第767回:オールシーズンタイヤとはどこが違う? スタッドレスタイヤ「ヨコハマ・アイスガード7」の実力をチェック
2023.10.04 エディターから一言![]() |
「歴代最高の氷上性能」をうたうヨコハマのフラッグシップスタッドレスタイヤ「アイスガード7」。その実力を、北海道・旭川の開発施設「TTCH」に新設された日本最大級の屋内氷盤旋回試験場と、大雪山につながるリアルな雪道で確かめた。
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スタッドレスタイヤのトップランナー
北海道ですら“猛暑日”を記録する異例の暑さに見舞われた2023年の夏も終盤戦を過ぎ、ようやく秋を感じる時期になった。それでもまだまだ日中はエアコンからは逃れられないという地域が少なくないであろう一方で、地域によっては冬の気配が駆け足でやってきそうなのが日本列島の常でもある。
そんなこんなで、「まだまだ冬の準備のハナシなんて全然現実味がないんだよ」と感じる人も少なくないであろうことは承知のうえで、降雪地帯での代表的な冬の装備であるスタッドレスタイヤの話題をお届けする。取り上げるのは「よりちゃんと曲がる、よりちゃんと止まる」とその特徴をずばり銘打った、横浜ゴムのアイスガード7である。
同社最新の乗用車向けモデルであるこのアイテムも、そのローンチが行われたのは2021年の9月。それゆえ、積雪や凍結路面はもとより乾燥した舗装路面上での走りも、その実力のほどはすでに複数回にわたってチェック済みである。
そうした経験を踏まえたこのタイヤの印象はというと、先代モデルである「アイスガード6」の走りを思い起こすまでもなく、前出のうたい文句である「よりちゃんと曲がる、よりちゃんと止まる」というフレーズを「掛け値ナシ!」と紹介したくなる。大半の人がまずはスタッドレスタイヤに求めるであろう冬道における性能は、同類他社のタイヤを含めたなかでも“トップランナー”に位置する実力であることは間違いない。
端的に言えば、自身でスタッドレスタイヤを購入しようとなった場合には、このアイスガード7は迷いなくショッピングリストの筆頭に挙がるであろう一品。これが、現在の自分なりの結論となっている。
冬用タイヤは総合バランスで選ぶ
そうはいっても、昨今ではたとえスタッドレスタイヤであっても乾燥路上での安定感や、氷上性能を狙って接地面積を拡大する傾向にある。これにより溝の面積が減って排水性能が低下し、スタッドレスタイヤが苦手とされがちだったシャーベット状路面での耐ハイドロプレーニング性や、わだち路面を乗り越えるときの進路の乱れを気にするドライバーも少なくないはず。
ということで、これまでそのあたりにも留意したテストドライブも行ってきたものの、それらいずれの項目でも「特に気になるポイントは感じられない」と評価できるのがこのタイヤであった。
加えれば、雪上でのグリップ力確保の目的から通常のサマータイヤに比べると大小さまざまな溝を備えることで、パターンノイズの発生ではどうしても不利になりがちなのがスタッドレスタイヤの常ではあるものの、氷上や雪上の性能、そして販売面でライバルとされるスタッドレスタイヤと比較しても、明確に静粛性にたけていると感じられた。
すなわち、このあたりの総合的なバランスも自身でスタッドレスタイヤを選ぼうとなった場合の重要なチェックポイントとなったのは事実。つまり自身のショッピングリストに載せる気になれたというのは、単に氷上・雪上性能のみに目を向けた結果ではないということである。
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オールシーズンタイヤに対する優位性は?
こうして、スタッドレスタイヤ本来の“主戦場”とはいえない場面での性能もそつなくこなしてくれるのがアイスガード7のセリングポイントだ。もっとも、耐摩耗性能や経年変化に関しては“未知数”というしかないのは事実だが、それも摩耗が進むにつれてサイプが太さを増す「クワトロピラミッド グロウンサイプ」や劣化抑制効果を高める添加剤としてアイスガードシリーズに採用実績のある「オレンジオイルS」などの最新テクノロジーを投入することによって、「従来品であるアイスガード6と同等の性能を確保している」というのが開発陣のコメントだ。
最近はいわゆる“オールシーズン”をうたうカテゴリーのタイヤにも選択肢が増えてきて、年に数回の積雪に見舞われる程度の地域に暮らすドライバーのなかにはそれに目を向ける人も少なくないと思われるが、留意してほしいのは確かにそうしたタイヤは不意の降雪に対しては大いなる武器となってくれる一方で、凍結路面が得意ではないという事実である。
これまで交通量の多い幹線道路の積雪では、多くの車両に踏み固められることでたちまちひどい凹凸のあるアイスバーンが生成されてしまう例を数多く見てきた。こうなると、そんなシーンで唯一頼りになるのはやはりスタッドレスタイヤである。そんなことも覚えておいて損はないはずである。
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国内最大級の屋内氷盤旋回試験場を新設
横浜ゴムのスタッドレスタイヤに関しては、この先もさらなる性能の向上に関して楽しみなニュースがある。
それは2023年1月、同社が北海道・旭川のテストセンター「TTCH(Tire Test Center of Hokkaido)」内に国内最大級となる屋内氷盤旋回試験場を新設したことである。全長と全幅が56mで室内高が12.3mというスケールの中で、旋回半径10mから22mまでのテストを行うことができるという。これによって降雪に左右されることなく、屋内試験場で安定したデータの採取が可能になった。
スタッドレスタイヤに求められる性能においては、氷上での制動性能に次いで高いポイントを示すのが氷上でのコーナリング性能であるという。屋内に完成させた氷盤の旋回試験場は、まさにこの点の性能向上に大きな効果を発揮することが期待できるわけだ。
加速と制動というこれまで重視されてきた縦方向の氷上性能に加えて、氷上でのコーナリングというよりリアルワールドに即した評価をより緻密で定量的に行うことができるようになったことは、開発陣にとっても大きなメリットとなる。
アイスガードの進化には、これからも大いなる期待がもてそうである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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