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第45回:小沢コージが聞いた大規模改良型「ロードスター」で「990S」廃止の真相 敵はハッカーだった!

2024.02.09 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ 小沢 コージ
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2024年1月に発売された改良型「マツダ・ロードスター」。主要グレードの6MT車にアシンメトリックLSDが備わるなど、大幅な進化を遂げている。
2024年1月に発売された改良型「マツダ・ロードスター」。主要グレードの6MT車にアシンメトリックLSDが備わるなど、大幅な進化を遂げている。拡大

開発主査の齋藤茂樹さんを直撃!

日本が誇る“走る国宝”こと4代目「マツダ・ロードスター」がまたまたヤリ過ぎ大幅改良! 新開発アシンメトリックLSDが付いた! ウインカーがLEDになった! 走りがさらに楽しくなった!! などなど朗報は数あれど、小沢が開発主査の齋藤茂樹さんを直撃してみると予想外の真実と苦労が見えてきました。

初のアダプティブクルーズコントロール(ACC)や後退時検知のスマートブレーキサポート搭載は知っていたけど、真の問題はサイバーセキュリティー法案、いわばハッキングに対する防御であったと。同時にまた、ロードスターという文化を守る戦いも別次元に突入していたのだと。

「ロードスター」の開発主査を務める齋藤茂樹さん。小沢のぶしつけな質問にも丁寧に答えてくれました。
「ロードスター」の開発主査を務める齋藤茂樹さん。小沢のぶしつけな質問にも丁寧に答えてくれました。拡大
2015年のデビュー当時は(ほぼ)5つ星の衝突安全性能を誇っていたが、年々基準が厳しくなり、改良前の段階では星がほぼゼロの状態になってしまっていた。
2015年のデビュー当時は(ほぼ)5つ星の衝突安全性能を誇っていたが、年々基準が厳しくなり、改良前の段階では星がほぼゼロの状態になってしまっていた。拡大

衝突安全が(ほぼ)5つ星からゼロ星に

小沢:今回のロードスター改良のキモはアシンメトリックLSDもありますが、実はACCや先進安全装備を付けての延命というか、9年目を迎えての「まだまだつくるぜ!」宣言だと思うんです。ここ数年ガソリン乗用車はもちろん、スポーツカーづくりもどんどん大変になってるはずですが、ロードスターをつくり続けるには一体どういった戦いがあったんでしょう?

齋藤:戦いはないですけど……。

小沢:いや排ガス、電動化、安全対策。ぶっちゃけこの3つはレギュレーション的にも僕らが思っている以上に大変なんじゃないかと。

齋藤:そこはものすごく大変で、電気自動車(BEV)にするとかハイブリッド車(HEV)にするとかはやればいいんですよ。一番大変なのは安全だと思います。例えば衝突安全ですが、今のロードスターはデビュー当時は(ほぼ)5つ星でした。

小沢:JNCAPですかユーロNCAPですか?

齋藤:両方です。最初は5つ星を狙ったんですけど、最終的に4つ星でした。なにを取りこぼしたかって助手席のチャイルドシート法案。欧州で大型車用のデカいのを積まなければいけない要件だけNGで、それ以外はクリアしてました。事実上5つ星みたいなものです。だけど今の基準に照らし合わせるとほぼゼロ。

小沢:ええ? 3とか2とかじゃなくて?

齋藤:年々厳しくなってます。例えば北米の側面衝突テストは昔は小さいバリアーをボンとぶつけるだけでよかった。今はトラックみたいな大型バリアーをぶつけるんで軽いクルマは吹き飛ばされちゃうんです。よってニーエアバッグなどたくさん付けないと対応できない。もちろんフレーム剛性も上げていかなきゃならない。年々厳しくなる法規制に対し、ロードスターがロードスターであり続けるためには今から技術を蓄積しておかなければいけません。もちろんボディーを大きくしていいならいいんですよ。だけど大きいロードスターはロードスターじゃないじゃないですか(笑)。

