レクサスLBX“リラックス”(4WD/CVT)
挑戦は続けてこそ 2025.03.12 試乗記 「レクサスLBX」で雪道をドライブ。レクサスでは一番小さく、カジュアルな「小さな高級車」を目指したクロスオーバーだが、きちんと4WDモデルが設定されている。銀世界を求めて探索を続けた結果、たどり着いたのは標高2000m近い信州の山奥だった。レクサスだからこそ
よくぞつくったと思う。2023年末に発売された脱ヒエラルキーを掲げるレクサスLBXのことである。大変失礼ながら、あれほどコストコンシャスなトヨタが、いわゆる「小さな高級車」に乗り出すのは意外だった。もちろんこれまでにも「UX」、さらには「CT」というそれらしいモデルは存在したものの、やはり成功したとは言い難く、結局ブランドを支える屋台骨は北米向けのSUVというのが現実だったのだ。レクサスの最大マーケットたる北米にはそもそも向かないコンパクトモデルを、しかも専用部品と構造をぜいたくに投入して開発するなんて、確かにレクサスの変化を実感せざるを得ない。
そもそも小さな高級車というものをカスタマーに納得させるのは難しい。さまざまな自動車メーカーが挑んできたが、成功したプロジェクトはMINIだけ、というのが一般的な理解である(個人的には「ランチア・イプシロン」も入れてほしいが)。小さなクルマは安く、大きなクルマは高いという、古くからの常識を覆すのはとにかく難しいのである。あのメルセデス・ベンツでさえ、「Aクラス/Bクラス」を近い将来に廃止するといわれているぐらいだ。もともと大から小まで隙間なくラインナップを構築して、買い替えの際に上級移行させることで商売を拡大させてきたのはほかならぬトヨタである。「いつかはクラウン」という、一世を風靡(ふうび)したコピーは簡単には抜けないのである。
このサイズで、このパワーで、こんなにするの? という本体価格は486万円だが、今回の試乗車の“リラックス”(AWD)は、それに75万円近いオプション(レクサスチームメイトアドバンストドライブやプレミアムサラウンドサウンドシステム+アクティブノイズコントロールなど)が乗っかって総額では560万円余りとなっている。「ヤリス クロス」と兄弟車といわれるのに値段はほぼ2倍もするじゃないか! という声が聞こえそうだが、だからこそよくぞチャレンジしたと言いたいのである。
ぜいたくなつくり込み
基本プラットフォームは同じとはいえ、ヤリス クロスとは大違いという中身はすでに何度かリポートされているのでここでは詳しく言及しないが、スポット溶接点の増加や構造用接着剤の採用拡大からアルミ鍛造フロントナックルまで、さらにはオルガン式アクセルペダルの採用など(GA-BプラットフォームではLBXのみ)、実に広範囲に手間暇が、つまりコストがかかっている。ボディーの寸法はヤリス クロスとほぼ同じだが、ホイールベースは20mm長く、全幅(1825mm)は60mmも広い。そのぶんをぜいたくに使って肉感的なリアフェンダーの造形に充てている。
FWDとAWDの両方が用意されているが、スタンダードのLBXは事実上モノグレードであり、パワートレインは1.5リッター3気筒エンジン+モーターのハイブリッドのみ。“クール”や“リラックス”などの違いはインテリアトリム素材やカラーによる。試乗車は“リラックス”の「E-Four」、つまりリアアクスルが独立した電動モーターによって駆動されるAWDである。とはいえ、リアモーターの最高出力はたったの6PS、最大トルクは52N・mにすぎない。それゆえリアモーターはほぼ発進時のみサポートするシステムで、ダッシュ中央のディスプレイに表示されるアニメーションを見ても30km/hぐらいまでのようだ。
1.5リッター3気筒の91PSと120N・mのスペックはヤリス クロスなどと同じ、フロントモーター(94PS/185N・m)はトヨタ系モデルよりもやや強力で、システム最高出力は136PSとされている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
くどいようだが効果は限定的
小さいとはいえ、独立したリアモーターの効果は確かに感じられる。除雪された圧雪路面ならば、多少の傾斜があってもグイッと力強くスタートすることができる。ただし、前述のようにパワーは限られるので、雪の山道を走行中はだいたいFWDとなり、上りのコーナーなどでは前輪だけが一生懸命に仕事をする、といった具合で普通のFF車との違いは感じられなかった。
もちろん、発進時やごく低速からの加速という場面でのメリットはあるのだが、このタイプのE-Fourをそのまま一般的な4WDと捉えられてはちょっと心配だ。FWDでも状況判断と走り方次第、と的確に理解している雪国のドライバーなら心配ないが、走り慣れていない人が“ウチのは4WDにスタッドレスだから大丈夫”などと安心するほどではないし、そう過信されることこそ危ない。
くどいようだが、どんな4WDであろうと、結局のところ雪道での走破性は程度問題である。そこそこ積もってしまったら、タイヤでは乗り越えられない。LBXの最低地上高は170mm、ということはくるぶしのちょっと上ぐらいまでの雪が積もっただけでもうおなかにつかえて亀の子になってしまうということだ。今年の冬は何度となく伝えられていたが、降る時はあっという間に積もるのだから、くれぐれも甘くみないようにお願いします。
パワートレインをもう少し
圧雪路面を乾いた雪がうっすらと覆うという、条件のいい山道では安心して走れるLBXながら、上りではややパワーが物足りなく、ついつい右足を踏み込みがちになり、そうするとエンジンのノイズがちょっと耳につく。マークレビンソンプレミアムサラウンドサウンドシステムと一緒に付いてくるアクティブノイズコントロールをもってしても、ビーンという粗雑なエンジン音は覆いようがない。3気筒とはいえ(しかもレクサス版にはバランスシャフトが備わっているはず)、もっとヘルシーな音質で耳障りでないプジョーのような例もある。500万円級としては正直言ってちょっと残念な音色と音量である。
