第42回:コイツをサカナにお酒が飲みたい! 小沢コージがマツダの新型ロータリー「8C」にガチでシビれたワケ
2023.10.06 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズロータリーはご神体です!
なんと11年ぶりに復活したマツダの新作ロータリーエンジン「8C」。その生産現場を見に広島まで行ってきた小沢ですが、つくづくマツダにとってロータリーは特別な存在。リクツを超えてつくりたいし、つくり続けなければいけないもの。本気で社員はそう思ってるんだ……と気づかされたというのがこのマツダ開発者たちとの会話です(or開発者全員の熱すぎる思いです)。
まずは特別仕様車「MX-30ロータリーEVエディションR」担当の松田陽一デザイナーと話したときのこと。
小沢:これ、キーまで普通のMX-30とは違うようで。
松田:そうなんです。表面をロータリーのコピペのカタチでつくってます。
小沢:ってことは、持ってるだけでオーナーはロータリーを感じることができる?
松田:見てください。アペックスの谷がこのミゾで、ローターの丸さがキーの丸さなんです。エディションRを買われた方はキーを持つたびに「コイツがクルマの心臓に入ってるんだな」と思っていただける。
小沢:なんてツウ好みな……ってか、ちょっと頭おかしいんじゃないですか(笑)。
松田:(このアイデアを最初に言ったときは)変態って言われました(笑)。
小沢:分かります。ほとんど宗教ですよ。
松田:ご神体に近いですよね(笑)。
小型軽量の利点で生き残る
確かにマツダにとってロータリーは特別な存在ではあります。そもそも1950年代、極東の小メーカーだったマツダが政府の思惑もあって経営統合の危機にあったとき、起死回生の手段としてドイツのヴァンケル&NSUですらあきらめたロータリーエンジンの実用化を画策。パテントを高額で買い取り、死に物狂いで約6年かけて実用化に成功。そのときにアペックスシールの材料として牛骨まで試したのは有名な話です。
スポーツカーの「コスモスポーツ」をはじめ、「ファミリアロータリークーペ」や「ルーチェロータリークーペ」がつくられ、北米で大成功。誇らしいのも分かるのですが、後のオイルショックもあって根本的な燃費の壁にぶち当たりまくり。
その後もスポーツカーの「RX-7」や「RX-8」、1991年の「787B」のルマン優勝などで一定の評価は得ましたが、結局のところ近年の排ガス&燃費規制は乗り越えられず、2012年にRX-8が生産終了。その後はなくなるかもしれないといわれてました。
しかし、今回そんな不利ななかでも小型軽量という利点を生かして奇跡の復活。それも動力源としてのロータリーエンジンではなく、個性派電気自動車「MX-30 EVモデル」の派生バージョンたるプラグインハイブリッド車、MX-30ロータリーEV用の発電専用ユニットして復活したわけです。
ある意味、ケガした大谷翔平選手が本領発揮できずに走塁だけで活躍するようなものですが、その許されたわずかなチャンスを生かすためにマツダ開発陣は再び猛プッシュ。
小型軽量の利点をさらに生かすために従来の2ローターのノウハウを捨て、初の1ローターをイチから新開発。排気量は830ccとデカめで、ロータリーの基本諸元を表す創成半径「R」と偏心量「e」も今までにない比率で、事実ロータリーとしてのディメンションはおなじみ「13B」どころか「10A」以来だともいいます。
ロータリーはフェラーリにとってのF1マシン
それだけに存在が貴重なのは分かるんですけど、とにかく開発陣の思いが熱い熱い!
今回最初に話したパワートレイン開発本部の新井栄治さんと日高弘順さんは、RX-8の生産が終了、リーマンショックもあってRE開発グループが解散した後は、地下に潜ってロータリーの研究を続けたとか。うーむ、貴殿はほとんど隠れキリシタンですか!? という。
実際、今回出た特別仕様のエディションRは、当初はつくる予定がなく、社内的に「せっかくのロータリー復活なのでなにかやりたい」という機運から決まったとか。単なる画期的な新技術という以上に、ロータリーに懸けた人間たちの情熱的な振る舞いに感激。つくづくマツダは面白いメーカーだなと思った次第です。
例えばあのイタリアのフェラーリにしても単なるスーパーカーメーカーという以上に、F1コンストラクターのスクーデリア・フェラーリをサポートする集団としての側面があります。そもそも創始者エンツォ・フェラーリは「F1をするためにロードカーをつくり始めた」といわれており、市販フェラーリを買う人は速くてカッコいいクルマを手に入れる以上に、スクーデリア・フェラーリの猛烈サポーターとしての側面もあるわけです。
マツダにとってのロータリーエンジンは、ある意味フェラーリにとってのF1マシンみたいな存在でもあり、ロータリーという世界でマツダしか量産化に成功していない奇跡のメカニズムを継続させたいがために会社が存在している感じすら微妙にあると。
ま、それはちと言い過ぎですが、とにかくロータリーに対するマツダの開発陣&社員の思いは知れば知るほどハンパない。そこにオザワはシビれた次第です。
事実、MX-30ロータリーEV主査の上藤和佳子さんいわく、「今もマツダの新入社員の約8%がロータリーをやりたくて入ってくる」そうで、いまだF1チームに憧れてホンダに入る人がいるように、マツダにとってのある種のご神体的な存在がロータリーエンジン。
一緒に楽しく酒が飲めればいい
また8C誕生の背景には別の理由もあるようで、ある中堅マツダ社員いわく「2012年にロータリーの生産をやめてからもう10年以上。するとある種のノウハウが失われてしまうのです。生産工場のラインはもちろん、特に販売店のサービス部門もロータリーの扱い方を忘れてしまう。そのためにも8Cはつくられなければなかった」と。
別の役員はこうも言いました。小沢が今回のロータリーはいわゆる経済効率みたいな部分も配慮したうえでの新規開発なんですよね? と聞いたときのこと。
「そんなことあるわけないじゃないですか!」と一蹴。ぶっちゃけあまりもうからなくてもロータリーEVはつくるということです。
繰り返すと松田陽一デザイナーは最後にこうも言いました。
松田:やはりこのクルマは、最初にロータリーのファンの方に届けたいんです。ビジネス的に広がるということ以上に「ロータリー待ってたよ」って人に届けたいんで。そして一緒に語り合いたいなと。一緒に楽しく酒が飲めるじゃないですか。
小沢:つまり酒のつまみとしてのロータリーであり、このエディションRのキーだと。そんなこと言っていんですか?
松田:大丈夫です(笑)。
マニアックだけどつくりたいからつくる。しかも一部の猛烈なファンがそれを確実に応援している。久々にものすごい関係性のクルマを見たような気がしました。マツダMX-30ロータリーEV。つくづく現代の奇跡とでもいうべきクルマなのかもしれません。
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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