その正体は“高級な「ヤリス クロス」”か!? 「レクサスLBX」が目指した新しい高級車の世界
2023.12.13 デイリーコラムまさに「ヤリス クロス」の高級版
「本物を知る人が素の自分に戻れるクラスレスコンパクトで新しいラグジュアリーの価値を提供」するという、レクサスの新型車「LBX」。その正体は“高級な「ヤリス クロス」”!? と問われなば、答えは「イエス」である。だって、トヨタ自身がそれを認めている。LBXはコンパクトカー向けTNGAプラットフォーム「GA-B」にレクサス専用開発を施して初採用していることを公にしているのだから。グローバルアーキテクチャーBセグメントとは、もちろん「ヤリス」(とヤリス クロス)のプラットフォームを指す。
そもそもレクサスは初代「LS」を別にすると、初代「ES」は高級な「カムリ」、「RX」はほぼ「ハリアー」だった。トヨタ車を洗練し、高級化したクルマがレクサスで、そのような自動車ビジネスはゼネラルモーターズ以来、広く行われている。
問題はどうやって高級化しているのか? というところにある。LBXは少なくともヤリス クロスのバッジエンジニアリングではないことがすぐさま了解できる。見た目が違うのはものすごく大事なことだ。
1クラス上のモーターを搭載
最近のレクサスはベース車のトレッドを広げ、ホイールベースを若干延ばしている。さらに車高を若干低める。トヨタ車とはプロポーションからして、よりワイド&ローにすることで、スタイリッシュになり、運動性能、とりわけ旋回能力と直進安定性が増す。居住空間にはさほどこだわらない。この「勝利の方程式」は、現行のレクサスの「RX」「NX」とトヨタの「ハリアー」「RAV4」、「レクサスUX」と「トヨタ・カローラ クロス」、「レクサスES」と「トヨタ・カムリ」等で用いられている。
LBXも同様だ。数字をご紹介すると、LBXは全長4190×全幅1825×全高1545mm。これはヤリス クロスより5mmだけ長くて60mm幅広く、35mmもしくは45mm低い。2580mmのホイールベースは20mmだけ延長している。プロペラシャフトがないぶん、FR車よりは簡単だろうけれど、コストがゼロというわけではない。たかが20mm、されど20mm。
パワートレインは? というと、ハイブリッドの場合、モーターの出力を上げることで、トヨタとの差別化を図っている。LBXだと、1.5リッター直3の最高出力は91PS、最大トルクは120N・mで、ヤリス クロスと同一だ。いっぽう、フロントモーターは94PSと185N・mを発生。ヤリス クロスより、14PSと44N・m強力になっている。E-Fourのリアモーターは6PSと52N・mで、ヤリス クロス用より0.7PSアップしている。リアのモーターの型式はどちらも1MMだ。ところがフロントは、LBXは1VM、ヤリス クロスは1NMで異なる。LBXは「プリウス」「カローラ」用の格上のモーターを使っている。
運転が楽しいに決まっている
豊富な低速トルクと静粛性が求められる高級車とモーターの相性は絶対的によいはずで、1クラス格上のモーターの採用は、性能アップと同時にヤリス クロスより100kg以上増加した車重に対応するためでもあると考えられる。重量増の主因はおそらく防音/遮音材を増やしたために違いない。
ボディー剛性の向上は高級感の演出に必須だ。レクサスの場合は溶接の打点を増やしたり、振動レベルを低減する接着剤を用いたりしている。「ニンベンのついた『自働化』」という言葉があるほど、トヨタは人の手間を惜しまない。手間とは結局コストにつながるから、コストを惜しんでいる、とはいえないものの、高価な素材や新しい技術を採用するよりもコスト減につながることをトヨタほど知っているメーカーは皆無だろう。
LBXでの注目は、クロスオーバーなのに前席の位置を、数値は不明ながら、若干下げていることだ。ドライバーをクルマの重心に近づけることで、車両との一体感を高めたのだという。何との比較で「下げている」のかというと、当然ヤリス クロスと比べて、であろう。開発の際、ベース車両はないより、あったほうがやりやすいに違いない。LBXがヤリス クロスの高級版であるというのは、むしろ歓迎すべきことなのだ。しかも、ヤリス クロスはトヨタのヨーロッパ戦略車である。そのヤリス クロスからレクサスのヨーロッパ戦略車であるLBXが誕生したのは偶然ではない。筆者は未試乗ながら、LBXは北米をメインとするこれまでのレクサス車以上に「ファン・トゥ・ドライブ」に注力されていると考えられる。運転が楽しくない高級車なんて、ヨーロッパでは認められるはずもない。この点、大いに期待したい。
本物を知る人とは?
