レクサスRZ300e“バージョンL”(FWD)
電気よりも元気 2024.02.20 試乗記 レクサスの電気自動車(BEV)「RZ」に、前輪駆動化して一充電走行距離を大幅に延長した「RZ300e」が登場。より遠くまで行けるようになった以上、遠くに行ってみる以外の選択肢はないはずだ。東京~箱根往復ドライブのてんまつをお届けする。消えた32km
デンキですか~っ。電気があれば、なんでもできる。芦ノ湖を眼下に見下ろし、振り向けば富士山がそこにいる。箱根芦ノ湖展望公園の駐車場で筆者がレクサスRZ300eに乗り換えたとき、この個体の電気エネルギーは59%、走行可能距離は241kmと眼前のスクリーンに表示されていた。ここから東京・港区芝浦にあるレクサスの返却窓口までおよそ100kmちょっと。箱根スカイラインを下って芦ノ湖スカイライン方面まで多少ワインディングロードを楽しんでも余裕で帰れるはずだ。
いったん、クルマから降りて、編集部のFさんとカメラマンさんに別れのあいさつをし、再び乗車してスタートのボタンを押す。すると、なんとエネルギー残量は59%のままなのに、走行可能距離は209kmに減っている。32kmの走行距離が消えてなくなってしまった……。-2℃という外気温の低さが影響したのか。いや、そうではない。私がエアコンのスイッチをオンにしたのである。忘れていたけど。
デンキですか~っ。電気があればなんでもできる。この道を行けばどうなるものか。危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。迷わず行けよ、行けば分かるさ。
行くぞ~、1、2、3、ダーッ!!
と、押して回してDレンジに入れる式のシフターを切り替え、RZ300eを発進させる。ギョッとするほど、めちゃくちゃ滑らかである。ハンドリングもいい。箱根スカイラインを芦ノ湖スカイライン方面に下り、芦ノ湖スカイラインに入ったら、三国峠に向かう上り坂をアクセル全開!
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寒さに震えながらやってきた
2023年3月に国内発売となったレクサス初のBEV専用モデル「RZ450e」に遅れること半年、秋に加わったFWD版がRZ300eである。開発の順序は別にして、4WDのRZ450eからリアのアクスルとモーターを取り除き、リアサスペンションのメンバーをFWD用に専用開発。軽量化と省電力化を図ることで、一充電走行距離を493kmから599kmへと、およそ100km延ばしているところが最大の特徴だ。航続距離が600km近くになったからこそ、編集部のF氏も箱根まで、おおよそ往復200kmのドライブを決意したのである。
筆者が受け取った時点でのRZ300eのトリップは133.5kmで、途中、平塚PAで急速充電を30分(出力40kW器)ほどしてきたという。さらにF氏は電池がすっからかんになることを案じ、エアコンをオフにして寒さに震えながら集合地点にやってきた。箱根芦ノ湖展望公園への往路は上りが多いことはもちろんある。そうやってF氏が辛抱しつつ残してきたエネルギー残量59%を、筆者は湯水のように消費しちゃうわけである。わははは。
RZ450eと違うのはリアの押し出し感が皆無なことだ。RZ450eの「DIRECT4」なる4WDシステムはコーナーからの脱出時、前後の駆動力が40:60と、リアが大きくなるはずで、実際、そういう感覚がある。前後モーターの最高出力は前が204PS、後ろが109PSなのに、どうしてリアの駆動力が大きくなるのかといえば、常に最高出力を発生しているわけではないからだ。とRZの開発者から教えてもらった。
RZ300eの場合、フロントだけ、204PSと266N・mのモーターが車重2tのクルマを走らせる。ものすごく速いわけではないけれど、遅くはない。後ろの剛性感が記憶のなかのRZ450eほどではない。だけど、それは当たり前なんである。こちらはFWDで、後ろのタイヤはついてきているだけ。横方向の剛性になるドライブシャフトがないのだから。
加速もハンドリングもスムーズ
でもって、タイヤがRZ300eは標準が18インチの前後235/60という穏健さである。20インチ、前235/50、後ろ255/45のRZ450eより、筆者の記憶のなかの比較ですけれど、タイヤの当たりがやさしい。RZ450eは可変ダンピング、PASMなしの997型「ポルシェ911」みたいに、硬くてしっかりしている乗り心地だったのに対して、RZ300eはもうちょっと硬さがほぐれているというか、後ろからの蹴り出し感がないことも含めてポルシェ911っぽくないというか、どっちかというと「フォルクスワーゲン・ゴルフII」っぽいと申しますか……。
