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テスラが首位から陥落 BEV覇権争いの行方は?

2024.02.08 デイリーコラム 佐野 弘宗
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テスラを抜いてBYDがBEV販売首位に

2024年も明けたばかりの1月3日、「テスラがバッテリー電気自動車(BEV)販売世界一から陥落!」とのニュースが、各メディアを駆けめぐった。

各社の報道によると、テスラが発表した2023年10月~12月期のグローバル販売台数(当然ながら全車BEV)が48万台強だったのに対して、中国BYDは同期に52万台以上のBEVを売り上げて、初めてBEV販売の世界首位に立ったという。テスラは2018年の1月~3月期にBEV販売で世界首位に立ってからずっとその座を守っていたから、これはじつに5年ぶりの事件というわけだ。

テスラといえば、あのイーロン・マスク氏が率いるBEV専門メーカーだ。そのクルマづくりや提供するサービスは、伝統的な自動車メーカーがきずいてきた価値観にとらわれず、われわれのような旧来のクルマ好きにとって、なにかと胸をザワつかせる存在なのは否めない。さらに、テスラの共同創業者にして最高経営責任者であるマスク氏は世界で1、2を争う大富豪であり、なにかと物議をかもす言動でも知られている。

そんなこともあって、今回の件も「あの憎たらしい(?)テスラの凋落」といった、どこかほくそ笑むような論調で報じるメディアも少なくなかった。また、その統計結果を受けたマスク氏が「テスラは自動車メーカーよりもAIもしくはロボットの会社に近い」と、自身が所有するX(旧ツイッター)に投稿したことも負け惜しみと表現したり、この1月24日に発表されたテスラの同期決算が低調だったことを「大惨事」としたりしてあおるメディアもあった。

ただ、実際に発表されている数字を客観的に見ると、今回の首位交代劇は、テスラが落ちたというより、BYDの躍進がすごかった……と捉えるのが実態に近いと思われる。

BYDの日本導入モデル第2弾となる電気自動車(BEV)「ドルフィン」。全長×全幅×全高=4290×1770×1550mmというコンパクトなサイズが特徴だ。バッテリー容量が44.9kWhの「ドルフィン」と58.56kWhの「ドルフィン ロングレンジ」の2種類が設定され、前者の車両本体価格は363万円、後者は407万円。
BYDの日本導入モデル第2弾となる電気自動車(BEV)「ドルフィン」。全長×全幅×全高=4290×1770×1550mmというコンパクトなサイズが特徴だ。バッテリー容量が44.9kWhの「ドルフィン」と58.56kWhの「ドルフィン ロングレンジ」の2種類が設定され、前者の車両本体価格は363万円、後者は407万円。拡大
BYDの最新BEVラインナップ。左から2024年春に販売開始予定の4ドアセダン「シール」、日本で販売されているコンパクトモデル「ドルフィン」とクロスオーバー「ATTO 3」。
BYDの最新BEVラインナップ。左から2024年春に販売開始予定の4ドアセダン「シール」、日本で販売されているコンパクトモデル「ドルフィン」とクロスオーバー「ATTO 3」。拡大
1995年2月に設立されたBYDの中国・深センにある本社地区。本社社屋はその形からヘキサゴンビルとして有名である。
1995年2月に設立されたBYDの中国・深センにある本社地区。本社社屋はその形からヘキサゴンビルとして有名である。拡大
BYDは6大陸に30を超える拠点を設立。自動車だけでなく、エレクトロニクスや再生可能エネルギー、鉄道輸送に関連する各産業で事業を展開している。写真はBYDの自動車運搬船が中国・深センから欧州に向けて出港する様子。
BYDは6大陸に30を超える拠点を設立。自動車だけでなく、エレクトロニクスや再生可能エネルギー、鉄道輸送に関連する各産業で事業を展開している。写真はBYDの自動車運搬船が中国・深センから欧州に向けて出港する様子。拡大
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テスラを抜くのは時間の問題だった?