もうひとつ、LBXのブレークスルーは、国産車としては例外的に豊富な内外装の組み合わせにある。日本市場でも「ビスポークビルド」というオーダーメイドシステムが用意されている。タバコ色のおしゃれなレザーシートを設定するなど、筆者なんぞも写真で見て、ステキだなぁ、と思う。
価格は460万円から576万円まで。228.4万円から293.6万のヤリス クロスとは、一番安いもの同士を比べたら、230万円もの差がある。LBX1台分でヤリス クロスが2台買えちゃうのだ。レクサスユーザーの自尊心をくすぐることだろう。
高級とはなにか? 古くて新しい命題に、ヨーロッパでは依然、新参者であろうレクサスがハイブリッドで挑む。最大のライバルは結局MINIだろうけれど、MINIとはまた別の層を開拓できるかどうかが成功のカギを握る。ま、当たり前ですけど。
余談ながら、最近筆者が気になっているのは、レクサスが用い始めた「本物を知る人が素の自分に戻れる」というフレーズである。これって豊田章男さんのことでしょう。だけど、本物を知る人が普段は素ではない自分を演じている、と言ってることになりませんか? レクサスユーザーも気苦労が多くてタイヘンですね。
(文=今尾直樹/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
「BYDラッコ」がアジアにはばたく!? ニッポンの軽自動車規格が海外勢に奪われる日NEW 2026.10.30 中国のBYDが、軽BEVの「ラッコ」を日本以外でも販売すると発表! 日本独自のスモールカー規格は、はたして海外でも受け入れられるのか? 本家・日本のメーカーが、海外展開に及び腰だった理由とは? BYDが食指を動かす、軽自動車の秘めた可能性を探る。
-
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー 2026.10.29 メルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。
-
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る 2026.10.28 ポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。
-
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探る 2026.10.26 本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。
-
「マツダRX-7」の復刻部品を生産!? ミクニの挑戦は旧車オーナーの福音となるか? 2026.10.23 ミクニが「マツダRX-7」向け復刻部品の開発検討を開始した。古い自動車部品の供給は、なぜここまで困難を極めるのか? ミクニの挑戦は世のロータリーオーナーにとって福音となるか? 日本の自動車文化に潜む課題と、その解決に挑む企業と人をリポートする。
-
NEW
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー
2026.10.29デイリーコラムメルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。 -
NEW
ボルボEX90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(後編)
2026.10.29あの多田哲哉の自動車放談ボルボの新世代EV「EX90」に、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが試乗。ちょっと気になったところと、クルマとしての魅力を感じたポイントについて熱く語る。 -
写真で解説する「メルセデス・ベンツ・エレクトリックGLC」
2026.10.28画像・写真メルセデス・ベンツの新たなフル電動SUV「エレクトリックGLC」がデビュー。2026年10月28日に国内での注文受け付けがスタートした。一体どんなクルマなのか、その見どころを写真とともに解説する。 -
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28デイリーコラムポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。 -
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
2026.10.28試乗記「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。 -
第134回:アウディデザイン水掛け論 ―これが未来のアウディか? 「ヌヴォラーリ」と他のモデルに見る不整合―
2026.10.28カーデザイン曼荼羅微妙に迷いが見えていたアウディのデザインに、新しい潮流が? これまでとは異なるモチーフが取り入れられた「ヌヴォラーリ」の造形は、次世代のフォーシルバーリングスを指し示すものなのか? カーデザインの識者と、アウディデザインの未来について考えた。









