小沢:確かに。2人乗りの楽しくも安全なオープンカーで車重1t前後。それって今の技術を考えるともしや夢のようなスペックかもしれないですね。ちなみに今回のACCと後方スマートブレーキサポートの追加、あれはどの法規をクリアするためのものですか。

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真の敵はハッカーだった

齋藤:あれはサイバーセキュリティー法案(UN-R155)で、2024年の7月までにクリアしないと現行車は継続生産できません。アメリカは大丈夫なんですが、日本でも欧州でも無理です。

小沢:サイバー、意外な横やりですね。

齋藤:これが非常に大変で、そもそもロードスターの電子プラットフォームはほぼ10年前のものなので対応できないんです。

小沢:要は今回の大幅改良は、ACCや後退時検知、アシンメトリックLSDを付ける以上に、サイバーセキュリティーであり、ぶっちゃけハッカー対策が主眼だったってことですか?

齋藤:イエス。それがトリガーでほぼほぼそこにお金と時間を使ってます。

小沢:それは単純にワイヤハーネス(配線)とかではなくて制御コンピューターであり、半導体レベルから?

齋藤:ハーネスはさほど影響受けないんで、コンピューター関係ですね。制御面の電子部品はほぼ全部変えなければいけない。そこでロードスターをイチからつくり変えるわけにもいかないので、「CX-60」の電子プラットフォームをそのまま移植しました。これが一番早くて安いんで。

小沢:それは知らなかった。

齋藤:そこでなにが起きたかっていうと、まずヘッドランプが動かなくなった。

小沢:え?

齋藤:コンピューター間のCAN通信などすべての世代が新しくなっちゃったんでヘッドランプもつかなくなるんです。そこで「変換機付けてください」って言われたんですが、すると重くなるじゃないですか。なので「もう基盤からやり替えましょうよ」と。だから中身をさらに新しくして、ついでにターンランプもLED化しました。ファンから「いい加減変えたら」とずいぶん言われてたんで(笑)。

小沢:そっちは主役じゃなかったんですね。ハードはもちろんのこと通信用プロトコルから全部変えたと。

齋藤:でないとサイバー攻撃を加えられて、ACCなんて特に怖いじゃないですか。勝手に車速が上がったとかなったらもはやテロですよ。

小沢:そうか。ACCが付くだけでそんなに安全になるわけないと思ってたけどそっちはついでなんですね。キモは電子的骨格。

齋藤:マツダが持っている最も新しいものに変え、中身もセンサーからすべて変えました。4~5世代分上がってハンパないお金がかかってます。

「今回の大幅改良ではサイバーセキュリーティー対策のためにお金と時間を費やしました」。
「今回の大幅改良ではサイバーセキュリーティー対策のためにお金と時間を費やしました」。拡大
電子プラットフォームを刷新したらヘッドランプが動かなくなった。製品版では新デザインに変わり、ウインカーもLEDになった。
電子プラットフォームを刷新したらヘッドランプが動かなくなった。製品版では新デザインに変わり、ウインカーもLEDになった。拡大

世界中のファンを裏切れない

小沢:ピュアスポーツカーをつくり続けるのがいかに大変かってことですね。それも大衆価格で。そもそもこういうスポーツカー自体、マツダぐらいしかつくってないじゃないですか。トヨタとスバルの「GR86」と「BRZ」もありますけど、一応200万円台で買えるFRピュアスポーツカーってほかにないんですよ。他社がつくったら500万円以上かかるだろうし、そもそもつくらない。

もはや美学を超えた、悲壮なまでの戦いだと思うんです。酷なことを言うと、そんなにもうかりもしないじゃないですか。売れても国内月500台が700台になったくらいで、月に2万台売れる「N-BOX」のほぼ40分の1。ちなみに年間グローバル販売は?

