第826回:“ギブミー・チョコレート”の時代再び? イタリアで「充電するEV」を定点観測
2023.09.22 マッキナ あらモーダ!「中国製EV」制裁の難しさ
2023年9月5日から10日にわたって独ミュンヘンで開催された「IAAモビリティー」では、BYD、リープモーターといった中国の電気自動車(EV)ブランドが出展。ヨーロッパ市場への積極的展開を宣言した。
閉幕直後の9月14日、EU(欧州連合)のフォンデアライエン委員長は中国製EVに関し、「国からの補助金で価格を低減し、公正な市場競争を歪(ゆが)ませている」として調査を実施する考えを明らかにした。欧州の自動車業界団体が発表した「中国製EVが急速に市場に進出している」という声明を受けてのものだった。
いっぽう、欧州域における2023年7月のEVおよびプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数は以下のとおりである。
1位:テスラ・モデルY(1万1748台)
2位:フォルクスワーゲンID.4(8681台)
3位:シュコダ・エンヤック(7228台)
4位:MG4(6433台)
5位:ダチア・スプリング(5986台)
6位:テスラ・モデル3(5773台)
7位:ボルボXC40(5362台、EVとPHEVの合計)
8位:フィアット500e(5124台)
(出典:Clean Technica)
以下20位まで発表されているが、ネイティブ中国系ブランドの姿はそこでも見られない。
今回のEUの声明は、生産地を基準とするものか、本社所在地を基準とするものかは明らかにされていない。そもそも筆者が考えるに、“中国製”の線引きはかなり難しくなっている。MGは上海汽車系のブランドで中国製だが、本社所在地は英国である。ポールスターも吉利グループで中国製であるが、本社はスウェーデンのイェーテボリだ。本社所在地は一定の税収を、それに付随する研究開発拠点は雇用を創出する。したがって、中国製をひとくくりに制裁することは、回りまわって(MG本社がある英国はEUではないものの)欧州のデメリットとなる。中国製モデルもある米国企業という、微妙な立場のテスラの扱いも問題となろう。したがって、中国製EVへの制裁は、決して簡単な作業ではないと筆者は想像する。
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プレミアムEVはアルプスの向こうから
ところで、こうしたデータとは別に、2023年にイタリアでどのようなEVやPHEVを見かけたのか? というのが今回のお話である。
筆者が住むシエナ市は人口5万3000人である。そこに充電ステーションが、公共のもの、自動車販売店のもの、その他民間のもの含め28カ所ある。そのうち筆者が定点観測地点に定めたのは、駅前ショッピングセンターの地下駐車場だ。そこにはアジップブランドをもつエネルギー企業、エニが運営する充電ネットワーク「プレニテュード」の機器が設置されている。ACの22kW型が2基・4台分である。なぜそこを選んだのかといえば、隣接する大学の図書館にたびたび赴く機会があったためだ。
他の充電ステーション数カ所も含めた結果は、写真のとおりである。加えて、観察して気がついた3点を記したい。なお筆者は、本稿を通じてEVの是非を問う意図はない。純粋に事象としてお読みいただければ幸いである。
第1はクルマと国の関連だ。プレミアム系モデルで最も頻繁に見かけたのは、「テスラ・モデル3」と同「モデルY」で、8月に入ってからは、それまでイタリアでは目撃したことがなかった「ポールスター2」もたびたび見られるようになった。そうしたクルマは、ナンバープレートからしてアルプスの北側からやってきた車両が目立った。具体的には、オランダ、デンマーク、ドイツといった、いわゆるEV普及国からだ。東欧からやってくるクルマのなかにも、そうしたプレミアム系EVを時折見かけた。本連載第820回に記したとおり、彼らの所有する自動車が高級化している流れに沿ったものといえる。
いっぽう、イタリアのナンバープレートが付いたEVは「ルノーZ.O.E.」、ダチアの「スプリング」といったポピュラーブランドが目立つ。太平洋戦争後の“ギブミー・チョコレート”の時代、日本人が貨物用オート三輪を買えるか買えないかの時に、進駐米軍人は豪華なアメリカ車を乗り回していた。当時の日本人の心境は、これだったのではないかと思ってしまった。
第2は、日本ブランドのEVが充電しているのをめったに見なかったことだ。今回紹介の写真群でも唯一登場するのは、イタリアのナンバーを掲げた2代目「日産リーフ」であった。参考までに、冒頭に示したEV/PHEVランキングの20位以内にも、日系ブランドの名前はない。いっぽう、韓国系は「キア・ニーロ」がEVとPHEVの合計4098台で12位、「ヒョンデ・コナEV」が3260台で20位に入っている。
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秋からの変化
そして第3は、EV/PHEVユーザーの傾向である。充電中に彼らと立ち話をすると、全員ではないが、彼らにはある種共通した傾向があることが分かってきた。例えば以下のようなものだ。
- 家にも充電器を設置した(たとえ公共充電器がなくても1日くらい困らない)
- 他に内燃機関車を所有している(EVでは不便な旅程の場合、補完できる)
- EV/PHEVは初めてではない(EVの特性、デメリットを知ったうえで使いこなしている)
さらに、
- 電気関係の仕事に従事している → 電気には“親しみ”がある
彼らの多くは、筆者が「EVどうですか?」と質問すると、熱く語ってくれるのも共通していた。思い出すのは、かつてアップル社のコンピューターが普及していなかった時代だ。「マッキントッシュ、どうですか?」と聞くと、ユーザーの大半が熱心に語ってくれた。製品がコモディティー化する前に見られる現象である。
そうこうしているうちに、2023年9月も中旬に入った。気がつけば、EV専用駐車場の満車率が明らかに低下している。背景には、観光地シエナでの外国人客によるクルマの減少があるのは明らかだ。2022年の新車販売台数において、EV/PHEVが占める割合もそれを暗示している。ドイツの31.4%に対して、イタリアは8.6%にすぎないのである(出典:International Trade Administration)。
ふと頭に浮かんだのは、トワ・エ・モワが歌った1970年の名フォークソングの歌詞「今はもう秋 誰もいない海」だった。季節が変わって、誰もいないEV駐車場、である。2024年夏はどの国からやってきた、どのブランドの電動車がそのスペースを埋めるのだろうか。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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