レクサスLBX MORIZO RR(4WD/6MT)
もっといいクルマができました 2024.12.30 試乗記 新時代の小さな高級車としてデビューした「レクサスLBX」にハイパフォーマンスモデルの「MORIZO RR」が登場。その心臓部に積まれるのが1.6リッター3気筒ターボと聞けば、ファンならずともどんなクルマか想像がつくはずだ。6段MTモデルの仕上がりをリポートする。マスタードライバーの名をいただくスペシャルマシン
2024年夏に発表されたレクサスLBX MORIZO RRは、トヨタのプレミアムブランド初のコンパクトSUVの高性能バージョンである。ごく簡単に申し上げれば「GRヤリス」と「GRカローラ」のパワートレイン、1.6リッター直列3気筒ターボと電子制御のフルタイム4WDシステム「GR-FOUR」をLBXに移植したベイビーホットハッチだ。MORIZO RR! とあるようにトヨタ&レクサスのマスタードライバー、モリゾウこと豊田章男会長が開発にかかわった。RRは豊田会長がオーナーをつとめるルーキーレーシング(ROOKIE Racing)を表すという。
その試乗車としてwebCG編集部が今回選んだのは、8段ATではなくて6段MT! エラいぞ、webCG。って、もちろん、もっとエラいのはレクサスである。この大転換期にピュア内燃機関のホットなハッチバックを送り出し、6MTも設定しているのだから。めちゃんこエラい!! ヨッ。モリゾウ。ニッポンいち!
そんなわけで、早速試乗してみる。試乗車は「レッドスピネル」という真っ赤なボディーにブラックのルーフというツートンのあでやかないで立ち。内装はごくシンプルにブラックでまとめられている。筆者にとっては山梨県の河口湖近くの撮影現場が初見でありまして、GRヤリスやGRカローラほど戦闘マシンっぽくない、と思った。
とはいえ、LBXのハイブリッド、標準型と比べれば、違いは一目瞭然。冷却性能と空力の向上のため、フロントのグリルが下のほうで横方向にガバチョと広がり、クロスオーバーSUVらしく170mmとられていた最低地上高は20mm、全高は10mm低められ、重心位置の低下を図っている。さらにホイール径は19インチと1インチアップし、全体にクロスオーバーSUV色を引っ込めて、ホットハッチっぽく仕立てている。
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しなやかなのに頑丈なボディー
内装は、男の仕事場みたいな雰囲気になったGRヤリスとは大いに異なり、ごくフツーといってよい。ヒップポイントは標準型比で10mm低く、ブレーキペダルの踏面の角度はペダル操作時の力の入れやすさにこだわっているという。筆者はこの角度うんぬんには気づかなかったけれど、悪い意味ではない。自然に受け入れられたのだから。着座位置はやや高めながら、もともと「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に代表されるFWDハッチバックの神髄は高めの着座位置にあるわけで、歓迎すべきである。
フツー。という印象はクラッチを踏み込んだときに一変する。小型車のわりには足応えがあるからだ。いや、エンジンを始動させたときにオッと思った。ぶるるんっ。と、3気筒ゆえか、それともエンジンマウントが強固なゆえか、その両方か、高性能車らしい振動があったからだ。
6MTはゲートが明確でスコスコ決まる。ストロークは大きめながら、操作しやすい。河口湖周辺の139号線を西湖方面に向かう。この道路、道の駅なるさわの近辺は路面が凸凹になっている。そこをLBX MORIZO RRはサラッと通過する。ギシリもミシリもない。2024年の夏に試乗した「GRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”」ほど硬めではない。あちらが金庫みたいな硬さだとすると、こちらはしなやかさもある鳥かごみたいな硬さ、といえるかもしれない。あくまで筆者個人のイメージながら。ボディーがちょっぴりコンパクトで、3ドアで開口部が小さいGRヤリスと、ちょっとだけ大きくて、5ドアで開口部が大きいLBX、という違いも先入観にある。
ひたむきなまでのボディー補強
ひとことで申し上げると、LBX MORIZO RRは心地よい硬さで、それはタイヤサイズの違いからも読み取ることができる。MORIZO RRは235/45R19、対するGRヤリスは225/40R18と偏平率がより低い。タイヤの銘柄はGRヤリスはサーキット走行を視野に入れた「ミシュラン・パイロットスポーツ4S」を、MORIZO RRは「コンチネンタル・スポーツコンタクト7」を装着している。ウエット性能も重視した公道用の高性能タイヤだ。
19インチの大径ホイール&タイヤでもボディーがガタピシしないのは、MORIZO RR用に開発されたプラットフォームと、ブレース(補強材)やら構造用接着剤やら、469カ所増やした溶接の短ピッチ打点やらで強化したボディーのおかげであろう。微振動が抑えられているのはリアに装着するヤマハの「パフォーマンスダンパー」の効果もあるはずである。
