マクラーレン750S(MR/7AT)
溶け合うほどに濃密 2023.12.25 試乗記 第2世代スーパーシリーズの旗手となった「マクラーレン720S」の後継モデル、「750S」が上陸。「ブランドのDNAを忠実に具現するマクラーレン史上最も軽量で最もパワフルなモデル」とうたう、ミドシップスーパーカーの走りを公道で試した。耳に心地よいエキゾーストノート
マクラーレン750Sはマクラーレン720Sの改良進化版で、車名のとおりに最高出力が720PSから750PSに引き上げられた。という事前情報を頭に入れたうえで試乗して、驚いた。正直、一般道では720PSと750PSの違いはわかりかねるけれど、細部に至るまで、あらゆる部分が大きくリファインされていたからだ。
センターコンソールに縦長のタッチスクリーンが配置され、その下にスターターボタンやシフトセレクターのスイッチが並ぶというインテリアのレイアウトは720Sで見慣れたもの。スターターボタンを押して、ミドシップされる排気量4リッターのV8ツインターボエンジンを始動する。
都心のビルの地下にある駐車場を出発してまず気づくのは、エキゾーストノートが変わったということ。らせん状の通路をぐるぐる回りながら地下4階から地上へ向かうと、それほど広いとはいえない通路内の壁に排気音が反響する。その音が、720Sより明らかに軽やかになり、澄んでいる。
720Sの音はまんまレーシングマシンというか、「いい音にしたからって速くなるワケ?」というある種の潔さがあって、それはそれで納得できる姿勢だった。けれども、やはり一般道を走るにあたっては、耳に心地よい音というのはスポーツカーの大事な要素だ。
新開発したというスポーツエキゾーストが奏でる音は、720Sの重低音の効いた迫力のあるものから、伸びやかなテノールに変わった。地下4階から地上に上がるまで窓を全開にし、アクセルペダルの操作に応じて表情を変える音色を楽しむ。
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路面からのショックをしんなりあしらう
市街地を走ると、乗り心地も明らかに変わっていると感じる。720Sも乗り心地は快適だったけれど、快適の種類がかなり違う。端的に言うと、750Sはサスペンションが自在に伸び縮みして、結果としてフラットな姿勢を保っている。徹頭徹尾、どっしりと構えて重厚な乗り心地を提供していた720Sより、路面のコンディションがドライバーに明確に伝わる。そのうえ、凸凹を乗り越えたときに伸び縮みするサスペンションの動き出しがすこぶるスムーズだから、乗り心地は快適だ。
快適性の向上によって、クルマが軽くなったようにも感じる。実際、750Sは30kgの軽量化に成功している。ただし、このライドフィールの変化は30kg軽くなったことよりも、足まわりの仕組みが進化したことによるものだろう。
PCC(プロアクティブ・シャシー・コントロール)と呼ばれるマクラーレン独自のアクティブサスペンションは、この750Sより第3世代のPCCIIIに進化しており、これがタウンスピードでの洗練された振る舞いに貢献している。
フロントが245/35ZR19、リアが305/30ZR20という「ピレリPゼロ」タイヤを履いているけれど、こんなに太くて薄いタイヤとは思えないほど、路面からのショックをしんなりとあしらっている。お見事! と、うなるほかない。
運転席に座ったときの視界も良好だ。目を引くほど尖(とが)った形なのにボディーの四隅までしっかり把握できるというマクラーレンの美点は変わらないから、車高の低さとドアミラー込みで2161mmという車幅が気にならない方なら、気持ちよく普段使いができるはずだ。
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つい「スポーツ」を選びたくなる
クルマがひとまわり、軽くコンパクトになったかのようなタウンスピードでの好印象は、速度域が上がっても変わらない。そしてスポーティーに走らせる場面では、ハンドリングとパワートレインの制御をそれぞれ独立して変えられる仕組みが、効果的に機能する。コントロールするダイヤルはメーターパネルの左右の隅、ハンドルから近い位置にあるので、運転中でも操作がしやすい。
足まわりの「コンフォート」モードは、街なかでは快適な乗り心地を提供したけれど、高速道路を巡航する場面では、もう少し上下動を抑えたくなる。そこで「スポーツ」モードを選ぶと、ぴしっと引き締まって気持ちよく走るようになる。
パワートレインの制御を変えて感心したのは、「スポーツ」や「トラック」のモードを選んでも、変速ショックが大きくなるなどの粗さが皆無なこと。エンジン回転を高く保ち、レスポンスが鋭くなるというスポーツドライビング時の恩恵だけで、弊害がない。冒頭に記したようにエンジンが発する音は耳に心地よい方向へ変わったから、それもあって高速巡航時や市街地でも、つい「スポーツ」モードを選びたくなる。
ちなみに、720Sに比べて750Sはファイナルのギア比が15%ローギアードになっているという。この変更によって、30PSパワーアップしたにもかかわらず、最高速度は720Sの341km/hから332km/hへと低下した。けれども、V8ツインターボのピックアップのよさに気持ちが高ぶる機会は増したはずだ。
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レーシングマシンとスポーツカーの融合
曲がりくねった道に入ると、ステアリングギアボックスのギア比をクイックにした効果が体感できる。しかもステアリングフィールは極上で、路面の状況とタイヤの状態が、まさに手に取るようにわかるから、自信を持って操作ができる。参考までに、720Sよりトレッドが6mm広げられているという。
ブレーキの性能は相変わらず圧倒的で、地面に押し付けられるように速度が落ち、微妙な踏力の変化をリニアに反映してくれるあたりもうれしい。
720Sはとてつもない高性能のスーパーカーであったけれど、時として「オレ、乗せられてる?」と感じる瞬間もあった。750Sは、30PSのパワーアップというよりも、ドライバーが積極的に運転に関与していると実感できる点で大きく前進したと思う。クルマとより濃密な対話ができて、コミュニケーションが図れるようになった。
マクラーレン750Sは、このブランドにおいて最も軽量で最もパワフルなラインナップだという。事実、ETCゲートや高速道路の合流で垣間見るエンジンのポテンシャルは爆発的で、しかるべき場所でタイムを計れば大幅に向上しているのだろう。実際にハンドルを握りながら、絶対的な速さと同時に、コーナーからの立ち上がりなどの局面局面でドライバーを高揚させるような官能性を重視したモデルチェンジだと理解した。
100分の1秒の違いもはっきりと表示されるサーキットは言い訳のできない場所で、そこでレーシングマシンは開発される。いっぽう、音がいいとかハンドリングが機敏だとか、スポーツカーは曖昧な評価が許される趣味の乗り物だ。レーシングマシンとスポーツカーの両方を融合させられる稀有(けう)な存在がマクラーレンだと、あらためて感じた。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
マクラーレン750S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4569×1930×1196mm
ホイールベース:2670mm
車重:1277kg(乾燥重量)/1389kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:750PS(552kW)/7500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgm)/5500rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y XL/(後)305/30ZR20 103Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:12.2リッター/100km(約8.2km/リッター 欧州複合モード)
価格:3930万円/テスト車=--円
オプション装備:ボディーカラー<アイスホワイト>/ステルスエキゾーストフィニッシャー/リアバンパー<ボディーカラーアッパー&カーボンファイバーロアー>/ヘッドライトサラウンド<ボディーカラー>/カーボンファイバーボディーカラー<フロントフェンダー&ルーバー>/750S TechLuxインテリアパック/エクステリアディテールカーボンファイバーパック
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:2788km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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