スバルが世界に誇る4WDの原点に触れ、雪道での実力をあらためて知る
2024.02.15 デイリーコラムAWD車の累計生産台数は2000万台以上
日本有数の豪雪地として知られる青森・酸ヶ湯を舞台に開催された、スバルの報道関係者向け雪上試乗イベントに参加した。リアルワールドの雪道をスバル自慢の四輪駆動モデルで走破し、その実力を確かめるというプログラムだが、今回試乗前にスバルの50年以上にもわたる四駆の歴史において、その原点となった「スバルff-1 1300Gバン4WD」を間近で見ることができた。
1972年に国産初となる乗用タイプの四輪駆動車「スバル・レオーネ4WDエステートバン」を発売してから49年目で、スバルの四輪駆動車の累計生産台数は2000万台を超えた。スバルは四輪駆動を全輪駆動(AWD)と称しており、ここでは以降、日本で初めて乗用四輪駆動車を発売したブランドに敬意を表してAWDで統一したいと思う。
そのAWDの累計生産台数が2000万台を超えた2021年6月末時点で、スバルの世界販売台数に占めるAWD車の比率は驚異の98%にも及んだ。それらすべてが水平対向エンジンとの組み合わせによるスバル独自の「シンメトリカルAWD」である。スバルがAWDとニアリーイコールという印象は、決して間違いではないといえる。
シンメトリカルAWDの最大の特徴は、縦置きの水平対向エンジンを核として左右対称にレイアウトされたパワートレインで、「水平対向エンジンのもたらす低重心と優れた重量バランスがAWDの安定性・走破性を最大限に引き出し、あらゆる天候・路面で優れた走行性能を発揮する」と紹介されている。レオーネ4WDエステートバンの発売から半世紀以上、スバルは綿々とこの技術を紡ぎ、スバルといえばAWDと誰もが思うほどにまで磨き上げた。
そうしたスバルを代表するコア技術は、いちディーラーの改造車から始まったというストーリーもまた有名である。スバリストにとってはいまさら感もあるストーリーだが、最初にAWD車を試作したのはディーラーの宮城スバルだった。それは冬季の送電線パトロールや維持管理を含む連絡車として通年使用していたジープの代わりとして、暖房がよく効き乗り心地の良い車両をつくってほしいという東北電力からの要請に応えるものであったという。
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最初に乗用4WD車の開発に着手した宮城スバル
東北電力が運用していたジープは民生用とはいえ、もとをたどれば軍用車だ。走破性こそ他の車両を圧倒していたものの、ほろ付きのミリタリー4WD車は振動が大きく乗り心地や取り回し、暖房の面で問題があり、雪のない日には誰も乗りたがらなかったという。快適性や運転のしやすさなどは二の次で、あくまでも走破性が命だった。しかも故障が多く、燃費も極悪。年間維持費は4億円もかかったそうだ。
そこで東北電力は宮城スバルに対して「前輪駆動の乗用車で後輪も同時に駆動させたら、静かで乗り心地が良く、暖房も効く軽量で燃費のいい四輪駆動車ができるのではないか」と提案。これを受け、宮城スバルが「スバル1000バン」のリアに510型「日産ブルーバード」の後輪駆動システムを組み込み、パートタイム式AWDを採用する試作車を完成させた。この試作車は山形・月山でのテストで、当時としては驚異的ともいえる期待以上の雪上パフォーマンスを発揮したという。
宮城スバルはこの結果をスバル(当時は富士重工業)に上申、本格的な生産化を提案した。これを受けてスバルはわずか4カ月で4台の試作車を開発。最終的に「スバルff-1 1300Gバン4WD」として限定生産され、東北電力に5台、長野・白馬村と飯山農協、防衛庁(当時)にそれぞれ1台ずつ納車された。
こうして培った技術をベースに、市販スバル車初のAWD車として1972年に「レオーネ4WDエステートバン」が発売された。当時の東京地区販売価格は79万8000円だったという。
最初に乗用4WD車の開発に着手したのが、ほかならぬ販社の宮城スバルだったという事実にあらためて驚く。そしてそのアイデアと試作車の開発・製作に対してスバル本社から宮城スバルに支払われた報奨金がわずかであったことに、二度驚く。それは大きな声では言えないが、令和の時代ならジャパンモビリティショーの当日券で大人が1人だけ入場できる金額でしかない。当時のたばこ「ハイライト」が一箱80円、大瓶のビールが一本140円という時代であったとしても、結果論だが後のスバルの屋台骨を支えることになる発想と技術に対しての対価としては……と、ひとごとながら「もうちょっと、ほら」という気持ちになる。
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現行モデルは最も熟成された完成型
