スバル・レヴォーグ レイバック 開発者インタビュー
じつは手が込んでいます 2023.09.16 試乗記 スバル商品企画本部
プロジェクト ジェネラルマネージャー
小林正明(こばやし まさあき)さん
スバル
第一技術本部 内装設計部
主事
横山啓一郎(よこやま けいいちろう)さん
スバル
技術本部 ボディ設計部
担当
松本幸裕(まつもと ゆきひろ)さん
タフで頼れるスバルが発表した、“都会派クロスオーバー”の「レヴォーグ レイバック」。この異色のニューモデルは、どのような経緯で誕生したのか? スバルらしいこだわりは健在か? 開発責任者の小林正明さんをはじめ、3人のエンジニアに話を聞いた。
後から決まったクロスオーバーの設定
新しいレヴォーグ レイバック(以下、レイバック)の追加で、盤石のクロスオーバー&SUVのラインナップを完成させたスバル。と同時に、高度な悪路走破性がスバル製SUVの本来の売りなのに、レイバックはあえて、ドロが似合わない「都市型SUV」をうたう。
そんなレイバックを含む新しいレヴォーグシリーズのプロジェクト ジェネラルマネージャー=開発責任者をつとめた小林正明さんをはじめ、車体設計を担当した松本幸裕さん、内装設計を担当した横山啓一郎さんに、レイバック開発の裏話をうかがった。
――レイバックは現行「レヴォーグ」が出てから3年……つまり4年目での追加です。当初から考えられていた企画ではないのですか?
小林さん(以下、小林):本当のことをいうと、レイバックは現行レヴォーグの発売後に企画された商品となります。
10年ほど前から世界的にSUVの比率がどんどん高まってきて、今は国内市場でも7割近くまで膨らんでいます。その背景には、都会的なイメージでSUVに乗られるお客さまが増えていることもあるのですが、スバルはそこにチャレンジできていないのでは……という思いがありました。
ただ、「アウトバック」や「フォレスター」はアウトドアのイメージがしっかり定着していますので、そうではないレヴォーグでなにかできないか……というのがスタートでした。
――とはいえ、レイバックの最低地上高は200mm。都市型SUVにしては高いですね。
小林:スバルとしてゆずれない走破性もあります。縁石などの段差を考えても、「どこでも安心して走れる最低ラインが200mm」というのがスバルの考え方です。
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リフトアップした車体に上質さをプラス
小林:ただ、車高だけ上げて終わりではつまらないので、レイバックではそこに「上質さ」を加えるのも明確に意図しました。
――たしかに、上質さ……といいますか、快適性も都市型SUVでは重要な要素ですね。
小林:静粛性や乗り心地といった部分でも上質さを感じていただけると思うのですが、フロントのデザインやスバル初となる内装のアッシュカラー、そして新しいharman/kardonのオーディオも、上質さを意識して採用したものです。
――フロントグリルのメッキ装飾がレヴォーグより面積を増しているのも、上質の表現ですか?
小林:レヴォーグの車高を上げるだけだと、デザイン的なバランスがよくなかったんですね。SUVらしいカタマリ感やボリューム感を出すにはどうしたらいいかを考えた結果のひとつが、このグリルデザインです。
――上質な走りには、レヴォーグではレイバック専用となるファルケンブランドの18インチタイヤも効いているとうかがいました。
小林:じつは、あれは「クロストレック」と同じタイヤなんです。もともとはクロストレックのときにスバル専用として開発していただきましたが、非常に静粛性が高く、横Gに対してもきっちり踏ん張ってくれるいいタイヤに仕上がっていたんです。
社内的にもすごくいいタイヤが仕上がったと話題だったので、レイバックでも試してみたのが最初のキッカケでした。
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変わっていないようでじつは変わっている
――車体構造はレヴォーグと同じですよね。
松本さん(以下、松本):もちろん大きくは変わっていませんが、じつはまったく同じでもありません。
サスペンションのジオメトリーで車高を上げるだけだと、大径化したタイヤをストロークさせるためのクリアランスがとれません。そこで、レイバックではベースのレヴォーグと比較して、パワーユニットに対して車体をさらに10~20mmほど上げています。逆に車体側から見ると、パワーユニットが相対的に下がっているともいえます。このやり方はスバルの伝統で、今の「インプレッサ」とクロストレックでも同様です。
レヴォーグと比較すると、車体の下にパワーユニットが少しハミ出るカタチになりますので、それを保護するためにフロントのラジエーター付近のフレームを少しだけ下げています。万が一、下回りが縁石かなにかに当たってしまうときにも、最初に当てるのはパワーユニットなどのメカニズムではなく、強固な車体であるべき……というのがスバル伝統の設計思想でもあります。レヴォーグの車体を設計した時点では車高を上げることは想定していなかったので、レイバックでは変更が必要になりました。
ただ走行性能については、レヴォーグはもともと車体剛性は高いですし、レイバックでは車体への入力は逆に優しくなっていますので、特別な強化は必要ありませんでした。
――レイバックはベースのレヴォーグが完成してからの開発ということで、特有の苦労があったと思うのですが……。
松本:セダンの「WRX S4」は全幅もちがうのでグラッディングも大胆にできたのですが、レヴォーグがベースなので制約があったことは事実です。ただ、今回は都市型SUVということで、もともとゴツゴツしないようにスッキリ見せたいという思いはありました。
――たしかにSUVとしては控えめのエクステリアですが、意外なところが新設計だったりするのもスバルらしいですよね。
横山さん(以下、横山):今回のレイバックでは、「やりすぎない」ということをデザインの当初の段階から強く意識しました。ただ、じつはドアミラーもレイバック専用で変えています。レイバックならではのデザインとのバランスもその理由のひとつですが、車高が高くなっていますので、視認性をよくするために鏡面の幅も拡大しています。
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目指せ販売倍増!
――シートもレイバック専用とか?
横山:シートは座面のクッションパッドがレイバック専用になっています。これはレヴォーグならではのホールド性や長距離での疲れにくさを継承しつつ、乗降性を確保するためです。
車高を上げたことで、レヴォーグのシートのままだと、乗り降りの際に(座面左右の出っ張りが)体に当たりやすくなってしまいました。レヴォーグではサイドの“土手”に変形しにくいワイヤフレームを内蔵してサポート性を確保しているのですが、レイバックの車高で検証してみると、乗降時にそこに太ももやお尻が当たって「硬くて痛い」という声が出ました。そこでレイバックでは、土手を低くして、さらに柔軟性のあるインサートワイヤを張りめぐらせることで、乗降性とサポート性をバランスさせています。
社内的にも「そこまでやるのか」という議論はありましたが、上質さに加えて「リラックス」「コンフォート」も掲げたレイバックの開発コンセプトを考えると、最終的に、そこは妥協すべきでないと判断しました。
――それほど凝った内容のレイバックですが、今のところは1グレードのみの展開です。レヴォーグシリーズのなかでも、レイバックはどのくらいの販売比率を見込んでいますか?
小林:具体的な比率というより、レイバックはレヴォーグとは完全に異なるキャラクターとしてつくりましたので、最終的にはレヴォーグと同じくらい多くのお客さまに乗っていただきたいと思っています。とはいっても、レイバックの影響でレヴォーグの台数が減るのは本意ではありません。すでにほかの快適な都市型SUVに乗っている、あるいはこれから乗ろうとしているお客さまへのチャレンジですので、販売台数としてはレイバックのぶんだけ純粋に増えるのが理想です。
――つまりは、レヴォーグ全体で今の2倍売れることが目標ということですね?
小林:(笑)。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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