マクラーレン750S(MR/7AT)/750Sスパイダー(MR/7AT)
レース屋の真骨頂 2023.12.07 試乗記 マクラーレンの新たな“頂点モデル”「750S」に試乗。同ブランドのなかで最も軽量かつ最もパワフルとうたわれるスーパースポーツの実力を、オープントップの「750Sスパイダー」とあわせて確かめた。ますます空気の使い手に
750Sはマクラーレンの標準的なラインナップにおいて、最もスポーティーな位置づけとなるモデルだ。そのエンジニアリングのベースとなるのは、2017年に発表された「720S」となる。
720S、気づけばもう6年もたっていたのか……とちょっと驚かされるが、スタイリングに加齢はまったく感じられない。「セナ」や「スピードテール」「エルバ」といったアルティメイトモデルにもそのデザインのエッセンスが受け継がれ、月日とともにむしろマクラーレンのアイコンたる存在感を高めてきたように思う。元来このカテゴリーはランボルギーニやフェラーリといった先達(せんだつ)のオーラが強いぶん、意匠的に新たな提案の定着が難しいが、マクラーレンがドアパネルとエアガイドを兼ねるダブルスキンを筆頭に、空力要件や視認性などの機能を織り込みつつ独自のアピアランスを打ち出すに至ったのは評価できることだろう。
750Sはその720Sのスタイリングを色濃く受け継いでいるが、空力的にさらなる洗練をみている。差異として特徴的なフロントマスクはダクトやライトまわりのインテーク面がより小さく滑らかに仕上げられており、抵抗改善が図られた。リアまわりは有効面積を720S比で20%拡張したカーボン製のアクティブリアウイングやボトムのエアフローデザインに寄与するハイマウントのエキゾーストシステムなどが印象的だが、これらには「765LT」の開発で得られた知見が多く含まれている。ちなみにダウンフォース量は720Sに比べて15%増大しているという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
軽さへのこだわりはハンパじゃない
750Sのさらなる進化のポイントは軽量化だ。720Sの代でもその武器は同級のライバルに対するざっと100kg以上という車重の軽さで、これによりドライバーとの物理的な一体感でアドバンテージを得ていた。750Sではさらなる軽さを目指して、シートやホイール、フロントガラスや新意匠のインストゥルメントパネルに至るまでシェイプアップを重ねて、720S比でさらに最大30kgの軽量化を果たしたという。
マクラーレンいわく、その乾燥重量は1277kgだから、日本の車検証計測値でも1400kgをうかがうあたりになるだろうか。搭載されるM840T型4リッターV8ツインターボエンジンもリファインを受けて車名どおりの750PSと、クラス最強のパワーを達成しているが、それでも最高出力より1tあたりの出力、いわゆるパワーウェイトレシオが重要視されているというから、いかに軽量化が優先事項であるかが伝わってくる。
カーボンタブの「モノケージII」を用いる750Sのモノコック構造は720Sと同じ。そして足まわりも骨格はフルアルミのダブルウイッシュボーンと変更はない。が、プロアクティブシャシーコントロールは第3世代へと改められ、ダンパーコントロールを担うアキュムレーターの内圧チューニングとスプリング構造の変更およびレートの最適化など、車両特性に合わせた変更を伴いながら、実はここでも2kgの軽量化を達成している。
手と目で感じる素晴らしさ
コックピットまわりはデジタルアーキテクチャーが先駆けて最新世代へと移行した「アルトゥーラ」にのっとったかたちでリデザインされている。ドライバー側に向けられた印象的なセンタースタックにおさまるインフォテインメントモニターはApple CarPlayに対応するなど現代化が図られた一方で、従来はその横に据えられていたシャシーとパワートレインのコンフィギュレーションは大きなダイヤルノブ型となってメーターナセル左右に移設されている。
そのメーターパネルはコラムマウントされており、ドラポジに合わせた調整時もメーターとダイヤルノブ、ステアリングとパドルとの位置関係は変わらない。トラックモードではメーターバネルが回転して横バー型となるギミックは廃されたが、そのぶんステアリングまわりでも軽量化を果たしている。逐一語られる能書きにさえ無駄がないのが、マクラーレンらしいといえばらしい。
そのコックピットに座って、相変わらず素晴らしいなあと感心するのが、視界とステアリングの握り感だ。立てられたフェンダーの峰と低いカウルによるミドシップならではの視界の抜けは、クローズドコースで際のキワを踏み分けるのみならず、日常域のドライブでも運転しやすさにつながるだろう。加えてクーペの750Sはクオーターピラー部にもガラス面を設けるなど、720Sから受け継いだディテールのおかげでミドシップとしては斜め後方視界も開けている。カーボンタブを用いた剛体構造による利をしっかり生かしているというわけだ。
ステアリングは細径で断面も手のひらの腹に吸い付くような楕円(だえん)形状となっている。このため、電動油圧アシストを介しての微細な入力をクルマの側に伝えやすい。そのうえ、スイッチ類が一切ないこともあってイナーシャが非常に軽いのも特徴だ。750Sは720Sよりもさらにギア比がクイックになっているが、それでも真っすぐ走らせることが苦にならないのは車体側の精度感に加えて、こういう、インターフェイスの絶妙なセットアップによるところが大きい。
