「カングー ジャンボリー2023」に「ルノー・グラン カングー」がサプライズで登場! 日本導入の確度を考察する
2023.10.26 デイリーコラム3列シート7人乗りの「グラン カングー」
日本で行われる「ルノー・カングー」のファンミーティング「ルノー カングー ジャンボリー」は、フランスのルノー本社がわざわざ「世界でもっとも多くのカングーを集める」とプレスリリースを出すくらい、世界でもまれなイベントである。同イベントはルノーの日本法人でもあるルノー・ジャポンが開催するだけに、カングーがらみの限定車や新型車がサプライズ発表されるのが恒例でもある。ちなみに、3年ぶりのリアル開催となった2022年には、3代目となる新型カングーの日本仕様が公開されている。
で、さる10月15日に開かれた今年のジャンボリーでは、2台のカングーがお披露目された。1台は3代目初の限定車「ヴァリエテ」(参照)だったが、もう1台はさらなるサプライズだった。それは9月中旬にドイツはミュンヘンで開催された「IAAモビリティー2023」からそのまま持ち込まれたという新型「グラン カングー」だ。
グラン カングーとはご覧のとおり、サードシートを追加して7人乗りとしたミニバン仕様のカングーである。グラン カングーは先代にも用意されていたが、日本にはついぞ正式輸入されることがなかったのはご承知のとおり。しかし、今回わざわざ公開されたということは、新型でついに日本導入が実現することを意味する。
新型グラン カングーも、基本的な成り立ちは先代と同様だ。商用バンに用意されるロング版(先代では「マキシ」というペットネームが与えられていたが、新型ではあえてマキシとは名乗っていない)をベースに、独立2脚式のサードシートを追加している。先代は途中から追加開発されたモデルで、本国でも標準モデルから約5年遅れの発売だった。それに対して、新型は3代目カングー全体のプログラムに最初から組み込まれて開発された。
よって、ルノー・ジャポンでも早い段階から導入の検討はしていたというが、最終的な決断には「シトロエン・ベルランゴ/プジョー・リフター/フィアット・ドブロ」という“ステランティス軍団”の動向が影響を与えたのは想像にかたくない。2代目では市場を完全に独占していたカングーも、現在はステランティス軍団に包囲されており、今回の7人乗りロング版も、結果的には先を越されたカタチになっている。いずれにしても、ステランティス軍団のおかげで市場は活性化しているわけで、やはり競争はあったほうがいい。
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スライドドアはワイドになった専用品
現在のステランティス軍団は先代カングーを見ながら開発された。新型カングーはそのステランティス軍団をすみずみまで研究して開発されているわけで、その成果は今回の新型グラン カングーにも如実に見て取れる。
基本となる車体はその好例だ。ステランティス軍団のロング版はスライドドアまで標準モデルと共通で、それより後方部分だけでホイールベースを延長している。これは先代カングーのロング版であるマキシと同様の手法で、そのちょっと違和感のある独特のプロポーションが逆に愛嬌(あいきょう)にもなっている。
対して、新型グラン カングーはスライドドア自体も開口幅を180mmも拡大した専用品で、全体がバランスよくロング化されているのが特徴だ。それもあって、標準モデルからのホイールベースの延長幅もステランティス軍団の190mmよりはるかに大きい。新型グラン カングーの細かい数値は未公表だが、車体を共有する商用バン仕様のロングで見ると、標準カングーに対してホイールベースは385mmも延長されている。なのに、見た目はとても端正だ。
というわけで、標準モデルではステランティス軍団のほうが70mm長かったホイールベースも、グラン カングーではステランティス軍団のロング版より125mmも長い3100mmに達している。同じく4910mmという全長も、たとえば「ベルランゴ ロング」より140mmも長い。標準モデルではステランティス軍団よりコンパクト=短いことが、良くも悪くもカングーの売りだったが、グラン カングーではそれがまったく逆転しているわけだ。
実際の室内空間も、そのディメンションの恩恵が大きい。本国資料には「164mmというサードシートのレッグルームはクラスベスト」とうたわれており、フル乗車で500リッターという荷室容量もステランティス軍団(209リッター)の2倍強。また、スライドドア開口幅も拡大されているので、セカンド/サードシートへのアクセス性も確実に上回る。
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必要とあらばダブルバックドアも
独立2脚式のサードシート構造は、ステランティス軍団のそれとほぼ同等といっていい。それぞれにスライド、タンブルアップ、脱着ができるのも両者で変わりない。
いっぽうで、セカンドシートは好対照だ。ステランティス軍団が標準モデルと同様の3分割の折り畳み可倒式なのに対して、グラン カングーではサード同様の3座独立式となり、それぞれでスライド、タンブルアップ、脱着ができる。ある意味ではステランティス軍団より機能は多いが、標準モデルのようにフラットに折り畳むことはできない。この点が、スライドはできないがフラットに折り畳めるステランティス軍団と好みが分かれそうだ。
世界初公開された姿そのままに日本にやってきた今回の新型グラン カングーは当然ながら欧州仕様で、バックドアも一般的なハッチゲート式だった。ルノー・ジャポン関係者によると、このバックドアが、グラン カングー最大の懸案らしい。
というのも、日本のカングーのお約束である観音開き=ダブルバックドアは、今や欧州での販売もごくわずかで、特殊な存在になりつつあるからだ。実際、新型カングーのダブルバックドアは欧州では商用バン仕様の、しかもオプションあつかい。日本仕様は本国の生産システム上、商用バンをベースに豪華オプションをテンコ盛りしたような建てつけになっている。
たとえば、標準カングーの「インテンス」は日欧の両方で用意されるグレードだが、よく見るとフロントグリルやインパネ加飾、ホイールなどは日本と欧州でちがっている。その理由もダブルバックドアの日本仕様が、厳密には商用バンをベースにしているからだ。さらに新しいカングーのロング版では、現時点でダブルバックドアそのものが用意されていないんだとか……。
ただ、今回のカングー ジャンボリーのために来日した本国ルノーのLCV(ライトコマーシャルビークル)部門を率いるハインツ・ユルゲン・レーヴ上級副社長は「日本の皆さんにこれだけ人気なのだから、必要とあらばダブルバックドアもやります」と語った。関係者によると、グラン カングーのダブルバックドアを実現するなら、通常のライン生産では終わらない“特装車”的なあつかいになる可能性もあるという。カングーを全数生産するモブージュ工場は特装車も得意とするが、実際にそうなると、価格や生産台数のハードルは高くなるかもしれない。このあたり、ルノー・ジャポンの交渉力に期待したいところだ。
(文=佐野弘宗/写真=ルノー/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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