BMW iX2 xDrive30(4WD)/X2 M35i xDrive(4WD/7AT)
したたかでしなやか 2024.02.29 試乗記 「BMW X2」がフルモデルチェンジ。ハッチバック車を上げ底したような先代モデルからスタイリングが一変したほか、サイズもググっと拡大。さらに電気自動車(BEV)の「iX2」も設定された。ポルトガルでドライブした印象をリポートする。スタイリングありきのモデルチェンジ
BMWのSUVラインナップは、奇数群が実用ベストのパッケージングであるのに対して、偶数群はファストバックのスポーツクーペ的な位置づけを志向している。彼らの社内的呼称でも前者が「SAV」(Aはアクティビティーの略)なのに対して、後者は「SAC」だ。当然クーペの頭文字をいただいている。
そのなかで、X2はちょっと文脈が異なる存在にうかがえた。短い全長にこだわったのか、後端はファストバックというよりはハッチバックのようで、スペシャリティー感には乏しかったように見える。形状的にもっと振り切って兄貴分たちに寄せる。今回のフルモデルチェンジの主目的のひとつはスタイリングの改変だったのだろう。
新型は後端にちょっぴりノッチを加えたファストバックフォルムで、「X4」や「X6」とのつながりを感じさせるものとなった。ただし全長は約200mm増の4555mmと、車格的には別物になっているところは賛否が割れるだろう。ちなみに車体の伸長分は空力特性に反映されており、Cd値はX2で0.27、開口部の小さいBEVのiX2では0.25とこの手のクルマとしては優秀なスコアとなっている。
日本では3グレードを展開
X2のプラットフォームは前型と同様の「UKL2」をベースに、電動化を想定したモディファイが加えられた「FAAR」を採用している。ホイールベースは2690mmと「X1」と同じだ。加えて言えば新型「MINIカントリーマン」もホイールベースは2690mm。つまりこの3モデルは骨格やパワー&ドライブトレインといった主要どころを共有しながら、おのおのの持ち味を高めていこうという策をとっているのだろう。
日本仕様は、X2が「xDrive20i」と「M35i xDrive」の2グレード、BEVのiX2が「xDrive30」の1グレードと、当面は3グレードの展開となる。20iとM35iが搭載するエンジンは同じB48系の2リッター4気筒直噴ツインスクロールターボで、前者は最高出力204PS/最大トルク300N・mを、後者は317PS/400N・mを発生。トランスミッションはともに7段DCTを採用し、ドライブトレインは多板クラッチを油圧制御し最大で50%のトルクを後輪に配分するオンデマンド四駆=xDriveとなる。
BEVのiX2は140kW/247N・mのアウトプットを持つモーターを前後軸に搭載。システム総合では200kW/494N・mとなる。PSに換算すると272PSということで、自然吸気のガソリンユニットになぞらえるなら、4リッター級のパワーと5リッター級のトルクを有するわけだ。こちらは独立2モーターで駆動配分という概念のないxDriveということになる。バッテリー容量は66.5kWhと「iX1」と同じ。日本仕様のデータはまだ出ていないが、前述の良好な空力特性もあり、一充電走行距離はiX1の465kmと同等、もしくはそれ以上になるだろう。
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クーペスタイルでも十分な実用性
X2の大きな特徴は、BMWの最新車載オペレーティングシステム「BMW OS 9」を初実装したことだ。ソフトウエアディファインドを前提にアプリによる拡張性を一気に広げたこのOSが、2025年以降に投入予定のBEV専用アーキテクチャーによる「ノイエクラッセ」シリーズの基礎となることは想像に難くない。一例として日本仕様においては『NHKオンデマンド』や『TVer』といったオンデマンドAVと連携したアプリの開発なども検討されているという。
今後、OS 9がどのようなかたちで他のモデルに適合するかは定かではないが、X1や「5シリーズ」「7シリーズ」といった直近のモデルではアップデートによる対応となるのだろう。ともあれX2は先取り的なデジタル体験ができるモデルとして、モバイルコンピューティングの方面でも注目を集めそうだ。
内装もX1に準拠した意匠となっており、ブリッジ型センターコンソールにはトグル型のシフトレバーやドライブモード切り替え、ハザードスイッチなどが配される。OS 9はカーブドディスプレイのタッチコントロール、もしくはAI対話型ボイスコントロールでの操作を前提としており、iDrive用ロータリーコマンダーは廃された。グレードによってはダッシュボードやドアトリムなどにアルカンターラを貼り込み、スポーティネスを強調している。