スペックよりも楽しさを重視
クーペを走らせたエストリルサーキットは他のスーパースポーツやスポーツセダンなどでも走った経験があるが、750Sは速さのステージがちょっと異なる、正直に言えばそんな印象だった。約1kmのストレートで、第1コーナーまで300mの看板を超えたあたりからと十分なマージンを残しつつブレーキを踏み始める際に達した速度は270km/hオーバーと、その伸び方はちょっとあぜんとするものだった。最終コーナーの脱出速度は遅いものの、約1.5kmにわたる富士スピードウェイのストレートエンドでは720Sも300km/hの大台に達するといわれるが、果たして750Sは「日産GT-R」の最高速である310km/hも超えてしまうのではと想像するとちょっとゾッとする。
この速さを支えるのはパワーアップに加えてくだんの空力特性、そしてローギアード化されたファイナルだろう。公称される750Sの最高速は332km/hと、720Sより9km/h落ちている。一方であまり注目されない0-200km/hの加速を見れば0.6秒速い7.2秒……と、このあたりに750Sの狙いがみてとれる。パワーアップも軽量化も空力改善も、ひいてはギア比の変更も、すべては数値的評価よりもドライビングファンの濃度を高めるための施策というわけだ。それでいえばエキゾーストノートがより高音側に整えられたことで、回した際の高揚感が増したことも大きな変化といえるだろう。
サーキットを走るとコーナーからコーナーへのギア的なつながりがテンポよくなった一方で、コーナーからコーナーへの到達時間が経験なき速さに達していることに気づかされる。それでも車体のコントロール性は720Sと同様で、軽さを鑑みれば望外に心強い。ストレートエンドでのフルブレーキングではテールがムズかる気配さえなくズドーンと地面に据わっていくが、このあたりはリアウイングの仰角を一気に立ち上げるエアブレーキ効果によるかさ上げも大きいだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
マクラーレンならではのパフォーマンス
ちなみにサーキット試乗のブレーキはセナの開発で得られたノウハウをフィードバックしたアップグレードパッケージを装着していた。ブースターやバキュームポンプなども専用品となる本格的なものだが、試乗中は幾度もの周回にも音を上げることはなく、踏み応えやストロークも安定していた。
しかし、750Sで何より驚かされたのはオンロードでのマナーの良さだ。進化したプロアクティブシャシーコントロールは快適性の側に大きく進化の幅を広げたようで、50km/h以下の低速域でも足さばきはしっとりと優しい。そういった低負荷域から回転体の動きにブレがなく精度感が増したのは、バネ下の軽量化も奏功しているのだろう。そこから速度を高めていっても路面入力を増幅させるようなカーボンタブの癖は皆無で、乗り心地だけではなく音振的な印象もすっきりしたものになった。
プロアクティブシャシーコントロールはその構造上、低負荷域での足まわりの動きに突っ張った感触が表れることもあるが、最新世代では山道をサラサラと気持ちよく走るくらいのアベレージでも車体に自然なロール感がもたらされている。ハイスピードレンジでなくても姿勢変化や荷重移動が体感しやすくなったことで、運転実感がよりリアルで高精細になったといえるだろう。
スーパーカーセグメントも電動化という新たなソリューションを得てパフォーマンスの示し方が多様化するなか、PHEVのアルトゥーラという後ろ盾を得た750Sは心おきなくど真ん中のスーパースポーツ道を貫いている。しかもそのとんでもない速さがハイパワーや電子デバイスなどの重武装というよりは、軽さという引き算によって増強されているところが心憎い。やっぱりレース屋出自のクルマ屋は性根が違うなと感心させられる。
(文=渡辺敏史/写真=マクラーレン・オートモーティブ/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
マクラーレン750S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4569×1930×1196mm
ホイールベース:2670mm
車重:1277kg(乾燥重量)/1389kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:750PS(552kW)/7500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgm)/5500rpm
タイヤ:(前)245/35R19 93Y XL/(後)305/30R20 103Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:12.2リッター/100km(約8.2km/リッター 欧州複合モード)
価格:3930万円/テスト車=--円 ※日本市場での車両価格
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
拡大 |
マクラーレン750Sスパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4569×1930×1196mm
ホイールベース:2670mm