齋藤:年間2万~3万台です。

小沢:「カローラ」や「RAV4」になると100万台を超えるレベルですよ。だからロードスターの開発って、なかには楽しそうでいいね! って言う人もいると思うんですけど、ものすごいレベルの戦いをたった1社でしてるんですよ。あのトヨタがスバルも巻き込んでリスク分散してやってることを。

しかも敵はハッカーに加えて「重さ」もある。今回は「990S」がなくなりましたけど、最軽量の「S」は1010kg。軽いですよね。

齋藤:そこが今回一番残念なところで、1t切りを目指してずっとキープしていたのが、電子プラットフォームを変えたがゆえにそれ絡みでざっくり10kg弱重くなりました。ロードスターで10kgといったらもう致命傷です。

小沢:なるほど。990S廃止の裏にはそんな事情もあったと。しかし今回全体に20万円ぐらい値上げして、Sも289万円で300万円が見えてきましたが、それでも相当頑張ってると思うんですよ、買いやすくするために。

齋藤:ありがとうございます。

小沢:繰り返しますがFRの軽いピュアスポーツは日本しかつくってなくて、イタフラはもちろん、元祖であるイギリスも安くはつくれないし、アメリカなんてそもそもないし、ドイツは重厚なプレミアム系ばかり。そこでマツダは孤軍奮闘、竹やりデッパで頑張ってるようなイメージで。これがフル電動スポーツ、BEVだったら1.5tとかヘタすると2t超えってレベルなのに。

齋藤:ロードスターは世界中にファンがいますから裏切れないんです。毎年毎年期待に応えていかなきゃいけないんで。

小沢:前から思ってたんですが、もはや寄付を募ってもいいんじゃないのかと。「ロードスターファウンデーション」じゃないけどこれはイチ商品の存続じゃない。ライトウェイトスポーツであり、走る文化を守るための戦いだから「ロードスタークラウドファンディング」をやってもいいのではと。正直、あまりもうかってないですよね? ロードスター。

齋藤:いやいやそんなことないですよ。それなりに利益は出てますのでご心配なく(笑)。

改良型の車両本体価格は「S」グレードの289万円から。まだギリギリ300万円以下をキープしている。
改良型の車両本体価格は「S」グレードの289万円から。まだギリギリ300万円以下をキープしている。拡大

ロードスターらしさを守りたい

小沢:とはいえロードスターの未来はどうでしょうか? 現行はいつまでつくれる?

齋藤:正直、次のロードスターはまだ開発したくないんです。例えばこの先BEVになります、HEVになりますっていっても、結局バッテリーを使うじゃないですか。今のバッテリーはまだ大きくて重いんですよ。一方、進化はものすごくて、年々小さく軽く安くなっていく。だから今設計しちゃうと先ほどの安全面を含めてクルマが必然的に大きくなっちゃうんですね。

だったらこの先部品がより小さく軽く安くなったときに設計できれば、ロードスターらしいロードスターができるんじゃないかと。そういう意味では今のピュアなガソリンのロードスターを、限りなく長くつくっていきたいという思いがあります。

小沢:今後はますますユーザーやマーケット以上に法規制との戦いなんですね。それからロータリーとかBEVとかうわさはいろいろありますが……。

齋藤:オールニューにしようと思ったら個人的には安全が一番厳しいと思ってます。電動化は選択してやればいいだけなんで。それに電動化してもロードスターは絶対つまらなくならない、絶対楽しいクルマになると思ってますから、そこは心配していない。かといって衝突安全がゼロ星で出すわけにもいかないわけで。

小沢:でもBEVはともかく、HEVでも少なくとも1.5t、いや1.3tは超えると思うんですよ。そうするとロードスターじゃなくなると思うんです。

齋藤:だからですよ(笑)。

小沢:そうなったら重くなったぶん、カーボンボディーにするとか高価格にならざるを得ないのではと

齋藤:そこはね。ただし、ロードスターは誰もが気楽に買えて乗れるクルマだから、一部の人しか買えないってそれはもうロードスターじゃないですね。

小沢:こうなったらやっぱクラウドファンディングしかないですって! ロードスターはもはや日本が誇る走る文化事業なんですから。

齋藤:(笑)

(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

新たに8.8インチのセンターディスプレイを搭載。コネクテッドサービスにも対応している。
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「重くて大きい『ロードスター』はつくりたくない」と語る齋藤主査。小沢はクラウドファンディングを提案します!
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小沢 コージ

小沢 コージ

神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』

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