2023年10月~12月期の営業利益率を前年同期の16.0%から8.2%に大きく落としたテスラだが、その主たる理由はアメリカや中国などの主要市場での値下げといわれる。いっぽうで、同期の売上高は前年同期比3%増の約251億7000万ドル(3兆7000億円)で、48万台強という販売台数にいたっては、じつは前年同期比20%プラスである。しかも、2023年の通年のテスラの販売台数は前年比37.7%増の180万台以上で、年間のBEV販売では世界首位の座を守ったことになる。

これまで急速な成長を遂げてきたテスラにとって、その伸び率が鈍って、まがりなりにも営業利益が減少したことは、ある意味で「大惨事」かもしれないが、これが普通の自動車メーカーならけっして不調とはいわれないだろう。それどころか、すっかりおなじみの「モデル3」や「モデルY」の商品力を維持するための値下げに加えて、話題の「サイバートラック」が当初予定から大幅に遅れて、先日やっと納車がスタートしたばかり……といった逆風下でも8.2%という営業利益率を確保しているのは逆にすごい。たとえば、2022年度決算でこれより高い営業利益率を達成している国内自動車メーカーはトヨタとスズキだけ。テスラというのは、既存の(業績好調な)自動車メーカーと同レベルの営業利益率では、とうてい許されない存在なのだろう。

いっぽうのBYDは、2023年10月~12月期に、そんなテスラをもしのぐ52万台以上のBEVを売り上げたというわけだ。これは前年同期比でじつに6割増! ただ、最近のBYDとしてはこれでも伸びが鈍っているくらいで、2023年の4月~6月期のBEV販売は前年同期比でほぼ倍増(!!)を記録。ちなみに、2023年におけるBYDの年間BEV販売台数はテスラにわずかにおよばず157万5000台だったが、前年比では7割以上のプラスとなっている。

こうした爆発的な勢いに加えて、BYDが販売するBEVの価格はテスラより明らかに安く、世界最大の自動車市場にしてBEV普及にもっとも積極的な中国の地元メーカーという地の利もある。つまり、BYDがテスラを抜くのは時間の問題だったともいえる。

テスラのSUV第2弾となるミッドサイズBEV「モデルY」。サイズは全長×全幅×全高=4750×1921×1624mmで、先に登場したSUV「モデルX」よりもひとまわりコンパクトになっている。
テスラのSUV第2弾となるミッドサイズBEV「モデルY」。サイズは全長×全幅×全高=4750×1921×1624mmで、先に登場したSUV「モデルX」よりもひとまわりコンパクトになっている。拡大
「テスラ・モデルY」のインテリアは“オールビーガン(動物性素材不使用)”で、ほかのテスラ車にも通じる極めてシンプルなデザインが特徴だ。インストゥルメントパネルの中央に、物理的なスイッチ類は存在しない。車両本体価格は563万7000円から。
「テスラ・モデルY」のインテリアは“オールビーガン(動物性素材不使用)”で、ほかのテスラ車にも通じる極めてシンプルなデザインが特徴だ。インストゥルメントパネルの中央に、物理的なスイッチ類は存在しない。車両本体価格は563万7000円から。拡大
2018年11月に販売が開始されたテスラの4ドアBEV「モデル3」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4694×1849×1443mm、ホイールベースは2875mm。現在の車両本体価格は561万3000円から。
2018年11月に販売が開始されたテスラの4ドアBEV「モデル3」。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4694×1849×1443mm、ホイールベースは2875mm。現在の車両本体価格は561万3000円から。拡大
直線基調のエクステリアデザインが目を引く「テスラ・サイバートラック」。0-100km/hの加速タイムは2.7秒、一充電走行距離は547kmで、さらに約5tのけん引能力を有するという。外板には耐衝撃性に優れる無塗装の「ウルトラハードステンレススチールエクソスケルトン」が用いられ、へこみや損傷の軽減がうたわれている。
直線基調のエクステリアデザインが目を引く「テスラ・サイバートラック」。0-100km/hの加速タイムは2.7秒、一充電走行距離は547kmで、さらに約5tのけん引能力を有するという。外板には耐衝撃性に優れる無塗装の「ウルトラハードステンレススチールエクソスケルトン」が用いられ、へこみや損傷の軽減がうたわれている。拡大

“BYD vs テスラ”の仁義なき頂上対決

しかし、テスラもこのまま黙っているわけではない。テスラはサイバートラックに続いて、低価格帯の量産BEVを開発中という。ただ、その発売予定は2025年以降。BYDと比較すると新型車が少ないのは事実だが、モデル数やモデルチェンジ回数を抑制して、開発・生産コストを圧縮するのもテスラ流のひとつである。というわけで、今年のテスラは引き続きモデル3とモデルYで収益を確保しつつ、サイバートラックの本格量産化と黒字化を目指すが、それが実現するのも2025年以降と見込まれている。テスラは今回の決算発表で「2024年の生産台数の成長率は、2023年を大きく下回る可能性がある」と認めており、今は次なる急成長に向けた踊り場的な時期なのかもしれない。