宮城スバルはクライアントからの要望を直接製造メーカーに伝える単なるメッセンジャーにはならなかった。「まずはお客さんの希望がかなえられるかどうか、一度自分たちでつくってみよう」とチャレンジした。そのマインドには本当に感服する。
今回のイベントにはスバル謹製のff-1 1300Gバン4WDと並んで、1年以上をかけて宮城スバルがレストアした1970年の「ff-1 1100バン」も展示されていた。聞けばスバルAWDシステムの原点となった宮城スバルの歴史を振り返るために、ff-1をレストアするという全社を挙げた取り組みを行い完成させたものだという。関係者はff-1 1100バンを前に「スバルの前身が航空機メーカーであったことと、宮城スバルがスバルAWDの発祥であることは当社社員全員のDNAに組み込まれています。今回のレストアは宮城スバルの原点を思い出し、スバルAWDの誕生50周年を祝うために企画しました。技術の継承や思想の理解、そしてスバル車に携わっているという誇りを持つこともわれわれの重要なテーマになっています」と語った。
2022年10月に完成したff-1 1100バン(ナンバープレートの数字は製造年の「1970」が選択されている)のレストアストーリーに感銘を受けた翌日、試乗は青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸を臨むポイントからスタート。最初にステアリングを握ったのは「スバル・フォレスター アドバンス」である。
北米では6代目にあたる新型フォレスターが発表されているが、日本導入のアナウンスはされていない。事情通の間では2024年冬に国内デビューするのでは、とささやかれており、つまり現行モデルは最も熟成された完成形と言い換えることができるかもしれない。
フォレスター アドバンスに搭載される2リッター水平対向4気筒エンジンを核とするマイルドハイブリッドの「e-BOXER」は、最高出力145PS、最大トルク188N・mのFB20型に同13.6PS、同65N・mを発生するモーターを組み合わせている。そろりとアクセルペダルを踏めばe-BOXERはモーターのみで走りだすが、いわゆる“EV的な走り”はさほど顕著ではない。
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冬道の過酷な環境下で頼れるブランド
青森市内はほとんどがドライ路面だった。しかし、八甲田山を目指すうちに、路面の積雪が徐々に増えてくる。市内のドライ路面では単に乗り心地のいいSUVとしか思わなかったフォレスターの足がしっかり動き、接地性を確保していたのだと気づくのは、わだちや自然にできた圧雪のうねりを乗り越えたときだ。いわゆるメカニカルグリップが高く安定しているのは、SUVにしては低めの重心と路面や走行状態に応じて前後の駆動力配分を可変制御する「アクティブトルクスプリットAWD」が効いているからだろう。
悪路走破性を高める「X-MODE」を「SNOW・DIRT」に入れ圧雪のワインディングロードで早めにステアリングを切り始めると、緩やかに後輪が外側に動き出す。ノーズがインに向く動きに合わせてボディー後端がスムーズにスライドする様子がステアリングホイールを握る手のひらを通じて示される。雪道での走りは、たまたまその週末に乗った同銘柄のスタッドレスタイヤを装着した北米でのガチライバル車よりもレベルが高いと感じるものだった。
午後は「スバル・クロストレック ツーリング」に乗り換え、酸ヶ湯から青森市内を目指す。パワーユニットは先に試乗したフォレスター アドバンスと基本的には同一となる。ただ、こちらは設計年次が新しいせいか、雪上走行時のキャビンの静かさはフォレスターよりも上。路面からのアタリもソフトで、不用意に突き上げを食らうこともない。
ボディーがコンパクトで全体的にギュッとしたカタマリの中で移動している感覚が強く、車両とドライバーの一体感が増したような印象を抱くのもクロストレックの特徴だ。全体的に動きが軽く、ステアリング操作への反応もタイムラグがない。以前、ドライ路面で乗ったときもそういえば18インチタイヤを履く「リミテッド」よりも、今回と同じ17インチタイヤの「ツーリング」のほうが軽快で好ましかったことを思い出した。
刻一刻と路面状況が変わる雪国の冬道でも緊張せずにステアリングが握れるのは、スバルに(私が勝手に)寄せる信頼感があってのものか。それとも、わが家の初代「レオーネ」(だたしFF車)でスキー場に連れて行ってもらった、幼少期の楽しかった記憶が深く刻まれているからか。いずれにしても、スバルが冬道の過酷な環境下でも頼れるブランドであることは間違いない。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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