第270回:敵を知り己を知れば百戦危うからず
2023.10.30 カーマニア人間国宝への道交通ルールのテストに2回落ちる
カーマニアには敵が多い。少し前までわれわれの最大の敵は、道交法を守らない自転車だった。そして現在は、電動キックボードが最も警戒されている(ような気がする)。
報道によれば、電動キックボードはとても危険な乗り物であるという。パリなど、すでにシェアリングを禁止した都市もある。ところが日本は逆で、2023年7月に道交法が改正され、16歳以上であれば免許なしで乗れるようになった。ヘルメットの着用は努力義務だが、かぶっている人はごく一部にとどまる。
それでも、どれくらい危険な存在かは、自ら体験してみないとわからない。敵を知り己を知れば百戦危うからず。
折しも、自宅のすぐ前に電動キックボードを扱うシェアリングサービス「LUUP」のポートができた。なにしろ目の前だ。カーマニアとして最大の敵を知っておくいい機会だと思っていたら、担当サクライ君が「LUUP(の電動キックボード)に乗ってみませんか?」と誘ってくれた。
「乗る乗る~!」
夜は怖いので、今回は昼間の試乗である。
この日に備えて、LUUPへの登録は済ませておいた。初回に限り、30分の無料体験クーポンが利用できる。感心したのは、電動キックボードに関する交通ルールのテストに合格しないと、登録できないことだ。10問全問正解しないと落第。借りることができない。
私は2回も落第した。どっちも「電動キックボードは一方通行を逆走できるか」という問題に引っかかった。「これは“できない”だよな」と思ったら、できるんだって! ほぼ自転車扱いってことなのか。知らなかった。時速6km以下でなら歩道も走れることは報道で知っていたけれど、一方通行逆走可は知りませんでした。それにしてもなんで同じ問題に2回引っかかったのか。これが老化というやつか。
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スマホの操作で走行可能に
「電車で清水さんのご自宅に向かいます」
サクライ君からのメールに、「ウチは駅から遠いから、駅周辺でLUUPを借りて来たら?」と返した。LUUPとは本来こういう時のための乗り物だろう。本当は歩いたほうが健康にいいんだけど。
さて、俺も借りなければ……と思ったら、自宅前のポートは空っぽ。50m先のポートにも電動アシスト自転車しか残っていない。やっぱり自転車よりキックボードが人気のようである。
アプリによれば、徒歩約7分のコンビニに、キックボードが3台残っている。私はそこまで歩いてサクライ君を待つことにした。
数分後、サクライ君がLUUPの電動キックボードで颯爽(さっそう)とやってきた。
オレ:どう?
サクライ:面白いけど、ちょっと怖いです。
だろうなぁ。何事も最初はちょっと怖いものだ。クルマだって最初はちょっと、いやものすごく怖かった。免許を取った当日の夜、首都高に走りに行って死ぬかと思った。乗り物はすべて慣れが必要である。
スマホを操作してLUUPで電動キックボードを借りる。その操作からして初体験だ。
やってみると、アプリが非常によくできていて、とてもわかりやすかった。それにしても、スマホの操作で本体のロックが外れ、走行可能になるんだからスゴイ。中高年には驚愕(きょうがく)の世界だ。
まずは始業点検よろしく、LUUPの電動キックボードをチェックする。アクセルは右手の親指でレバーを操作する。ブレーキは自転車と同じ。左側のハンドルにはバイクと同じタイプのウインカースイッチが付いている。全体としては原チャリに近い。
走りだそうと思ってアクセルレバーを押し込むが、まったく加速しない。足で蹴って最低限の速度を出さないと、モーターが回らないようになっているようだ。考えてみりゃ、そうしないとキックボードだけで走ってっちゃう可能性がある。ちゃんと考えられているなぁ。中高年はすべてに感心である。
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電動キックボードを見たら譲るのが吉
自転車に近い要領で走りだし、方南通り(近所の幹線道路)に乗り出した。あっという間に最高速(時速20km)に到達。風が気持ちイイ! カイテキそのもの! スキーみたい! 自転車に準ずる乗り物として車道の左側を走れば、危険も感じない。
でも、これで路側帯のない環七とか環八みたいな幹線道路を走るのはゴメンだ。たまに見かけるけど、いつ殺されてもおかしくないように感じる。中高年はちょっとしたことですぐ再起不能になる。君子危うきに近寄らず。
われわれは住宅街の一方通行を逆走して公園方面に向かった。膝を軽く曲げ、路面の凹凸を吸収できる姿勢を維持する。タイヤが小さいので、ちょっとした段差でコケるリスクは感じる。中高年は転んだら再起不能になる。注意が必要だ。
時速6kmモードのボタンを押すと、ハンドル先端のグリーンランプが点滅し、本当に時速6kmしか出なくなった。時速6kmってこんなに遅いのか! 立っていられる最低限の速度に近い。確かにこれくらいなら、歩道を走ってもおおむね問題なさそうだ。ルールを厳守すれば、電動キックボードは決して危険な乗り物ではない。
ただ、これが社会に有益な乗り物かどうかは疑問だ。電動キックボードに乗っているのは、ほぼすべて若年層。若い者はこんなラクチンな乗り物に乗るより歩いたほうがいい。徒歩が一番エコなんだし。距離を歩くのが困難な高齢者は、電動キックボードなんてまず乗らない。
ドライバーの立場からすると、電動キックボードを見たら、自転車と同じ無法の弱者だと思うことで自衛するしかないと思っている。クルマはひたすら警戒し、譲りまくるのが吉だ。なにしろこっちは走る凶器。軽く触っただけで相手は死んでしまう。
ただ彼らは、高速道路は走れない。高速に乗ればこっちのものだ。それでいいのではないか。いたずらに敵視せず、強者(走る凶器)の余裕を見せたほうが八方丸くおさまる。
約30分間LUUPを堪能し、自宅前のポートに返した。返却時は写真を撮って送信するシステムになっている。お行儀の悪い返し方はできない。うーん、実によく考えられてる! システムは100点満点! ただ、「若い者は歩け!」とは言い続けたい。中高年もなるべく歩きます! 健康のために!
(文=清水草一/写真=webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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