新型X2が望外なのは、クーペ的な位置づけでありながら実用面にほぼネガが感じられないことだ。後席は足元も広く、着座姿勢や視点も適切な角度が保たれる。頭上空間も抜けまくっているわけではないが、181cmの筆者が座ってもトリムに髪が触れるほどの圧迫感はない。ただしBEVのiX2はバッテリー搭載の関係で、後席床面が上がっている。大柄な乗員は座面からもも裏が浮いてしまうので、足を伸ばし気味に座ることになるだろう。ちなみに荷室容量は560リッターと実はX1よりも大きく、BEVのiX2でも525リッターが確保されている。
クルマ屋としての良識
iX2が印象的なのはパワートレインのマナーのよさだ。0-100km/h加速5.6秒と数値的にも十分に速いが、BEVの場合は特性的にその速さが前半の側にぎゅっと押し込まれる。iX2は加速のすごさよりリニアリティーを重視したセットアップとなっており、速さのなかにもドライバーの望む力がしっかりと引き出せるコントロール性の高さが備わる。これはiX1でもみられたもので、BMWのクルマ屋としての良識といえるだろう。
乗り心地は低速域で若干荒いところを感じるが、速度が高まればぐっと落ち着いた路面アタリになってくる。18インチタイヤが標準設定となるiX1はこの点も洗練されていたが、今回のiX2の試乗車はオプションの20インチを履いており、標準の19インチであれば印象もまた変わりそうだ。
その点、最もスポーティーなガソリンモデルのM35iは低速域から抜群のフットワークをみせてくれた。履くタイヤも同じ「ピレリPゼロ」だが、低速域から乗り心地はこなれており、荒れた路面状況でも不快要素は感じられない。同級のモデルの水準からみても、そのライドフィールのレベルは相当高いところにある。
そのうえ、iX2に比べると重量差もあって運動性能は至極軽やかだ。重心的な不利をものともせず、きっちり路面を捉え続けていくあたりはシャシー能力の高さに加えて駆動側の助力も大きいのだろう。BMWの横置き系四駆の歴史も軽く10年以上になるが、相当こなれてきた印象だ。M35iほどの速さはいらないということであれば、同じ四駆システムを採用する20iでも十分パワフルかつスポーティーに振る舞ってくれるだろう。形状的な印象どおりのスポーティネスは備えながらも、家族のファーストカーとしても十分通用する。新しいX2はそういう柔軟性の高さが売りのモデルといえる。
(文=渡辺敏史/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW iX2 xDrive30
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4555×1845×1560mm
ホイールベース:2690mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:190PS(140kW)
フロントモーター最大トルク:247N・m(25.2kgf・m)
リアモーター最高出力:190PS(140kW)
リアモーター最大トルク:247N・m(25.2kgf・m)
システム最高出力:272PS(200kW)
システム最大トルク:494N・m(50.4kgf・m)
タイヤ:(前)245/40R20 99Y XL/(後)245/40R20 99Y XL(ピレリPゼロ)
交流電力量消費率:17.7-16.3kWh/100km(WLTPモード)
一充電走行距離:417-449km(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
BMW X2 M35i xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4555×1845×1575mm
ホイールベース:2690mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:317PS(233kW)/5750-6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)245/35R21 96Y XL/(後)245/35R21 96Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:8.0-7.7リッター/100km(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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