ポルシェ911カレラT(RR/7MT)
ダンケシェーン! 2023.10.30 試乗記 現行の992型「ポルシェ911」にも「カレラT」が登場。高性能化よりもドライビングプレジャーを追求したというコンセプトの新グレードだ。まあ911の走りが退屈だった試しはないが、その楽しさのレベルをワインディングロードで鋭意調査した。「カレラGTS」との関係
ポルシェ911カレラTとは、「911カレラ」の後席と遮音材を取っ払って、車高を10mm低め、7段のマニュアルギアボックスを標準装備とした、911カレラのスポーティーバージョンである。
簡単に申し上げると、これは2021年に発売された「911カレラGTS」と同様の手法を、「911カレラS」ではなくてカレラに用いたもので、つまりカレラをベースとするカレラGTSがカレラTなのだ。かえって分かりにくいかもしれんけど。
ただし、911カレラGTSは、カレラSの3リッター水平対向6気筒ツインターボを30PS強力な最高出力480PSにチューンして搭載している。それでいて価格は2059万円と、カレラSと108万円しか違わない。911のマニュアル希望者にとっては奇跡のようなお買い得モデルが911カレラGTSなのだ。
対して911カレラTはエンジンには手つかずで、911カレラと同じ385PSをそのまま使っている。それでいてカレラ比137万円プラスというのはむしろ割高かもしれない。
おまけに、カレラGTSは480PS、カレラTは385PSである。その差は95PSもある。カレラTは1757万円で、カレラGTSとの価格差は302万円。302万円はもちろん大金ですけれど、仮にいま、使えるお金が2000万円あったとして、あなたならどっちを選ぶ? あるいは筆者なら(仮にあったとして)……。当然、カレラGTSか? う~む。悩ましい。
スチールのパレットに乗っているようだ
というのも、世のなかには、馬力は小さいほうがよりアクセルを全開にしやすい。という楽しみもあるからだ。とりわけ、私みたいなヘナチョコの心情的スポーツドライビング好き、ロマン派にはそっちのほうがありがたい。ホントのところを申し上げると、空冷時代のサイズで、250PS程度の911をつくってもらえると、よりうれしい。のですけれど、それは単に筆者の夢想にすぎず、それよりもここは大変革期といわれる最中にあって、ポルシェが911の標準モデルであるカレラにマニュアルを設定してくださった、そのことに感謝と敬意を表すべきで、こう申し上げたい。ダンケシェーン。
朝5時。鮮やかなグリーンのポルシェ911カレラTを前日止めた駐車場の周りはひっそりしている。住民のみなさんはまだ眠っている。たぶん。起こしてはいけない。カレラTのドアを静かに開けて乗り込み、右手でステアリングポストの右にあるスターターのスイッチをひねる。ヴオンッ! と爆裂音を発して、リアにオーバーハングする水冷フラット6が目を覚ます。クリッとひねる。ポルシェはいまも、エンジン点火の儀式を守り続けている。
ご近所を起こしてはいけないので、すぐに出発する。走りだして印象的なのは、剛性感の高さだ。ボディーというよりフロアの剛性感のものすごさ。まるで鉄だ。ま、鉄ですけど。ともかくアルミ缶みたいにヘニャヘニャではない。ぶ厚いスチールのパレットに乗っているみたいに頑丈な感じ。低速で、凸凹路面を通過すると、乗り心地はかなり硬い、と感じる。なのに乗員にはさほど上下動を意識させない。前が245/35ZR20、後ろが305/30ZR21の前後異径、異サイズの超極太偏平の「ピレリPゼロ」が、路面の凸凹をぐわしゃん、ぐわしゃん、とつぶして走っている、ような気がする。恐るべしピレリPゼロ。ゴムなのにアスファルトより硬いのだ。
んなわけないやろ。いくらなんでも、アスファルトより硬いなんて。というツッコミが脳内の相方から入る。その相方は自分で試してこういう。あ、ホンマや。あくまで感覚の話です。
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「↑」には従うべし
印象的なのは、911のベーシックなモデルに久々に復活した7段マニュアルトランスミッションの、扱いやすさである。3リッターのフラット6ツインターボはベーシックなモデルといっても最高出力385PS、最大トルクは450N・mもあるのだ。これだけトルクとパワーがあるとクラッチが重くなるものなのに、デュアルディスククラッチとデュアルマスフライホイールのおかげでしょうか、若干の足応えはあるものの、左足にかかるバネ感が心地よい程度になっている。
おまけに筆者の記憶だと、991型911の7段マニュアルは1-2速、3-4速、5-6速の3列の間が狭くて、シフト操作が難しかった。ところが、新しい911カレラTのシフトはショートストローク化されていて、スパスパと気持ちよく入っちゃう。例えば5速から4速にダウンすると、自動的にレバーが真ん中(ニュートラルの位置)に戻る。その際のシフトフィールもバネ感があって気持ちイイ。