ただし、試乗中、ゴルフIIのことはまったく浮かばなかった。ゴルフIIとはドライビングフィールがまるで違うからだ。それはそうである。あちらは振動と騒音、回したときの滑らかさが印象的な内燃機関車で、こちらは徹頭徹尾、はじめから終わりまでスムーズな電気モーターのBEVである。
リチウムイオン電池をフロアに400kgほど敷き詰めているところはRZ450eと同じだから、低重心でもある。車検証の前後重量配分は前1120kg、後ろ880kg、すなわち56:44で、フロントが重すぎないこともあって、曲がりたがる。ステアリングフィールも電気モーターみたいにスムーズである。
ゆっくり休んだっていい
加減速に合わせて、ひゅいいいんっ、というASC(アクティブサウンドコントロール)のエレキサウンドをとどろかせるところはRZ450eと同じで、この人工的なサウンドが心地よい。アクセルと連動し、高い音と低い音を切り替える、ギアチェンジの代わりになる、音階を変えるシステムがあれば、BEVの音の可能性は広がるはずで、もしもそういうシステムが生まれたら、BEVを楽器として超絶演奏するジミ・ヘンドリクスみたいなひとが現れるかもしれない。
芦ノ湖スカイラインの三国峠まで来たところ、私は猪木さんと違って、この道を行けばどうなるものか危ぶみ、ターンパイクは避けて仙石原方面に向かい、御殿場ICから東名高速に入って東京・芝浦を目指した。返却時のエネルギー残量は26%、残りの走行可能距離は98kmだった。この結果からして、RZ300eの東京~箱根ドライブは楽勝だった。といえるのかどうか悩ましいところではある。
価格は820万円で、RZ450eの880万円と60万円しか違わない。リアの駆動システムはモーターその他を含めても60万円程度にすぎず、結局はリチウムイオン電池がカギを握っている、ということになる。
BEVの永遠の課題。それは、電気があれば、なんでもできるけれど、ないと、なんにもできなくなることだ。猪木さんが夢見た永久電池があればなぁ……。あ。充電設備のある箱根のホテルで1泊すればいいのだ! 1、2、3、ダーッ!! と3泊したっていい。ゆっくり休む。元気があればなんでもできる。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスRZ300e“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1895×1635mm
ホイールベース:2850mm
車重:1990kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)
最大トルク:266N・m(27.1kgf・m)
タイヤ:(前)235/60R18 103H/(後)235/60R18 103H(ヨコハマ・アドバンV61)
一充電走行距離:599km(WLTCモード)
交流電力量消費率:120Wh/km(WLTCモード)
価格:820万円/テスト車=886万5500円
オプション装備:デジタルキー(3万3000円)/レクサスチームメイトアドバンストパーク<リモート機能付き>+パーキングサポートブレーキ<周囲静止物>(4万4000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(23万1000円)/おくだけ充電(1万3200円)/寒冷地仕様<LEDリアフォグランプ、ヘッドランプクリーナー、ウインドシールドデアイサー、発光エンブレムヒーター等>(3万1900円)/パノラマルーフ<IR・UVカット機能、Low-Eコート、調光機能>(26万9500円)/ドライブレコーダー<前後>(4万2900円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:486km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:257.1km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.4km/kWh(車載電費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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