多田さんは“慣らし運転”をしますか?

2024.03.05 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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新車を買うと「まずは慣らし」と意気込んだものですが、製品の精度が上がったであろう今のクルマでも“慣らし運転”は要るのでしょうか? 多田さんご自身は実施されますか? されるようであれば、慣らしのコツなどお聞かせください。

技術的に言うと、「慣らしなんてほとんど必要ないですよ」という回答になりますね。だいたいメーカーもそう言っているし、自分でもそう思います。おっしゃるとおり、今や部品の工作精度が格段に上がっているので、昔のように「エンジン内から(パーツの摩耗により生じる)切り粉がザクザク出てくる」なんてことはありません。

おろしたての状態からいきなりサーキットで全開にするといった極端なことをしなければ、走行1000km、2000kmくらいまでの初期でも特別に気を使って走らせる必要はありません。私は公式にもそう答えています。

しかし、自分のクルマについては、慣らし運転はします(笑)!

昔は本当に慣らしが必要だったんです。だからそういう風習があって……というのも理由としては半分くらいはありますけれど、何より、自分のクルマは少しでもいい状態だったほうがうれしいし、慣らしをしている間は「新車を買った」という気分に浸れて楽しいのです。「気を使って運転してあげる」というのがクルマへの愛情表現になるし。こんなことは、買ったその時にしかできないじゃないですか。

だから、どちらかというと、慣らしは「自分の楽しみとして」ですね。最初の儀式、楽しいお付き合い、お世話としてやっています。

あらためて言うと、冒頭で述べたように、今や慣らし運転自体は必ずしも必要ではありません。でも、「やる/やらないで差は出るのか?」と問われれば、本当にごくわずかのことでしょうが「出る」とは言えます。機械モノですから、まったく無意味、というわけでもありません。

では、やる場合、具体的にどうするのがいいのか? まず、最初の500kmくらいは極力、信号が少なく70~80km/hくらいの一定速度、一定のエンジン回転数で走り続けられるところ……現実的には、自動車専用道路や高速道路に持っていき、加減速せず、アクセル操作は一定で走るようにする。

500kmを過ぎたら、一般道を含め、意図的に多少の加減速をしながら走らせる。要は、エンジン以外の部分(トランスミッションから足まわりまで)をなじませるということです。

1000km走ったら、エンジンオイルとオイルフィルターを交換。以後は、ふつうに乗っていいと思います。安全な範囲で、あえて全開にするもよし。以上はまぁ、あくまで私の経験によるものですが(笑)。

例えばポルシェ。私がトヨタでさまざまなポルシェをテストしてきた記憶では、決まって走行5000kmくらいから「これこれ、これぞポルシェ!」という良いコンディションになりました。そして、それが2万kmくらいまで続く。同様に、ほかのクルマでも、初期は“渋い感じ”があるものです。その意味で、慣らしは絶対ではないけれど、いいことだとは思います。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。