3リッターのフラット6はターボ感がまるでなく、全域これトルクの塊で、エンストの心配はまったくご無用である。スペック表によれば、最大トルクの450N・mは1950-5000rpmの広範囲で発生する。筆者的にはせっかくのマニュアルなので、ガンガン引っ張りたい。引っ張りたいけれど、ローで2000rpmを超えると、メーター内のインジケーターがシフトアップの「↑」を出す。これに気づくと、試しに従いたくなるのもまた人情というものである。3速だと2000rpmの手前で、4速では1500rpmで「↑」のサインが出る。指示どおりアップすると、こんなに低回転でもスーッと走る。ターボエンジンなのにフレキシブルで、しかも2000rpm以下で走っているから存外、静かでもある。信号ではアイドリングストップでエンジンが休止する。古池や、かわず飛び込む水の音が聞こえてきそうな静寂が訪れる。クラッチを踏み込むと、たちまちグオンッとフラット6がよみがえる。
997型くらいのタイト感
エンジン音は2000rpmから徐々に高まる。アクセルを深々と踏み込むと、後ろからの蹴り出し感がある。高速巡航に入ると、乗り心地は目覚ましく快適になる。リアに重量物をオーバーハングしているため、乗り心地に若干ピッチングが残る気もしたけれど、慣れてしまうと気のせいだった、という心持ちになる。どっちやねん。と脳内の相方が突っ込む。う~。気のせい、気のせいでした。
ダンパーの切り替えスイッチを押すと、ダンパーが引き締まるというよりは、動きが素早くなる。という印象を受ける。ゆっくり出していたジャブが、ピッピッピッと、速くなる。乗り心地は硬さのなかにしっとり感としなやかさがあり、マニュアルで自分が操っている感があるためか、997型911ぐらいのタイト感がある、といってもよいのではあるまいか。そのタイト感にはリアアクスルステアリングも陰ながら貢献していると思われる。
高速スタビリティーもコーナリング能力も、筆者の力量では限界に至ることあたわず、安定感と安心感に包まれたまま、伊豆の山中を駆けぬける。
ドライビングはスポーツである。ハラハラドキドキがあって、カタルシスもある。防音材を省略したことで聞こえてくる独特のサウンドも気分を高ぶらせる。ポルシェ911のスポーツカー回帰を表明した快作。それが911カレラTだ。ダンケシェーン。
(文=今尾直樹/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ポルシェ911カレラT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4530×1852×1293mm
ホイールベース:2450mm
車重:1460kg
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段MT
最高出力:385PS(283kW)/6500rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/1950-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR21 100Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1757万円/テスト車=2164万8000円
オプション装備:ボディーカラー<パイソングリーン>(40万7000円)/カレラTインテリアパッケージ(89万円)/リアアクスルステアリング(33万7000円)/スポーツデザインパッケージ(60万5000円)/パワーステアリングプラス(4万円)/フロントアクスルリフトシステム(36万2000円)/イオナイザー(4万3000円)/フューエルフィラーキャップ<アルミルック>(2万円)/Race-Texのベルトアウトレットトリム(5万8000円)/20&21インチRSスパイダーデザインホイール<ハイグロスチタニウムグレー>(35万円)/Race-Texのルーフライニング(17万4000円)/レーンチェンジアシスト(12万3000円)/LEDヘッドライト<PDLSプラスを含む>(14万8000円)/フロアマット<レザーエッジ付き>(7万9000円)/エクステンデッドレザーインテリアパッケージ(18万6000円)/シートベルト<コントラストカラー>(0円)/ストレージパッケージ(0円)/ライトデザインパッケージ(7万5000円)/「PORSCHE」ロゴのLEDドアカーテシーライト(2万2000円)/スポーツデザインサイドスカート(15万9000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2462km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:381.4km
使用燃料:50.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/8.0km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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