トヨタ・クラウン スポーツZ(4WD/CVT)
まぎれもなく“スポーツ” 2023.12.22 試乗記 新世代「クラウン」の第2弾「クラウン スポーツ」は、分かりやすいハンサムなSUVスタイルが特徴だ。乗り味もどこか若々しい。歴代モデルを知る人は「これがクラウン?」と思うかもしれないが、トヨタが狙う新しい顧客層はそんなことは知らないし、気にもしないに違いない。パトカーにも使えるディメンション
新型クラウンシリーズの4つのバリエーションのなかでは、最もパーソナル感の強いモデルがクラウン スポーツだ。とはいえ扉はサッシ付きの4枚、リアゲートもガバッと開く5ドアハッチバックの体を採る。
フェラーリの「プロサングエ」に似ているとの声は根強いが、返す返すも開発時系列的にパクるパクったの話はあり得ない。SUV~クロスオーバーという縛りでとっぽいことを考えると、おおむねこういうところに落ち着くということだと思う。
日本的に表するならスペシャリティーSUVとでもいうのだろうか。近年、その道をデザインで切り開いたのは「レンジローバー・イヴォーク」であり、それをちょうどいい解釈に落ち着けたのが「ポルシェ・マカン」と、そういった流れの一線上にクラウン スポーツも位置づけられるのではないだろうか。
そのマカンと比べると全長はほぼ変わらず、全幅は40mmほど小さく、全高は50mmほど低いというのがクラウン スポーツの寸法構成だ。同じGA-Kプラットフォームを用いる「クラウン クロスオーバー」に対しては、全長が210mm、そしてホイールベースが80mm短い。1880mmという全幅は40mm広いが、標準装備となるDRSの効果も相まって最小回転半径はともに5.4mと、Cセグメントハッチバックにほど近い。ショーファードリブン用ならまだしも、警察関係の入札であれば「セダン」よりもこちらのほうが競争力が高そうではあるし、スポーツやクロスオーバーがパトカーとして日本の景色の一部となるのは、閉塞(へいそく)感ありありななかで、ちょっと前のめりな未来を感じさせてくれそうだし、悪くはないと思う。
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パワートレインは2タイプ
クラウン スポーツのパワートレインはクラウン クロスオーバーと同じ車台ながら一線を画する構成だ。スタンダードが横置きの2.5リッター4気筒ベースの四駆のハイブリッド車(HEV)というところはクロスオーバーと同じ。そしてクロスオーバーには横置きの2.4リッター4気筒ターボベースのハイブリッド四駆があるのに対して、スポーツにはHEVをベースにバッテリー容量を増やし、パワー&トルクも増強したプラグインハイブリッド車(PHEV)が用意される。
PHEVが搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は18.1kWh。最長90kmのEV走行が可能なうえ、55リッターのガソリン容量を確保したハイブリッドシステムとの組み合わせでの航続可能距離はベストエフォートで1200kmにも及ぶという。一方で静止時には最大1500WのACアウトレットとしても機能し、バッテリーと燃料タンクの両方が満タンの状態から、一般家庭の消費量にならして最長で6.5日程度の電力供給力を有している……と、これらの基本スペックは同じGA-Kプラットフォームを用いる「RAV4」や「ハリアー」と同じだ。
両車と大きく異なるのは充給電環境だ。クラウン スポーツは6kW・200Vの普通充電だけでなく急速充電にも対応しており、CHAdeMOポートを介してのV2Hも可能となる。現状のコスパ的な話をすれば基礎充電に比べると経路充電にはあまりうまみはないが、なにも心配せずにバンバン長距離も走りたい、万が一のためにV2Hも検討したい、という欲張りな選択肢が実は意外と少ない現状に鑑みれば、その存在意義は小さくないのかもしれない。
狭くはないが広くもない
内装は基本的にクロスオーバーのしつらえを継承しているが、レッドやサンドブラウンを選ぶと助手席側のセンターコンソールのパーティションからドアトリムにかけて共色が配される。これによって助手席側には華やぎを、運転席側には運転に集中できる環境を演出しようというわけだ。このアシンメトリーな空間は外目にはトリムの付け間違いかとギョッとするが、座って確認するとその印象よりも違和感は小さかった。個人的にクラウンシリーズの小さからぬ課題だと感じている静的質感については、クロスオーバーから前進した感はない。
クラウン スポーツのスポーツたるゆえんは、荷室部に表れている。リアウィンドウを大きく寝かせたファストバック的なフォルムで軽快感を生み出した一方で、天地側の空間が小さくなってしまった結果、荷室容量は397リッターと数値的にはあんまり褒められたものではない。日常生活において狭さを感じることはおおむねないだろうが、4人でゴルフなどというシチュエーションをカバーするのは難しそうだ。ただし後席はクロスオーバーのようにのびのびとはいかずとも、アップライトなポジションを意識すれば膝まわりや頭上まわりも含めて程よい空間が確保されている。
クラウンらしさは薄いものの……
今回の取材車はHEVのみ、かつ撮影も兼ねての限られたシチュエーションゆえ、スポーツの走りは大枠でしかみることができなかったが、以前プロトタイプで試乗したPHEVのそれに比べるとやはり動力性能に線の細さを感じる一方で、軽快さや身のこなしの自然さはこちらのほうが勝っているかもなという印象だった。
ショートホイールベース+DRSの機敏さはむしろ自重の重いPHEVのほうが効いてる的な実感が得られやすいだろう。逆に言えば切り始めのゲインの立ち上がりから舵角に伴う旋回力のつながり方などは、HEVのほうがリニアだ。その存在を強く実感するのは、むしろ高速域での安定性だろうか。後ろがドシンと据わって崩れる気配をみじんも感じさせず、ギュッと車体を低く沈めて曲がっていく感触はCセグメント以上のGA-K銘柄に共通するものだが、スポーツのHEVはDRSのおかげでその特徴が増し盛りされている感がある。
乗り心地については並行して乗ったセダンがかなりクラウンしてる感じだったこともあって、低速時には若干粗さを感じたり、高速燃焼エンジンならではのガ行音のうなりが相変わらず気になったりと、その名の系譜からみればちょっと雑みが目立つ仕上がりだった。もっとも、スポーツという名に抱く期待感によっては、全然許容できるレベルかもしれない。オッさん世代はクラウンの乗り心地にはことさら厳しく指摘してしまうが、このモデルが狙う客筋はわれわれよりもずっと若い方々なのだ。なにより、充実した装備類も含めてみれば、このコスパはやはりトヨタのなせる業かと納得させられる。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタ・クラウン スポーツZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1880×1565mm
ホイールベース:2770mm
車重:1820kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:186PS(137kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:221N・m(22.5kgf・m)/3600-5200rpm
フロントモーター最高出力:119.6PS(88kW)
フロントモーター最大トルク:202N・m(20.6kgf・m)
リアモーター最高出力:54.4PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:234PS(172kW)
タイヤ:(前)235/45R21 97W/(後)235/45R21 97W(ミシュランeプライマシー)
燃費:21.3km/リッター(WLTCモード)
価格:590万円/テスト車=616万5100円
オプション装備:ボディーカラー<エモーショナルレッドIII>(5万5000円)/パノラマルーフ<電動シェード&挟み込み防止機能付き>(11万円)/デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(6万7100円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:531km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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