ちょっとしたワインディングロードに入って、1.6リッター直列3気筒ターボの実力を試す。筒内直接とポート燃料噴射の2つを備えるG16E-GTS型ユニットは、ボールベアリングターボで過給して最高出力304PS/6500rpmと最大トルク400N・m/3250-4600rpmを発生する。これらの数値はGRヤリスと同一ながら、LBX MORIZO RRはホイールベースが20mm長くて、トレッドが前は45mm、後ろは20mmそれぞれ広い。19インチということもあり、車重はMTの試乗車で1450kgと、1280kgのGRヤリスより170kg重い。それゆえ、6段MTのギア比はヤリスと同一ながら、加速力を補うべく、1速から4速までフロントデフの減速比を3.941から4.058に低めてある。これはほぼ同じ重量のGRカローラと同じ減速比で、だけどLBX MORIZO RRのほうが1~3速ギアの伸び感がGRカローラよりもよいような気がした。これこそ19インチホイールの恩徳かもしれない。GRカローラは18インチだからだ。算数は苦手なので計算はしてませんけど。
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普段着にも使えるハイパフォーマンスモデル
G16E-GTSは回転を上げるほど滑らかになり、7000rpmまで真空状態になったみたいに、抵抗感なく回り切る。当たり前ながら、4気筒みたいな振動は発しない。4気筒より魅力的、とはいえないかもしれないけれど、ゴオオオオッという豪快で野生的なサウンドを3000rpmから上で叫ぶ。3気筒ゆえの鼻先の軽さもあって、コーナーへの進入をためらわない。川の流れのようにナチュラルに曲がり、ヒール&トーでダウンシフト。あ。ヒール&トーがやりやすいのはブレーキペダルの踏面角にこだわっていたからなのだ!
コーナー脱出時に全開にするとステアリングにFWDっぽい、いわゆるトルクステアがある。LBX MORIZO RRの前後トルク配分はセンターコンソールの「AWDモード」と書かれたスイッチで、50:50に固定することもできる。固定にしてみると、ドライ路面でもリアがより安定する感覚がある。通常は電子制御で最適化するということだけれど、60:40のGRヤリスより明らかにFWDっぽい。
そこで私、レクサスに確認しました。それによると、LBX MORIZO RRの前後トルク配分は発進時がフロント75%、リア25%で、その理由は「発進時は、レクサスが大事にしているすっきりとした操舵フィールを実現させるため」だという。そしてFWD寄りのトルク配分だからこそ、フロントのロワアームに熱硬化樹脂を塗布したという「REDS(Response-Enhancing Damping Structure)」なる世界初のレスポンス向上減衰構造も生きてくるのだろう。
ということで、レクサスLBX MORIZO RRは同族のGRヤリスよりエレガントで、普段着っぽいところが好ましい。あちらがコンペティション向けのハードギアだとすると、こちらはスニーカーっぽくて普段使いもできる。まさにモリゾウさんの狙いどおり。荷室はやや狭いものの、5ドアで、後席にはおとなも乗れる。豊田章男がトヨタの社長に就任してからはや幾とせ。「もっといいクルマをつくろうよ」というスローガンは収穫期を迎えている。
例えば、20年後、30年後を想像してみよう。モリゾウの名前はもっと輝いているのではあるまいか。
(文=今尾直樹/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
レクサスLBX MORIZO RR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4190×1840×1535mm
ホイールベース:2580mm
車重:1450kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:304PS(224kW)/6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3250-4600rpm
タイヤ:(前)235/45ZR19 95Y XL/(後)235/45ZR19 95Y XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト7)
燃費:12.5km/リッター(WLTCモード)
価格:650万円/テスト車=683万3300円
オプション装備:デジタルキー(3万3000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム&アクティブサウンドコントロール(25万7400円)/ドライブレコーダー<前後>(4万2900円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:3314km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:299.5km
使用燃料:35.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.6km/リッター(満タン法)/9.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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