また高速道路と雪の山道という行程では燃費も物足りなかった。WLTCモードで26.2km/リッターを誇るはずだが、500km近い試乗での平均はおよそ14km/リッターにとどまり、しかも36リッターしか入らない燃料タンク(レギュラー仕様)のせいで、途中給油を余儀なくされた。欲を言えば、やはりパワートレインももうちょっとレクサスらしい専用品を望みたいところだ。だが無理して途中で諦めるのでは元も子もない。カジュアルで上質というクルマは大切に長く育てるべきである。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=トヨタ自動車)
テスト車のデータ
レクサスLBX“リラックス”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4190×1825×1545mm
ホイールベース:2580mm
車重:1400kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
フロントモーター最高出力:94PS(69kW)
フロントモーター最大トルク:185N・m(18.9kgf・m)
リアモーター最高出力:6PS(5kW)
リアモーター最大トルク:52N・m(5.3kgf・m)
システム最高出力:136PS(100kW)
タイヤ:(前)225/55R18 102Q/(後)225/55R18 102Q(ブリヂストン・ブリザックVRX3)
燃費:26.2km/リッター(WLTCモード)
価格:486万円/テスト車=560万4700円
オプション装備:ボディーカラー<ソニックカッパー>(16万5000円)/Lexus Teammate Advanced Drive<渋滞時支援>+緊急時操舵支援<アクティブ操舵機能付き>+フロントクロストラフィックアラート[FCTA]+レーンチェンジアシスト[LCA]+ドライバーモニター連携(9万0200円)/Lexus Teammate Advanced Park<リモート機能付き>+パーキングサポートブレーキ<周辺静止物>[PKSB](4万8400円)/ドライブレコーダー<前後方>(4万2900円)/デジタルキー(3万3000円)/おくだけ充電(1万3200円)/カラーヘッドアップディスプレイ<連動ディスプレイスイッチ付き>(5万5000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム+アクティブノイズコントロール(25万1900円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W>(4万5100円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1万4787km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:501.6km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】 2025.10.31 フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
-
ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
-
メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
-
アウディA6スポーツバックe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.10.25 アウディの新しい電気自動車(BEV)「A6 e-tron」に試乗。新世代のBEV用プラットフォーム「PPE」を用いたサルーンは、いかなる走りを備えているのか? ハッチバックのRWDモデル「A6スポーツバックe-tronパフォーマンス」で確かめた。
-
NEW
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(前編)
2025.11.2ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛え、STIではモータースポーツにも携わってきた辰己英治氏。今回、彼が試乗するのは「ホンダ・シビック タイプR」だ。330PSものパワーを前輪駆動で御すハイパフォーマンスマシンの走りを、氏はどう評するのか? -
これがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】
2025.11.1これがおすすめ!「ジャパンモビリティショー2025」でwebCGほったの心を奪ったのは、東4ホールの展示である。ずいぶんおおざっぱな“おすすめ”だが、そこにはホンダとスズキとカワサキという、身近なモビリティーメーカーが切り開く日本の未来が広がっているのだ。 -
第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記
2025.11.1エディターから一言「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。 -
2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】
2025.11.1試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。 -
小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集
2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。 -
これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】
2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。















