テスラはさらに、アメリカ、中国、ドイツに次ぐ第4の生産拠点国として、メキシコ工場の新設も進めている。2025年に予定どおりに低価格な新型BEVが世に出て、サイバートラックの事業性も確保されて、2026年以降とされるメキシコ新工場も稼働すれば、テスラが再び急成長していく可能性は高い。

もっとも、BYDはBYDで同社初の海外生産工場をタイに建設中で、この2024年に操業を開始予定。さらに、その次のインドネシアへの工場進出の準備も着々と進めている。

最近は中国と欧米諸国の政治的対立もあり、BYDが北米市場やEU市場でもこのままの勢いでビジネスができるかは不透明だが、中国に続いてBEV普及に熱心な東南アジア市場では確実に足場を固めているわけだ。まあ、テスラもテスラで「タイの工業団地を視察した」というニュースが2023年末に伝えられた。

BYDはBEVのほかにプラグインハイブリッド車も生産しているが、2023年で302万4400台という年間販売台数(これ自体、中国メーカー最大にして、世界でもトップ10に入る規模)のうち、すでに半分以上がBEVとなっている。そんなBYDの営業利益率は6%台。ある国内自動車メーカーのエグゼクティブが「いま、BEV事業で単独黒字化できている自動車メーカーは、世界でBYDとテスラだけだろう」と語っていたことを思い出す。

いずれにしても、世界では今後しばらく“BYD vs テスラ”という仁義なきBEV頂上対決が繰り広げられるのだろう。そんなアツい世界戦に、自動車メーカーというプレーヤーとしても、また戦いの場となるマーケットという意味でも、BEVの普及率がなかなか上がらない日本は蚊帳の外である。それが良いことなのか悪いことなのか……は、よく分からない。

(文=佐野弘宗/写真=テスラ、BYD/編集=櫻井健一)

「テスラ・サイバートラック」は、120Vおよび240Vで外部に給電可能なカーゴベッドを搭載。車内コンセントを用いて電動工具や電化製品への給電、電気自動車の充電が行えるほか、停電時には最大11.5kWの電力を家庭に直接供給することもできる。
「テスラ・サイバートラック」は、120Vおよび240Vで外部に給電可能なカーゴベッドを搭載。車内コンセントを用いて電動工具や電化製品への給電、電気自動車の充電が行えるほか、停電時には最大11.5kWの電力を家庭に直接供給することもできる。拡大
極めてシンプルにデザインされた「テスラ・サイバートラック」のインテリア。112km/hで飛ぶ野球のボールや、クラス4の雹(ひょう)の衝撃にも耐える強化されたアーマードガラスを採用している。
極めてシンプルにデザインされた「テスラ・サイバートラック」のインテリア。112km/hで飛ぶ野球のボールや、クラス4の雹(ひょう)の衝撃にも耐える強化されたアーマードガラスを採用している。拡大
2022年5月に発表されたBYDの新たなグローバルモデル「シール」。日本には右ハンドルモデルが導入される予定で、後輪駆動車が640km、四輪駆動車が575kmの一充電走行距離(いずれもWLTPモード値)を誇る。
2022年5月に発表されたBYDの新たなグローバルモデル「シール」。日本には右ハンドルモデルが導入される予定で、後輪駆動車が640km、四輪駆動車が575kmの一充電走行距離(いずれもWLTPモード値)を誇る。拡大
中国・深センにあるBYDの生産工場の様子。現在、BYD初となる海外生産拠点をタイに建設中で、2024年中に操業を開始する予定だ。
中国・深センにあるBYDの生産工場の様子。現在、BYD初となる海外生産拠点をタイに建設中で、2024年中に操業を開始する予定だ。拡大
最大250kWの出力を誇るテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」。北米ではフォードやゼネラルモーターズ、ホンダ、ポールスター、ヒョンデ、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェなどがこの充電規格を採用する計画を推進している。
最大250kWの出力を誇るテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」。北米ではフォードやゼネラルモーターズ、ホンダ、ポールスター、ヒョンデ、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェなどがこの充電規格を採用する計画を推進している。拡大
ドイツ・ブランデンブルク州にあるテスラの生産工場。欧州における同社初の生産拠点で、2022年3月に操業を開始した。年間50万台の生産能力があるという。
ドイツ・ブランデンブルク州にあるテスラの生産工場。欧州における同社初の生産拠点で、2022年3月に操業を開始した。年間50万台の生産能力があるという。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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