から変わる。なぜ制度は変わったのか? 新基準がわれわれユーザーにもたらすメリットは? ホンダの新型バイク発売を機に考える。
-
クロスドメイン統合制御で車両挙動が激変 Astemoの最新技術を実車で試す 2025.10.29 日本の3大サプライヤーのひとつであるAstemoの最先端技術を体験。駆動から制動、操舵までを一手に引き受けるAstemoの強みは、これらをソフトウエアで統合制御できることだ。実車に装着してテストコースを走った印象をお届けする。
-
デビューから12年でさらなる改良モデルが登場! 3代目「レクサスIS」の“熟れ具合”を検証する 2025.10.27 国産スポーツセダンでは異例の“12年モノ”となる「レクサスIS」。長寿の秘密はどこにある? 素性の良さなのか、メーカー都合なのか、それとも世界的な潮流なのか。その商品力と将来性について識者が論じる。
-
自動車大国のドイツがNO! ゆらぐEUのエンジン車規制とBEV普及の行方 2025.10.24 「2035年にエンジン車の新車販売を実質的に禁止する」というEUに、ドイツが明確に反旗を翻した。欧州随一の自動車大国が「エンジン車禁止の撤廃に向けてあらゆる手段をとる」と表明した格好だが、BEVの普及にはどんな影響があるのか?
-
NEW
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
NEW
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。 -
NEW
これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。 -
NEW
これがおすすめ! マツダのカーボンネガティブ施策:「走る歓び」はエンジンのよろこび【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!華々しく開幕したジャパンモビリティショー2025の会場で、モータージャーナリストの今尾直樹が注目したのはマツダブース。個性あふれる2台のコンセプトカーとともに公開されたカーボンネガティブの技術に未来を感じたという。 -
NEW
これがおすすめ! ダイハツK-OPEN:FRであることは重要だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でモータージャーナリストの鈴木ケンイチが注目したのはダイハツの「K-OPEN(コペン)」。米もクルマの値段も上がる令和の日本において、軽自動車のスポーツカーは、きっと今まで以上に注目されるはずだ。 -
NEW
これがおすすめ! トヨタ・ランドクルーザー“FJ”:タフでかわいい街のアイドル【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025の展示車は、コンセプトカーと市販モデルに大別される。後者、実際に買えるクルマのなかでも、特に多くの注目を集めていたのは、つい最近発表された「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だった!








