車重:1326kg(乾燥重量)/1438kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:750PS(552kW)/7500rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgm)/5500rpm
タイヤ:(前)245/35R19 93Y XL/(後)305/30R20 103Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:12.2リッター/100km(約8.2km/リッター 欧州複合モード)
価格:4300万円/テスト車=--円 ※日本市場での車両価格
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
ダイハツ・ミラ イースtuned by D-SPORT Racing(FF/5MT)【試乗記】 2026.10.27 ダイハツのベーシックな軽乗用車をもとに、ラリーやレース向けの競技車両に仕立てた「ミラ イースtuned by D-SPORT Racing」。軽量ボディーをロールバーで固め、力強いターボエンジンを搭載した一台は、クルマの楽しさを学べる教科書のような一台となっていた。
-
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/7AT)/ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.26 1976年に誕生し50周年を迎えたフォルクスワーゲンのホットハッチ「ゴルフGTI」と、333PSの出力とハイテク満載の4WDシャシーを武器とする高性能モデル「ゴルフR」にサーキットで試乗。両者の違いとそれぞれの特徴を報告する。
-
レクサスES350h(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.24 「レクサスES」がフルモデルチェンジ。8代目となる新型ではボディーがググッと大きくなったほか、デザインも一気に現代的に。さらにトヨタグループでは最新鋭のパワーユニットを積むなど、中身も外身も刷新されている。2.5リッターハイブリッドモデルを試す。
-
マツダCX-30 25エアエディション(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.23 マツダのコンパクトクロスオーバー「CX-30」に、一部改良で2.5リッターガソリンモデルが登場。新たなパワートレインを得た最新型は、過去のモデルからどのような進化を遂げているのか? 装備全部盛りの最上級グレードで確かめた。
-
フェラーリ12チリンドリ マヌアーレ(FR/8AT)【海外試乗記】 2026.10.21 MT車が長らく不在となっていたフェラーリ。そこに突如として現れファンを驚かせたのが、MT車と同じ変速動作で運転できる「12チリンドリ マヌアーレ」だった。果たして、その乗り味は? 名コースで試乗した西川 淳の第一報。
-
NEW
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー
2026.10.29デイリーコラムメルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。 -
NEW
ボルボEX90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(後編)
2026.10.29あの多田哲哉の自動車放談ボルボの新世代EV「EX90」に、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが試乗。ちょっと気になったところと、クルマとしての魅力を感じたポイントについて熱く語る。 -
NEW
写真で解説する「メルセデス・ベンツ・エレクトリックGLC」
2026.10.28画像・写真メルセデス・ベンツの新たなフル電動SUV「エレクトリックGLC」がデビュー。2026年10月28日に国内での注文受け付けがスタートした。一体どんなクルマなのか、その見どころを写真とともに解説する。 -
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28デイリーコラムポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。 -
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
2026.10.28試乗記「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。 -
第134回:アウディデザイン水掛け論 ―これが未来のアウディか? 「ヌヴォラーリ」と他のモデルに見る不整合―
2026.10.28カーデザイン曼荼羅微妙に迷いが見えていたアウディのデザインに、新しい潮流が? これまでとは異なるモチーフが取り入れられた「ヌヴォラーリ」の造形は、次世代のフォーシルバーリングスを指し示すものなのか? カーデザインの識者と、アウディデザインの未来について考えた。





















































